もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ

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閑話 話

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(いいなあ)
 ハジェルは少し前を歩く、高い背丈を追いかける。
 エドワルド・ウルガー。
 ダイチ・サエキの血を引く、ユリアレーナ最強の冒険者。母親のヘルミーナも、女性でありながらSランクまで登り詰めた女傑。2人の兄はそれぞれに名を馳せている。長男は白騎士団出身の文官、いずれ宰相候補と呼ばれる補佐官。そして次男は赤騎士団准将、騎士団最強と詠われている。ユリアレーナが誇るウルガー三兄弟。
(いいなあ)
 自分は廃村の孤児。生まれだけでも、否応もなく差を突きつけられた思いだ。だからと言って自分が不幸だとは思わない。だって、自分には頼りになる兄と、逞しくて優しい姉がいるから。孤児院での生活も、いつもかつかつだったけど、院長先生もシスター達も、孤児達も暖かかった。
 冒険者になって引き受けてくれたリーダーのロッシュは、厳しいがその根底には強い責任感と、優しさがあることは分かっていた。ラーヴはロッシュのフォローをしながら気遣いをしてくれる。シュタインも頼れる兄貴分だし、冒険者となって知り合った同期のマアデンは何年も前からの友達のように仲良くなった。
 だけど。
(いいなあ)
 いつまで経っても伸びない背。もともと小柄な部類だったが、成人しても姉の背丈にも届かなかった。ロッシュ達の指導で訓練しても、たくさん食べても背が伸びない、筋肉が付かない。そのせいか、何度も立て続けて矢を引けない。せいぜい3本が関の山だ。弓を扱えるホークやリィマや、ケルン、エリアンの姿を間近に見ると、情けなくて仕方ない。
 自分だって、役に立ちたい。役に立ちたいのに。
 目の前にいるのは、頭1つ自分より高い背丈、鍛え上げられた身体を持つ、Sランク冒険者。
(いいなあ、背が高くて、強くて、格好よくて)
 優衣達と同じ、黒髪、黒い目、そして端正な横顔。顔立ちのいいケルンの側にいると、見逃されるが、エドワルドは整った顔立ちをしている。魅力のある大人の男性の姿だ。童顔のハジェルには羨ましくて、仕方ない。
「おい、おい」
「あ、はい」
 ぼんやりしていたら、エドワルドに呼ばれ、立ち止まる。緑の屋根のコテージのウッドデッキの近くまで来ていた。ぼんやりしていたから怒らせてしまったかと、ハジェルが縮み上がる。エドワルドは腰に手を当て、こちらを見ている。
「俺はエドワルド・ウルガーだ。君、名前は?」
「あ、あ、ハジェルっす。あ、です」
 いつもの口調になってしまった。あれだけロッシュから注意されていたのに。
「ハジェルか、そこに座れ」
 機嫌を損ねなかったか心配だったが、杞憂だったようだ。
「はい、失礼、します」
 また、っす。が出そうになり、ぐっと我慢する。
 ハジェルは示された、ベンチに腰かける。エドワルドはウッドデッキの柵に寄りかかるよう立つ。
「では、ハジェル。後発成長、意味は分かるか?」
 前置きなく始まる。ハジェルは聞かれた言葉から推察する。
「えっと、成長が遅く出る?」
「まあ、そう感じるだろうな。後発成長ってのはエルフ特有の成長の事を言う。例えば男の場合は、声変わりとかの第二次性徴が他の種族に比べて出現が遅く、また、その期間は長い。これは他の種族の血が混ざる、つまりハーフはおかしな具合になるんだ。詳しく事例を説明すると混乱するだろうから、端的に言おう。ハジェルの場合は背丈だな」
 はっきりと言い放ったエドワルドの説明に、ハジェルが煮詰めていた悩みが、ストン、と落ち着く。落ち着くが、別の意味で心臓が打ち出す。ハジェルはもうすぐ18歳。人族なら既に成長が止まる頃だ。エドワルドの話を聞いて、希望が溢れてくる。
「なら、なら、俺、まだ、背が伸びるっすかっ?」
 ロッシュがいたら、語尾と注意が飛ぶが、言い直す余裕がないほど、ハジェルの心臓が打ち出している。
「役に立てるっすかっ?」
「落ち着け」
 興奮し始めたハジェルに、エドワルドは落ち着いた声で嗜める。
「気持ちは分からない事はないが、これに関しては後発成長がいつ始まるかはっきり分かっていない」
 サー、とハジェルの顔が絶望する。
(そんな、そんな。そんなに時間がかかったら、見習い期間終わっちゃうっす。リーダー達の役にも立てない……………)
 見習いとしてパーティーに所属している新人冒険者は、その見習い期間が終わると、ほとんどがパーティーに残留する。残留するにも、そのパーティーにとって必要だと思われなければ、断られてしまう。ハジェルはそれが怖かった。
 因みにフェリクスは見習い期間のみ新人を受けて、巣立たせている。ロッシュの様に。そして、次の新人冒険者を途切れず引き受けている。
 エドワルドがユリアレーナ最強と呼ばれているが、フェリクスは冒険者としての実力、新人を途切れされない姿勢、その指導力でこう呼ばれている。最良の冒険者だと。
「焦るな」
 エドワルドは一喝。びくり、と半分腰を上げていたハジェルは、ベンチに座り直す。
「新人期間が終わって、放り出されるのが恐いか?」
 まるで、ハジェルの不安が分かっているかのように話すエドワルド。
「それとも、役に立てない自分が嫌か?」
 ハジェルは反論できない。反論できないが、腹の奥底から、ふつふつと沸き上がる感情は、焦り? ただ、落ち着き払ったエドワルドに、沸き上がる感情はなんだ? ただ、表情ひとつ変えず淡々と話すエドワルドに対して、沸き上がる感情。
「…………………エドワルドさんには、わからないっすよ……………」
 絞り出すように、言葉が出る。
 言ってはダメだと、心の奥底では分かっているのに。
「凄い血筋で、ウルガーで、凄い兄ちゃん達がいて、母ちゃんがいて……………背が高くて、強くて、魔法だって、凄くて……………」
 膝の上で握りしめた、拳を見つめる。
 エドワルドと自分は、生まれながら、違う。きちんと両親がいて、貴族で、お腹だって減ったことないだろうし、暑さにも、寒さにも晒された事だってないはず。分かっていたのに、さらに突きつけられて、ぐうの音も出ないほどに悔しくて。大討伐の時、優衣に誘われたゴブリンの巣の時に、まざまざと見せつけられた、Sランク冒険者の実力を。
「エドワルドさんには、わからないっすよ………………」
 薄々自覚した、自分が冒険者に向いてない体格だと、問答無用に突きつけられた思いだ。いつくるかわからない後発成長を待っている程の余裕はない。パーティーのお荷物にだけはなりたくなかった。
 それを自分が欲する全てを持っているエドワルドに言われるのだけは、
「エドワルドさんには、わからないっすよっ。そんなこと言われたくないっすっ」
 嫌だった。
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