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閑話 金の虎のリーダー
「ああああぁぁぁぁぁぁっ」
久しぶりの風呂。蓄積した澱みが流れ出す、そんな気持ちよさ。まず、浸かる前に、シャワーであらかた汚れを落としたが、排水口が詰まるんじゃないかと心配した。
昨日、あのテイマーさんと再会した。いや、救助してもらった。最強の呼び声高いエドワルド・ウルガーが所属し近隣諸国でも最強と呼ばれるラスチャーニエ、最高の冒険者と詠われるフェリクスが率いる蒼の麓が同行していたから、どこか安心感があった。撤退を決めるまでは、問題はなかった、なかったのだ。
食糧の残量と、ポーション類を確認して、ケルンとフェリクスの決断は早かった。
「撤退だな。フェリクスは?」
「異論はありません」
こちらにも確認されたが、拒否するわけない。相手は格上な上に、冒険者としての経験年数は何倍もある。従わない方がバカだ。
だが、それが運の尽きだったのか、狙い済ましたように魔物に襲われた。
テイマーさんに救助されるまで、生き残れていたのは、ラスチャーニエと蒼の麓が同行していてくれたからだ。山風とだけなら、ここまで深い魔の森に挑めなかったし、生還も出来なかった。
連戦に次ぐ連戦。
トロールに弾き飛ばされたフェリクスのフォローの為に、その攻撃を防ぎ続けたのはツヴァイクだった。ガリストならおそらく数撃も持たない。それを微動だにせず防ぎきった。盾の質も、使う属性魔法の威力も格段に上なんだろうが。まざまざと格上だと見せつけられた。
あのユリアレーナ最強のエドワルド・ウルガーが、トロールと対峙していたが、旗色は悪い。それもあったが、自分は自分の事で精一杯だった。
フリンダが今にも倒れそうだ。リィマの矢は尽き、剣を振るっているが、腕を辛うじて振っている。アルスはまだ動けているが、いきなり事切れたように倒れる為、目が離せない。自分の腕だけではない、全身が悲鳴を上げてる。
不味い。
そう、嫌な予感が背中を走った瞬間。
隙間を縫って、オルクが尖った木の槍もどきを繰り出している。その先には別のオルクと対峙していたガリスト。
フォロー。
間に合わない。
アルスが繰り出した剣先が、オルクの首を掻ききった瞬間、槍の先程が、ガリストの左足を直撃。崩れ落ちそうになり、何とか自分がフォローに入り、オルクを蹴り飛ばし、ガリストが対峙していたオルクを袈裟斬りにする。苦悶の表情のガリスト。フリンダが治療しようとしているが、一向に良くなる気配がない。
近くで展開していた山風もリーダーのロッシュが負傷し、他のメンバーが必死に武器を振り回している。
辛うじてフェリクスが立ち上がっているが、ふらふらだ。蒼の麓はエリアンとドーラが武器を振り回し、アンドレアスがフェリクスとヘルトとドロテアを守ろうと奮闘している。
ラスチャーニエはトロールに集中している。
視界の中で、森からわらわらとオルク達が沸いて出ている。
不味い、不味い、不味い。
剣を持つ手の力が、入らない。
「ヴァンッ」
ウルフ系魔物の声。響く、大きな打撲音。
あの巨体のトロールが、軽石の様に吹き飛んでいる。
白い美しい毛並み、青と緑のオッドアイ、青いバンダナ。
フォレストガーディアンウルフ。
あの、忘れもしない、ゴブリンの巣を瞬く間に壊滅させたフォレストガーディアンウルフだ。あのテイマーさんが近くにいる。あれを従魔にしているのは、あの黒髪のテイマーだけ。
そう認識した瞬間、フォレストガーディアンウルフが、ふん、と鼻息。
ズドンッ
地面から木の根が飛び出して、オルクの身体を貫通する。
まるで、人形の様に、無惨に力なく地面に放り出されていく。
ああ、助かった。助かったが、だが、何だろう、違和感がある。
あれは、あのテイマーさんがビアンカと呼んでいた、フォレストガーディアンウルフなのか? 微妙に違う。大きいし、スレンダーだ。そう思うと、ますます違うように見える。
「あれ? ゲ、ゲンキ君?」
山風のハジェルが呟く。
そうだ、それだ、あのフォレストガーディアンウルフの雄だ。確かに、あのゲンキと呼ばれたウルフの雄だ。
…………………ちょっと待て、この短期間であんなにでかくなるのか?
ガリストの様子を見たかったが、新たに出てきたオルク達に、それどころではない。中に、通常より大型のオルクが。
ケルンが倒れているオルクから、矢を引き抜き構えた。その姿に、脱力しているのに気付いて、剣を握り締めなおす。
ズドンッ
「……………………え?」
空から矢より早いスピードで突き刺さるように、大型オルクを地面に叩きつけているのは、本の中でしか聞いたことのない魔物。
獅子の身体、巨体な翼、鋭い鉤爪。
グリフォン。
ちらり、とこちらを見た。違う、一瞥された。
ゾクウッ、と背筋が凍る。
絶対的強者だと、直感したが、アルスが小さく、怖いと呟いて、現実に引き戻される。
それから怒涛の展開だった。
わらわらとオルクが出てくるし、更にグリフォンは来るし、確実にテイマーさんのあの従魔だと確信できる、茶色の目のクリムゾンジャガーの姿と、あの人懐っこいゲンキと呼ばれたウルフが来た。あ、知ってる方のウルフだ。
テイマーさんの従魔達のおかげで、オルクやトロールが撃退でき、奇跡的に犠牲者は出なかった。
ノワールと呼ばれる黒い魔法馬に騎乗して駆けつけてくれた、テイマーさんの戦闘奴隷から渡されたポーションで、ガリストの傷はほとんど塞がった。倒れる寸前だったフリンダは、魔力が枯渇していたため、魔力回復ポーションで落ち着いた。
落ち着いたフリンダがやっと治療再開した頃に、テイマーさんが他の戦闘奴隷と合流。
そのあとが更に大変だった。
新しく期間限定に従魔になったと紹介されたが。
この人、本当に何者なんだろうと思った。
あのアレスというフォレストガーディアンウルフは、もともと従魔にしているビアンカの兄だそうで、納得した。ビアンカの仔のゲンキがそっくりだからだ。それからアーマー系ウルフ、雌では頂点に立つ、アーマークイーンウルフ。そして、その仔、4匹。これはたまらなくかわいい。数年したら、母親や父親の様になるのか、と思うが、かわいい。
で、グリフォン。やたら迫力があるのは、上位種のエンペラーグリフォンだと。雄かと思ったら、雌だと聞いてびっくり。しかも、あのフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーが勝てない程の個体らしい。さっきアレスというフォレストガーディアンウルフの頭を押さえつけていた。しかも気軽に「イシスー」とか呼んでたが。
ドラゴン並みに珍しいグリフォン達に、ウルフ系頂点にいる番。そして、その仔。ただでさえ、ビアンカとルージュという2体だけでも、恐ろしい戦闘力を秘めているのに、更に何倍にもなってる。
おそらく、国が騎士団を投入しても、討伐不可能かもしれない。問題はそれだけの戦力だと、テイマーさん本人が、気がついていない様子だ。今後あの人大丈夫なんだろうか? まあ、従魔が黙って主人を危険に晒すわけないか。
「やめだ、やめだ、今はテイマーさんに感謝だ」
ファングは頭を振り、湯船から上がる。
ルームと言う、超特殊スキルを晒してまで、自分達を救ってくれた。安全地帯まであの豪雨の中、馬に揺られながらも走ってくれた。テイマーさんの母さんが作ってくれた、温かいスープ。涙がでそうなくらい、旨かった。調子の悪いフリンダの為にベッドを提供し、今も気にかけてくれている。ただの知り合い程度の自分達に。
そして、このコテージ。まるで高級宿のような設えに、気圧されはしたが、ありがたく使わせてもらう。
ふわふわの真っ白なタオルで拭いていると、鏡に自分の身体が映る。
「……………歳、くったなあ」
今年で40になった。
冒険者登録して20年が経つ。当初背丈はあっても、いろいろあって痩せていた身体が、今ではしっかりと筋肉も付いた。おそらく今が最高潮なんだろう、その身体に刻まれたキズ。顔を見ると、冒険者になりたての時より、確実に歳を重ねた顔、40の顔だ。年齢はあるが、まだ、ファングは現役を通せる。ただ、いつまでも、と言うわけにはいかないが。
ガリストは自分より2つ上、フリンダは7つ下。
ガリストはまだ現役を通せるが、フリンダはあと何年続けられるか。
こちらの世界には、レベルがある。その為、レベルが高いと基礎のポテンシャルにそのレベルに応じた+の恩恵がある。だが、それは基礎となる肉体があってこそだからだ。フリンダは身体が弱かった。今でこそ、ある程度の運動量をこなせるが、出会った頃、まだ二十歳にもなってなかったのに、四十近くに見えるように老け込んでいた。
あの2人と出会ったのは10年以上前、ファングが冒険者になり、無茶をしていた頃。
あの頃は、今とは別人の様に、3人とも荒みきっていた。
久しぶりの風呂。蓄積した澱みが流れ出す、そんな気持ちよさ。まず、浸かる前に、シャワーであらかた汚れを落としたが、排水口が詰まるんじゃないかと心配した。
昨日、あのテイマーさんと再会した。いや、救助してもらった。最強の呼び声高いエドワルド・ウルガーが所属し近隣諸国でも最強と呼ばれるラスチャーニエ、最高の冒険者と詠われるフェリクスが率いる蒼の麓が同行していたから、どこか安心感があった。撤退を決めるまでは、問題はなかった、なかったのだ。
食糧の残量と、ポーション類を確認して、ケルンとフェリクスの決断は早かった。
「撤退だな。フェリクスは?」
「異論はありません」
こちらにも確認されたが、拒否するわけない。相手は格上な上に、冒険者としての経験年数は何倍もある。従わない方がバカだ。
だが、それが運の尽きだったのか、狙い済ましたように魔物に襲われた。
テイマーさんに救助されるまで、生き残れていたのは、ラスチャーニエと蒼の麓が同行していてくれたからだ。山風とだけなら、ここまで深い魔の森に挑めなかったし、生還も出来なかった。
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トロールに弾き飛ばされたフェリクスのフォローの為に、その攻撃を防ぎ続けたのはツヴァイクだった。ガリストならおそらく数撃も持たない。それを微動だにせず防ぎきった。盾の質も、使う属性魔法の威力も格段に上なんだろうが。まざまざと格上だと見せつけられた。
あのユリアレーナ最強のエドワルド・ウルガーが、トロールと対峙していたが、旗色は悪い。それもあったが、自分は自分の事で精一杯だった。
フリンダが今にも倒れそうだ。リィマの矢は尽き、剣を振るっているが、腕を辛うじて振っている。アルスはまだ動けているが、いきなり事切れたように倒れる為、目が離せない。自分の腕だけではない、全身が悲鳴を上げてる。
不味い。
そう、嫌な予感が背中を走った瞬間。
隙間を縫って、オルクが尖った木の槍もどきを繰り出している。その先には別のオルクと対峙していたガリスト。
フォロー。
間に合わない。
アルスが繰り出した剣先が、オルクの首を掻ききった瞬間、槍の先程が、ガリストの左足を直撃。崩れ落ちそうになり、何とか自分がフォローに入り、オルクを蹴り飛ばし、ガリストが対峙していたオルクを袈裟斬りにする。苦悶の表情のガリスト。フリンダが治療しようとしているが、一向に良くなる気配がない。
近くで展開していた山風もリーダーのロッシュが負傷し、他のメンバーが必死に武器を振り回している。
辛うじてフェリクスが立ち上がっているが、ふらふらだ。蒼の麓はエリアンとドーラが武器を振り回し、アンドレアスがフェリクスとヘルトとドロテアを守ろうと奮闘している。
ラスチャーニエはトロールに集中している。
視界の中で、森からわらわらとオルク達が沸いて出ている。
不味い、不味い、不味い。
剣を持つ手の力が、入らない。
「ヴァンッ」
ウルフ系魔物の声。響く、大きな打撲音。
あの巨体のトロールが、軽石の様に吹き飛んでいる。
白い美しい毛並み、青と緑のオッドアイ、青いバンダナ。
フォレストガーディアンウルフ。
あの、忘れもしない、ゴブリンの巣を瞬く間に壊滅させたフォレストガーディアンウルフだ。あのテイマーさんが近くにいる。あれを従魔にしているのは、あの黒髪のテイマーだけ。
そう認識した瞬間、フォレストガーディアンウルフが、ふん、と鼻息。
ズドンッ
地面から木の根が飛び出して、オルクの身体を貫通する。
まるで、人形の様に、無惨に力なく地面に放り出されていく。
ああ、助かった。助かったが、だが、何だろう、違和感がある。
あれは、あのテイマーさんがビアンカと呼んでいた、フォレストガーディアンウルフなのか? 微妙に違う。大きいし、スレンダーだ。そう思うと、ますます違うように見える。
「あれ? ゲ、ゲンキ君?」
山風のハジェルが呟く。
そうだ、それだ、あのフォレストガーディアンウルフの雄だ。確かに、あのゲンキと呼ばれたウルフの雄だ。
…………………ちょっと待て、この短期間であんなにでかくなるのか?
ガリストの様子を見たかったが、新たに出てきたオルク達に、それどころではない。中に、通常より大型のオルクが。
ケルンが倒れているオルクから、矢を引き抜き構えた。その姿に、脱力しているのに気付いて、剣を握り締めなおす。
ズドンッ
「……………………え?」
空から矢より早いスピードで突き刺さるように、大型オルクを地面に叩きつけているのは、本の中でしか聞いたことのない魔物。
獅子の身体、巨体な翼、鋭い鉤爪。
グリフォン。
ちらり、とこちらを見た。違う、一瞥された。
ゾクウッ、と背筋が凍る。
絶対的強者だと、直感したが、アルスが小さく、怖いと呟いて、現実に引き戻される。
それから怒涛の展開だった。
わらわらとオルクが出てくるし、更にグリフォンは来るし、確実にテイマーさんのあの従魔だと確信できる、茶色の目のクリムゾンジャガーの姿と、あの人懐っこいゲンキと呼ばれたウルフが来た。あ、知ってる方のウルフだ。
テイマーさんの従魔達のおかげで、オルクやトロールが撃退でき、奇跡的に犠牲者は出なかった。
ノワールと呼ばれる黒い魔法馬に騎乗して駆けつけてくれた、テイマーさんの戦闘奴隷から渡されたポーションで、ガリストの傷はほとんど塞がった。倒れる寸前だったフリンダは、魔力が枯渇していたため、魔力回復ポーションで落ち着いた。
落ち着いたフリンダがやっと治療再開した頃に、テイマーさんが他の戦闘奴隷と合流。
そのあとが更に大変だった。
新しく期間限定に従魔になったと紹介されたが。
この人、本当に何者なんだろうと思った。
あのアレスというフォレストガーディアンウルフは、もともと従魔にしているビアンカの兄だそうで、納得した。ビアンカの仔のゲンキがそっくりだからだ。それからアーマー系ウルフ、雌では頂点に立つ、アーマークイーンウルフ。そして、その仔、4匹。これはたまらなくかわいい。数年したら、母親や父親の様になるのか、と思うが、かわいい。
で、グリフォン。やたら迫力があるのは、上位種のエンペラーグリフォンだと。雄かと思ったら、雌だと聞いてびっくり。しかも、あのフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーが勝てない程の個体らしい。さっきアレスというフォレストガーディアンウルフの頭を押さえつけていた。しかも気軽に「イシスー」とか呼んでたが。
ドラゴン並みに珍しいグリフォン達に、ウルフ系頂点にいる番。そして、その仔。ただでさえ、ビアンカとルージュという2体だけでも、恐ろしい戦闘力を秘めているのに、更に何倍にもなってる。
おそらく、国が騎士団を投入しても、討伐不可能かもしれない。問題はそれだけの戦力だと、テイマーさん本人が、気がついていない様子だ。今後あの人大丈夫なんだろうか? まあ、従魔が黙って主人を危険に晒すわけないか。
「やめだ、やめだ、今はテイマーさんに感謝だ」
ファングは頭を振り、湯船から上がる。
ルームと言う、超特殊スキルを晒してまで、自分達を救ってくれた。安全地帯まであの豪雨の中、馬に揺られながらも走ってくれた。テイマーさんの母さんが作ってくれた、温かいスープ。涙がでそうなくらい、旨かった。調子の悪いフリンダの為にベッドを提供し、今も気にかけてくれている。ただの知り合い程度の自分達に。
そして、このコテージ。まるで高級宿のような設えに、気圧されはしたが、ありがたく使わせてもらう。
ふわふわの真っ白なタオルで拭いていると、鏡に自分の身体が映る。
「……………歳、くったなあ」
今年で40になった。
冒険者登録して20年が経つ。当初背丈はあっても、いろいろあって痩せていた身体が、今ではしっかりと筋肉も付いた。おそらく今が最高潮なんだろう、その身体に刻まれたキズ。顔を見ると、冒険者になりたての時より、確実に歳を重ねた顔、40の顔だ。年齢はあるが、まだ、ファングは現役を通せる。ただ、いつまでも、と言うわけにはいかないが。
ガリストは自分より2つ上、フリンダは7つ下。
ガリストはまだ現役を通せるが、フリンダはあと何年続けられるか。
こちらの世界には、レベルがある。その為、レベルが高いと基礎のポテンシャルにそのレベルに応じた+の恩恵がある。だが、それは基礎となる肉体があってこそだからだ。フリンダは身体が弱かった。今でこそ、ある程度の運動量をこなせるが、出会った頃、まだ二十歳にもなってなかったのに、四十近くに見えるように老け込んでいた。
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