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閑話 ローザ伯爵家
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ウィンティアが夕食時に嘔吐した後、駆けつけた監査官による検査や尋問が行われた。
配膳したメイド、作ったシェフ、テーブルセットをしたメイドは厳しく尋問された。
しばらくして、ナタリアがウィンティアが吐いて汚れたワンピースを持ってきた。
「ウィンティア嬢の様子は?」
「よく休まれています」
「そう」
マルカはナタリアに下がる指示を出す。頭を下げてナタリアは下がる。それ以外の使用人は食堂の隣の部屋で缶詰だ。
監査官がウィンティアの吐瀉物から薬物の存在は無いことが確認を取れて、やっと片付けだ。
その間に、マルカとウィンティアを診察した女医は、ローザ伯爵夫妻と向き合っていた。
「ウィンティア・ローザ嬢の嘔吐原因は薬物ではあませんが、心因性でしょう。まあ、これだけの仕打ちを受けていたのです、当然でしょうね」
先ほどまで優しくウィンティアを診察していた女医が、軽蔑は眼差しで資料を前のテーブルに投げるように出す。
ばさっ、と音を立てる資料。それにはウィンティアが受けていた仕打ちが、克明に記されている。
その音にびくりと震えるクラーラ夫人。
「私は食事の同席は同意しかねません。今後もこのような症状がでれば、別の生活圏を提案します」
女医はそれだけ言うと、立ち上がる。
「遅くまでありがとうございます」
マルカが見送り、ローザ伯爵夫妻が深く頭を下げる。女医は少し背中を曲げて、執事が開けたドアの向こうに消えていく。
「では、ローザ伯爵。色々お聞きしたい事があります」
何かの宣告のような雰囲気となり、ソファーに座り直し、マルカは顔色の悪い夫妻と向き合う。
「先ほどのご長女のあれは一体なんですか?」
すべての質問の意味を込めて。
「……………私共もあまりの事で」
ローザ伯爵、ジョージが声をため息のように吐き出す。
「ウィンティアの件は前からキャサリンに何度も話していました。何度もです。しかし、その話になるとキャサリンは話をまともに理解しなくなるんです」
「理解していなければ、説明もへったくれもありません。あなた方は、ウィンティア嬢の受け入れ体制は整っていると申請しましたね。これは虚偽と取っても?」
「違いますっ、我々はウィンティアと向き合いたいんですっ」
マルカはすっ、と女医が投げた資料を示す。
とうとうクラーラ夫人が完全に項垂れる。
「自分達が何をしたか、分かっていますか?」
「分かっています。許されるとは思っていません。でも、せめて、ウィンティアの将来の選択権を増やしてあげるのが、我々のせめてもの贖罪です」
ローザ伯爵家が提示したウィンティアに対するものは、ユミル学園に入学だけではない。もし、学園に馴染めなかった場合や、コクーン修道院に戻った場合、貴族女性として生きる場合、貴族を離れ職業婦人として生きる場合など様々な対応策を提示した。そして婚約者の存在。それからが認められ、国とコクーン修道院からやっとウィンティアの帰郷が許された。それには二年の時間を要した。
「分かっているのなら、ご長女の教育を徹底してください。セーレ商会になくてはならない存在だとしてもです。彼女は無意識で無神経な振る舞いは、悪意を覚えます。それができるまで、ウィンティア嬢への接触を避けるように。あなた方もですよ。ウィンティア嬢はあなた方を許すどころか、拒絶しています」
冷たく言い放つマルカ。ほんの僅かの接触でも、第三者であるマルカが言いきる程のことが、僅かな時間で起こった。
ルルディ王国の貴族ならば、コクーン修道院の存在を知らぬはずはない。初等教育の時点で社会の必須項目でもあるからだ。しかも名前だけだが、コクーン修道院のトップは代々王妃代表を努めている。
そう、最低限、教えて、覚えなくてはならないことを、キャサリンは田舎だと言った時点で貴族教育失敗の烙印だった。
その烙印の責任は、親であるローザ伯爵夫妻にある。
「……………分かりました」
絞り出すような声を出したのはジョージだった。
マルカを見送り、ローザ伯爵夫妻は疲れたようにソファーに座り込む。
ジョージは考える。キャサリンは口が軽い、早急に考えの補正をしなければならない。
コクーン修道院の存在を知らないのは、常識がないでは済まされない程の事態だ。まだ、教育が始まって間もない子供なら、言い訳は効くが、キャサリンは十五歳で
デビュタントも終えているのだ。知らなかったでは済まされない。
「ああ、あなた、やっとやっとウィンティアが戻って来たのに」
クラーラが夫ジョージの肩にすがって啜り泣く。
この日を迎える為に、ローザ伯爵夫妻は奔走した。キャサリンの時折ある暴走や勘違いによる他家とのトラブルに対応しながら。
やっと帰って来たウィンティアを見て、ほっとした、という感情より、懐かしさが沸き上がる。
古い記憶。
ティアラ・ローザ。
ジョージ・ローザの妹。わずか十四歳でこの世去った、たった一人の妹。
ウィンティアは、そのティアラ・ローザの生き写しのように成長していたからだ。
配膳したメイド、作ったシェフ、テーブルセットをしたメイドは厳しく尋問された。
しばらくして、ナタリアがウィンティアが吐いて汚れたワンピースを持ってきた。
「ウィンティア嬢の様子は?」
「よく休まれています」
「そう」
マルカはナタリアに下がる指示を出す。頭を下げてナタリアは下がる。それ以外の使用人は食堂の隣の部屋で缶詰だ。
監査官がウィンティアの吐瀉物から薬物の存在は無いことが確認を取れて、やっと片付けだ。
その間に、マルカとウィンティアを診察した女医は、ローザ伯爵夫妻と向き合っていた。
「ウィンティア・ローザ嬢の嘔吐原因は薬物ではあませんが、心因性でしょう。まあ、これだけの仕打ちを受けていたのです、当然でしょうね」
先ほどまで優しくウィンティアを診察していた女医が、軽蔑は眼差しで資料を前のテーブルに投げるように出す。
ばさっ、と音を立てる資料。それにはウィンティアが受けていた仕打ちが、克明に記されている。
その音にびくりと震えるクラーラ夫人。
「私は食事の同席は同意しかねません。今後もこのような症状がでれば、別の生活圏を提案します」
女医はそれだけ言うと、立ち上がる。
「遅くまでありがとうございます」
マルカが見送り、ローザ伯爵夫妻が深く頭を下げる。女医は少し背中を曲げて、執事が開けたドアの向こうに消えていく。
「では、ローザ伯爵。色々お聞きしたい事があります」
何かの宣告のような雰囲気となり、ソファーに座り直し、マルカは顔色の悪い夫妻と向き合う。
「先ほどのご長女のあれは一体なんですか?」
すべての質問の意味を込めて。
「……………私共もあまりの事で」
ローザ伯爵、ジョージが声をため息のように吐き出す。
「ウィンティアの件は前からキャサリンに何度も話していました。何度もです。しかし、その話になるとキャサリンは話をまともに理解しなくなるんです」
「理解していなければ、説明もへったくれもありません。あなた方は、ウィンティア嬢の受け入れ体制は整っていると申請しましたね。これは虚偽と取っても?」
「違いますっ、我々はウィンティアと向き合いたいんですっ」
マルカはすっ、と女医が投げた資料を示す。
とうとうクラーラ夫人が完全に項垂れる。
「自分達が何をしたか、分かっていますか?」
「分かっています。許されるとは思っていません。でも、せめて、ウィンティアの将来の選択権を増やしてあげるのが、我々のせめてもの贖罪です」
ローザ伯爵家が提示したウィンティアに対するものは、ユミル学園に入学だけではない。もし、学園に馴染めなかった場合や、コクーン修道院に戻った場合、貴族女性として生きる場合、貴族を離れ職業婦人として生きる場合など様々な対応策を提示した。そして婚約者の存在。それからが認められ、国とコクーン修道院からやっとウィンティアの帰郷が許された。それには二年の時間を要した。
「分かっているのなら、ご長女の教育を徹底してください。セーレ商会になくてはならない存在だとしてもです。彼女は無意識で無神経な振る舞いは、悪意を覚えます。それができるまで、ウィンティア嬢への接触を避けるように。あなた方もですよ。ウィンティア嬢はあなた方を許すどころか、拒絶しています」
冷たく言い放つマルカ。ほんの僅かの接触でも、第三者であるマルカが言いきる程のことが、僅かな時間で起こった。
ルルディ王国の貴族ならば、コクーン修道院の存在を知らぬはずはない。初等教育の時点で社会の必須項目でもあるからだ。しかも名前だけだが、コクーン修道院のトップは代々王妃代表を努めている。
そう、最低限、教えて、覚えなくてはならないことを、キャサリンは田舎だと言った時点で貴族教育失敗の烙印だった。
その烙印の責任は、親であるローザ伯爵夫妻にある。
「……………分かりました」
絞り出すような声を出したのはジョージだった。
マルカを見送り、ローザ伯爵夫妻は疲れたようにソファーに座り込む。
ジョージは考える。キャサリンは口が軽い、早急に考えの補正をしなければならない。
コクーン修道院の存在を知らないのは、常識がないでは済まされない程の事態だ。まだ、教育が始まって間もない子供なら、言い訳は効くが、キャサリンは十五歳で
デビュタントも終えているのだ。知らなかったでは済まされない。
「ああ、あなた、やっとやっとウィンティアが戻って来たのに」
クラーラが夫ジョージの肩にすがって啜り泣く。
この日を迎える為に、ローザ伯爵夫妻は奔走した。キャサリンの時折ある暴走や勘違いによる他家とのトラブルに対応しながら。
やっと帰って来たウィンティアを見て、ほっとした、という感情より、懐かしさが沸き上がる。
古い記憶。
ティアラ・ローザ。
ジョージ・ローザの妹。わずか十四歳でこの世去った、たった一人の妹。
ウィンティアは、そのティアラ・ローザの生き写しのように成長していたからだ。
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