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婚約者と被害者①

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 マルカさんが去って行く日になる。
 元々が口からの調査官だからね。それでも月に一回は様子を見に来てくれるって。
 
「マルカさん、色々ありがとうございます」

「ウィンティアさん、また伺いますね。勉強頑張ってください」

 うっ。痛い所を。
 マルカさんがいなくなり、私のローザ伯爵家での生活が本格的にスタートとした。
 朝は前の日に買ったパンとナタリアのお茶で済まし、図書館まで歩いて通う。ナタリアも同行してくれて、あれこれ教えてくれる。勉強はウィンティアの知識に補充と追加だ。基礎知識があって助かる。お昼はレストランなんて使わない。高いもん。なので、公園に出ている出店で、ナタリアの分と一緒に購入。最初はブンブンと顔を横に振っていたけど、私だけ食べるのもなんだしね。言いくるめた。ちなみに毎日の食事代として五千ルルくれるが、これから夕御飯購入してもぶっちゃけ余る。お釣りを生物学上の父親に返すと、押し返された。
 
「必要な物があればこれで購入しなさい」

 って。
 必要なものって。文具やノートや試験問題集はしっかりあるんだけど。
 ま、いっか。ウィンティアのために貯金だ、貯金。
 そうと決まれば貯金箱。
 図書館帰りに雑貨を扱う店を回ると、三件目で、まさに理想の貯金箱を発見。

 ぶたさんの貯金箱っ。

 こっちにもぶたさんの貯金箱があるとはっ。これこれ、まんまるなフォルム、これこれ。
 ちょっと大きくて、からだにラインの様な柄があるけど、ぶたさんの貯金箱。
 
「これくださいっ」

 ハイテンションで店主に差し出すと、

「はい、二千五百ルルなります」

 足りない。手持ちじゃ足りない。
 さようなら、ぶたさん。
 お金、貯めてくるね。
 私はテンションがしゅーん、と萎んでぶたさんを元の位置に。
 すると、慌てて店主が言う。

「二千ルルにするよっ」

「ありがとうございますっ」

 やったね。
 店主がぶたさんを包んでくれた。

「しっかし、猪の貯金箱、そんなに嬉しがる女の子も珍しいね」

 …………………?

「猪?」

「そうだよ」

 …………あ、確かにっ、ちっちゃい牙があるし、この横のラインは、猪のラインだっ。
 ま、まあ、いっか。フォルム、似てるし、うん、可愛いし、うん。ぶたさん、改めて猪の貯金箱。よし、ぶーちゃん、と命名しよう。
 さ、ぶーちゃん、帰ろうね。
 抱えて帰りながら、私は思う。あのキャサリンからどうやって守ろう。
 あのジュエリーボックスの一件から、私と接触してない。部屋の前まで来て、とんちんかんな事を言ってたけど。無視した。

 そんなことがありながら、一ヶ月後。

 毎朝、生物学上の両親のどちらかから五千ルルをもらうが、今日は父親だった。

「ウィンティア、明明後日、ウーヴァ公爵家の皆様がいらっしゃる」

「ウーヴァ?」

 確か、ウィンティアの婚約者の後見人。
 て、事は。

「婚約者との初対面だ。身なりを整えておきなさい」

 私は腹の奥底が冷える。
 ウィンティアと婚約関係にありながら、キャサリンに走り捨てた男。
 レオナルド・キーファーとの、初接触となる。
 あの赤い本から容姿は分かっているけど。
 ウィンティアの祖母、ティーナ夫人が動いたおかげで、少し流れは変わって来ているが、警戒だけは怠らないようにしないと。
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