ミルクティーな君へ。ひねくれ薄幸少女が幸せになるためには?

鐘ケ江 しのぶ

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婚約者と被害者④

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 私は結局、キャサリンの影。もうめんどくさいから、そのままでいいや。
 馬車の他にも馬に乗った人もいる。お付きの人かな。
 一斉にローザ伯爵家一堂が頭を下げたので、私もならう。
 ウーヴァ公爵家は全員で三人。多分だけど、あの二人が公爵家夫妻で、二十後半くらいの女性が娘さんかな? それから最後に赤い本から容姿の情報を得たレオナルド・キーファーが降りてきた。
 胸像通りに茶色の髪で、穏やかな顔立ち、でもって背が高い。しかもすらっとして日本人にはないスタイルだ。足、長い。目が、綺麗に青だ。
 あれが、貴族の家特有の取り決めである婚約を捨てて、キャサリンに走る男か。

「ようこそおいでくださいました」

 生物学上の父親が、挨拶している。
 キャサリンの影でよく見えない。

「ところで、お嬢様はどちらですか?」

 あ、この場合、私だよね。
 今日はレオナルド・キーファーとウィンティア・ローザの、婚約者としての初顔合わせだし。

「キャサリン・ローザでございます」

 おい。
 どこから突っ込もうか。後ろから蹴り倒してもいいかな? 紹介しようと身体の向きを変えた生物学上の父親が固まる。普通、私が先に自己紹介じゃない?
 奇妙な沈黙が数秒。

「ほら、ウィンティアもご挨拶なさい」

 いかにもお姉さん風吹かせたキャサリンが、もうっ、と催促する。やかましい、私のお姉ちゃんは後にも先にもみどりお姉ちゃんだけだ。
 睨み付けてやる。

「まあっ、ウィンティアったら、ウーヴァ公爵家の皆様の前でなんて顔をっ」

「じゃあ、あんたの格好はどうなのよ」

 切り返してやった。

「ふふふ、楽しい事ですこと」

 ウーヴァ公爵家の夫人が笑う。ローザ伯爵家は私とキャサリン以外は顔色悪い。
 とりあえず、私も挨拶はする。

「ウィンティア・ローザです」

 ぺこり。

「まあっ、なんてみっともない挨拶なのっ、鏡を見なさいっ」

「自分で見たら」

 喚きちらすキャサリン。あんたの方がみっともなくなない? 
 バカじゃないの? って顔をしてやる。
 一触即発のような空気が流れたが、ローザ伯爵家の執事が、なんとか屋敷内にご案内となる。
 私は最後尾について続く。
 初めて入る応接室。深い茶色のソファーや落ち着いた調度品が並ぶ。
 言われるがまま座るが、生物学上の母親の隣、多分婚約者だろうレオナルドの前。気遣うような視線が来る。見た目悪くないから、若い娘さんなら、ぽっ、となるだろうけど、私はそうではない。
 高校時代に痛い目あってますからね、そんな類いの目
効きません。何でもないって顔した。
 なにやら難しい話をしていたが、挨拶みたいね。普通に、こんにちは、お元気でしたか、くらいで済まないの?
 お互いの家を褒めて、業績を話題に上げて、めんどくさい。これが貴族の挨拶なのかな?
 でも、今日、私とこのレオナルド・キーファーの顔合わせよね?
 挨拶、長いなあ。
 で、やっとこっちに話を振ってきた。
 振ってきたのはウーヴァ公爵夫人ね。予備知識として、公爵当主は夫人で、旦那さんはお婿さん。で、娘さんが一人。ナタリア情報です。

「ウィンティア嬢」

「はい」

「この婚約について、何か思うことはないかしら?」

 なんて聞いてきた。
 シスタースロウの言葉を思い出す。
 傷のある私をいいように宣伝に使うってやつね。
 でも、違う可能性もあるって言ってた。
 だけど、これはチャンスかもしれない。この婚約の意義を知る、チャンスかもしれない。

「私を選んだ理由は?」

 そう。大事な理由だ。わざわざ傷のある私を選んだ理由。探せば、もっと条件のいい貴族の娘が一杯いるはずなのに。

「その様な事、わざわざ話す必要はないでしょう」

 ざっくり、言い返された。冷たくもなく、暖かくもなく、少し突き放すように。
 私は、カチン、と来た。
 ウィンティアは最近までコクーン修道院で保護されて、世間知らずだ。しかもこの婚約を、院長先生から聞いてやっと知った。ほんの二ヶ月前の話。
 貴族の世界も分かってないのを、知っているくせに。ローザ伯爵家と、ウィンティアの関係が冷えきっているのも知っているくせに。
 こっち帰って来たばっかりのウィンティアを、気遣うとかないの? 特に上に立つってそう言うことじゃないの? 何? そっちから話題降っておいて、説明する必要ないって、ウィンティアにその価値はないってこと? 
 腹、立ってきた。
 息を吸い込む。

「私は迷惑してます」
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