続・ド派手な髪の男にナンパされたらそのまま溺愛されました

かほなみり

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 明るかった窓の外は暗くなった。そして今は、またうっすらと明るい。

(――朝かしら……)

 もぞ、と寝返りを打とうとすると、背後からぎゅうっと私を抱きしめる腕に力が入った。

「ベルンハルト……?」
「ん。おはよう、エリカ」

 ちゅ、と耳にくちづけを落とされる。彼はそのまま耳朶をはむっと食み、耳の後ろ、そして首筋へちゅ、ちゅっと唇を這わせた。

「おはよう。ふ、ふふ、くすぐったいわ」
「ん? 気持ちいいの間違いじゃなくて?」
「んあっ」

 耳元で朝の掠れた声が響き、思わず声を出してしまった。

(だって! 声がいいんだもの!)
「エリカ……」
「あ、待ってベルンハルト、もう起きなくちゃ……」
「まだ早いよ」

 私の腰に回された大きな手が腹部を撫でて、スルスルと意味ありげに動く。

(ダメ、このままじゃ流される……!)
「ヴィ、ヴィルツ補佐官!」

 彼の手が私の胸を包んだ瞬間そう叫ぶと、ぴたりと動きが止まった。そして、私をくるりと仰向けにして、覆い被さる彼は不満げに口を尖らせた。
 きらきらと金色と青色の髪が朝日を跳ね返し、美しい顔が私を見下ろしている。

「――前から思っていたんだけど、家ではそう呼ばないでほしいな」
「だって」
「あなただってヴィルツだろう」

 拗ねたように言う彼がおかしくて、笑いながら髪に手を伸ばす。
 意外と柔らかい彼の髪をふわふわと撫で、首を起こして唇に口付けをする私に、彼はお返しとばかりに齧り付いてきた。
 そんな彼から身を捩って逃げれば益々身体を抱きしめられて、堪らず声を上げて笑った。

「ふ、あはは! ねえベルンハルト、髪を染めないの? ほら、手伝うわ」

 そういう私に、彼はまた唇を尖らせた。

「しばらく自宅謹慎になったよ。王太子から、昨日の件を片付けるから、しばらくは自宅で待機していろと伝言があった」
「謹慎? 片付ける?」
「俺は、拘束されて無抵抗の、しかも王太子妃の騎士を殴ったからね」
「あっ!?」

 そう言えばそうだ。あれは確かに、不可抗力でも自己防衛でもなかった。

「だ、大丈夫なの……?」
「大丈夫だよ。ベルタ室長も目撃者として手を上げてくれているし、呼ばれるまではこちらでできることはない。罰則が与えられるならもちろん従うけど、これが原因で俺が排除されるようなら、そんな組織にいつまでもいるつもりはないよ」

 その言葉に、ベルンハルトが騎士に対して最後に言っていた言葉を思い出した。

『騎士はいかなる場面であっても相手の尊厳を傷つけてはならない。己の行動そのものが主の質を語るも同然だからだ』

 あれは、彼の矜持でもあるのだろう。そんなことすら守られない場所で務めるつもりはない、という意思の表れだ。

「――じゃあ、連絡があるまでは自宅謹慎?」
「ふふっ、そうだね。今なら喜ばしい謹慎だよ」

 言いながら、ベルンハルトはまた私の首筋にくちづけを落とした。

「ねぇ、ベルンハルト。どうしてあなたはあの場に来たの?」

 ベルタ室長と打ち合わせをしていたはずの彼が、なぜ書庫まで来たのだろうと、疑問に思っていた。
 彼は、「ああ」と声を低くした。

「君とペアを組んでいる補佐員がいるだろう? ハートといったかな。彼女が、あなたの姿が見えないことに気が付いた俺に、書庫へ行ったことを教えてくれたんだ」
「それだけ?」
「まあ……、イヤな予感がしたというのもある。昔からあの書庫はなんていうか……、問題視されていたんだ」
「問題視?」
「あそこは奥にあって薄暗いだろう? 以前から、ごく一部の近衛騎士が逢瀬に使うことがあったんだよ。それ以来、鍵と入室者の管理を徹底していたけど、それでも私的に利用しようとする者がいてね」

 開放的な場所に移して管理人を置くという話が進んでいるから、私が出入りするのはそれからにしようと思っていたらしい。

「そうなのね……」
「あなたの立場だったら、書庫の出入りは問題ないよ。ただ、あの騎士がいたから……、なんとなく気になっていた」
「あの騎士?」
「明らかに、あなたを狙っていたから」

 それはあの、騎士の後ろでくちづけをしたときのことだろうか。

(そう、ベルンハルトはあんな大胆なことをする人じゃない。それってつまり、危機感とか嫉妬とか、そういう……?)

 思い至って顔が熱くなり、思わず両手で頬を押さえる。

「エリカ? 顔が赤いよ」
「なっ、なんでもないわ!」
「もっと恥ずかしいことしてるのに、あなたはかわいいね」

 クスクスと声を抑えて笑う彼に耳元で囁かれて、ますます顔が熱くなる。

「かわい」

 そう言って、私の腰に回っていた手が胸を包み込んだ。

「ちょ、ちょっと、ベルンハルト……!?」
「ん、いいから感じて」
「あっ! ヤダそこ……!」

 まだ聞きたいことがあったのに。
 結局そのまま、流されるように彼と触れ合って、気が付けば窓の外にある太陽は高い位置で輝いていた。
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