4 / 14
4.一歩外へ
しおりを挟むユージーンは懐から封筒を二通取り出した。
「入国の際にはこれを見せてください。ギルド長の署名があるのですぐに入国できるでしょう。それから、こちらは私の署名が。これはギルドに行ったら必ず受付で提出してください」
「分かったわ」
「入国審査を終えたら門へ向かってください。マリーアンが待っています」
「うん」
「それから、あちらには獣人が多く暮らしています。彼等の文化やしきたりは先に学んでおいてください」
「うん」
「それからこれは料理長に包んでもらった弁当です。後で召し上がってください」
「うん」
「それからここにお金が。手持ちの硬貨とは別に用意しています。スリなどには気を付けてください。それから……」
「ねえユージーン」
次々とリリーシュに注意事項を伝えるユージーンに、リリーシュは思わず笑ってしまった。ユージーンは言葉を遮られ、ムッとリリーシュを見る。
「久しぶりに眼鏡を取ってみせて」
リリーシュの言葉にユージーンは一瞬躊躇したが、静かに眼鏡を取った。
紫眼に複雑な虹彩を持つユージーンの瞳が、陽の光を浴びてキラキラと揺らめいている。
真っ黒なスーツを身に纏い、銀色の長い髪を一つに纏め眼鏡をかけている姿は堅苦しい従者そのものだが、ユージーンは美しい顔をしている。
雨のあの日、鞭に打たれていた少年は美しく逞しい男に成長した。
向かいに座るリリーシュは、じっとユージーンの瞳を見つめ、ふわりと微笑んだ。
「やっぱり綺麗な色の瞳ね、ユージーン。貴方の瞳が見られなくなるのは残念だわ」
「お嬢様」
「ここにはなんの未練もないけれど……貴方を置いていくのだけが心残りよ」
「では私も連れて行ってください」
「駄目よ、連れて行けない。紹介状を書いたんだもの、ちゃんと次の仕事を見つけて」
「私はお嬢様のお傍で仕えたいのです」
「それじゃあ貴方と駆け落ちしたみたいじゃない。トーマスや家族が周囲に何を言われるか分からないでしょう。私はそういう禍根を残したくて家を出ていくのではないのよ」
「……どうして、そこまでお優しいのですか」
「優しい? 私が?」
「ご家族の事も婚約者の事も、もっとお怒りになって宜しいと思います。私の事だって……」
「あの人たちの事はもういいのよ。それに貴方のことも、ただ助けたいと思っただけ」
「ご自身が傷を負ったのに」
「言ったでしょう。後悔はしていないわ」
馬車がガタンと音を立てゆっくりと停車した。
外を見ると国境へ向かう大型馬車の乗り合い所に到着したところだった。外から御者に声をかけられ返事をする。
「着いたみたいね。そろそろ行くわ」
「お嬢様、やはり私も……」
「駄目よ、貴方には色々と書類の件や後始末を頼んでいるのだし」
鞄を受け取ったリリーシュは、扉を開けようとしたユージーンを制した。
「もう令嬢ではないの。自分で開けるわ」
「……」
リリーシュはユージーンに向かって手を差し出した。
「別れの挨拶よ。リリーシュ・ブランケ子爵令嬢はここで終わり。ここからはただのリリーシュよ」
ユージーンは差し出された手をじっと見つめ、その手を取り、強く優しく握り返した。
「……決して無理はなさらないでください」
「ありがとう、ユージーン」
リリーシュは握手をするユージーンの長く美しい指に視線を落とした。雨のあの日から今日までずっと、リリーシュを思いやり、どんな時でも優しく薬を塗り続けてくれた手だ。
リリーシュはその手を持ち上げ、ユージーンの長い指にそっと口付けを落とした。
「!!」
ユージーンがリリーシュのその行動に身体を硬直させ、目許を赤く染めた。リリーシュはその姿を見て満足げに声を出して笑うと、扉を自ら開けてステップを飛び越え、外へと飛び出した。
薄暗い馬車の中から、陽の光で眩しい白く輝く外へ。
「最後に貴方が驚く顔が見れてよかったわ、ユージーン!」
輝くような笑顔を残し、リリーシュはユージーンへ手を振ると馬車乗り場へ消えて行った。
ユージーンは馬車の中から、リリーシュの姿が見えなくなってもその方向を見つめ続けた。
47
あなたにおすすめの小説
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
番ではなくなった私たち
拝詩ルルー
恋愛
アンは薬屋の一人娘だ。ハスキー犬の獣人のラルフとは幼馴染で、彼がアンのことを番だと言って猛烈なアプローチをした結果、二人は晴れて恋人同士になった。
ラルフは恵まれた体躯と素晴らしい剣の腕前から、勇者パーティーにスカウトされ、魔王討伐の旅について行くことに。
──それから二年後。魔王は倒されたが、番の絆を失ってしまったラルフが街に戻って来た。
アンとラルフの恋の行方は……?
※全5話の短編です。
運命の番がユニコーンだった場合…
たんぽぽ
ファンタジー
短命種が自分の番ーツガイーと出会う確率は限りなく低い。 長命種であっても、人生の大半を費やす覚悟が必要なほど。
出会えたなら、それはもう運命である。
そんな運命の人と遭遇したリノは訳ありの10歳。リノは短命な種族の生まれではあるが、それでもまだ未成年とされる年齢だった。
幸か不幸か未成熟なリノ。それゆえ男は出会った少女が自分の番だとは気づかなかった。知らずに愛でたのは、男がその性癖ゆえに絶滅の道しかないと言われる残念種族のユニコーンだったから…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる