6 / 14
6.日常と再会と
しおりを挟むリリーシュは毎日、午前に店を開き、昼食後にギルドへ立ち寄って依頼を受け取る。
仕事はリリーシュのためにギルドで先に仕分けされており、リリーシュはその中から仕事を選んでいるので危険は少ない。遠方へも採取に行きたいと思っているが、ギルド長から新米にはまだ早い、と日帰りで行ける場所しか回されない。
(早く一人前になれば、もう少し足を伸ばせるのに)
リリーシュは折角自由になったのだから色んな場所へ行きたかった。だが、全てギルド長やマリーアンに却下される。
(お世話になっているからあまり我儘も言えないけれど)
早く独り立ちして自由になりたいと思いながら、自分には縁のないギルドの掲示板に張り出された依頼を眺めた。
(私も冒険に出てみたいわ。色んな場所に行きたい。ランクを上げたら国を自由に行き来できる証書を貰えるって聞いたけど、私もいつか貰えるかしら)
「アンタもその依頼に興味あんの?」
ぼんやりと掲示板を眺めていると、背後から突然話しかけられた。驚いて振り返ると、背の高い金色の髪の男がリリーシュを見下ろしている。振り返ったリリーシュを見て少し目を見開いた男は、輝かんばかりの笑顔を見せた。
「驚いた、こんな場所でこんな美人に出会えるなんて。失礼、俺はカイ。君も冒険者?」
「いえ、私は……」
「おい、カイ! その娘に手を出すなよ!」
受付の向こうからギルド長が大きな声を上げた。これもいつもの事だ。リリーシュに声をかける者がいると、こうして誰かが必ず牽制する。
「え、何、アンタの娘?」
「違う! 俺はまだ若いんだよ!」
「別に取って食おうってんじゃないよ」
「お前は特に駄目だ! 近付くな!」
「何それ、どういう意味だよ」
リリーシュはふと、男の後ろに白く長い尻尾があることに気が付いた。
(この人も獣人なのね。本当に多いわ)
金髪に白く長い尻尾。なんの獣人だろうとじっと尻尾を見つめていると、カイと呼ばれた冒険者がその視線に気が付いた。
「珍しいの?」
「え、あ、違うわ! ごめんなさい、そうじゃなくて」
「嬉しいな、俺に興味ある? 君みたいなきれいな子なら何でも答えちゃうけど」
「カイ、いい加減にしろ!」
ギルド長が低い声で唸るように声を発した。近くにいた関係のない者たちが耳を伏せ、そっとその場を離れていく。だがカイは気にせず笑顔でギルド長を振り返った。
「この子は誰の匂いもしないじゃないか。だったらいいだろ」
「駄目だ」
突然横から伸びてきた腕がカイの首根っこを掴んだ。
リリーシュの目の前に出てきたその腕には、きれいな刺青が施されている。リリーシュは思わずその刺青に見入ってしまった。
「ぐ……っ! な、何をする!」
「殺されたくなければ去れ」
額に青筋を立てて首を掴む男を睨んだカイは、次の瞬間、男の顔を見て顔を青くした。
「なっ、なんでアンタがここに!」
「去れ」
「分かった! 分かったよ!」
カイが慌てて走り去っていくのを見送り、リリーシュは隣に立つ背の高い男に視線を向けた。
銀色の腰まである長い髪を下ろし、紫眼の宝石のような切れ長の瞳。美しい顔をしたその男。
「……ユージーン?」
久しぶりにその名を呼ぶと掠れた声が出た。
真っ黒なスーツではなく、冒険者の様な長い外套を纏い腰に剣を佩いているその姿は、間違いなくリリーシュのよく知る従者、ユージーンだ。
チリ、とユージーンの耳元にある赤いピアスが揺れた。
眉根を寄せたまま何も言わずリリーシュを見下ろしていたユージーンは、ため息をつくと低く身体を屈めリリーシュを肩に担いだ。
「……! き……っ」
悲鳴を飲み込んだリリーシュの脚をしっかりと抱えると、ユージーンはギルド長を睨んだ。ギルド長はやれやれと肩を竦め、カウンターから鍵の束をユージーンに投げる。チャリンと鍵を受け取る音が響き、リリーシュはそれが何なのか確認しようと肩の上で暴れた。
「ユージーン! 降ろして!」
「駄目です」
暴れるリリーシュを肩に担ぎギルドを後にするユージーンを、ギルド長はため息をついて見送った。
46
あなたにおすすめの小説
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
番ではなくなった私たち
拝詩ルルー
恋愛
アンは薬屋の一人娘だ。ハスキー犬の獣人のラルフとは幼馴染で、彼がアンのことを番だと言って猛烈なアプローチをした結果、二人は晴れて恋人同士になった。
ラルフは恵まれた体躯と素晴らしい剣の腕前から、勇者パーティーにスカウトされ、魔王討伐の旅について行くことに。
──それから二年後。魔王は倒されたが、番の絆を失ってしまったラルフが街に戻って来た。
アンとラルフの恋の行方は……?
※全5話の短編です。
運命の番がユニコーンだった場合…
たんぽぽ
ファンタジー
短命種が自分の番ーツガイーと出会う確率は限りなく低い。 長命種であっても、人生の大半を費やす覚悟が必要なほど。
出会えたなら、それはもう運命である。
そんな運命の人と遭遇したリノは訳ありの10歳。リノは短命な種族の生まれではあるが、それでもまだ未成年とされる年齢だった。
幸か不幸か未成熟なリノ。それゆえ男は出会った少女が自分の番だとは気づかなかった。知らずに愛でたのは、男がその性癖ゆえに絶滅の道しかないと言われる残念種族のユニコーンだったから…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる