7 / 14
7.自由をあなたに
しおりを挟むギルドのある中心部から少し離れた小さな家の鍵を開け、ユージーンはまるで自分の家のように室内に入った。
ここまで散々暴れたリリーシュは諦めて大人しく肩に担がれたままでいた。ユージーンは先ほどから何も話さない。こうなると頑固なのだとリリーシュは知っている。
雨戸が締め切られ薄暗い室内にある一つだけ置かれたソファに、ユージーンはそっとリリーシュを降ろした。
リリーシュはユージーンの顔を見ようと見上げたが、すぐに背を向けられてしまった。次々と雨戸を開け光を取り込むその広い背中をじっと見つめ、リリーシュは名前を呼んだ。
「ユージーン」
ユージーンがピタリと動きを止めた。じっと立ちすくんだまま動かない。
「ユージーン」
もう一度名を呼ぶと、また肩が揺れる。だが振り向かない。リリーシュは内心苦笑しながら、そっと囁いた。
「ユージーン、顔を見せて」
ユージーンは逡巡の後、ゆっくりと振り返る。
窓からの逆光でよく顔が見えないが、赤いピアスと銀色の髪だけがキラキラと輝いている。
「……どうしてここにいるの」
聞きたいことは沢山ある。あり過ぎて、リリーシュの口からは問いただすような言葉が出た。
「……」
「ごめんなさい、別に責めているわけでは……」
「……一年」
「え?」
リリーシュは顔を上げてユージーンを見た。逆光で表情は分からないが、瞳だけが輝き射抜くようにリリーシュを見ている。
「一年、大人しくしてくださいと言いました」
「してたわよ?」
「家を探していたとか」
「……準備をしていただけよ」
「ここが用意した家です」
「え?」
「本当に……早く戻ってよかった」
ユージーンがぶつぶつ呟くのを放っておいて、リリーシュは改めて室内を見渡した。
まだ家具のほとんどない家はこじんまりとしているが、リリーシュ一人には広いくらいだ。リリーシュはまじまじとユージーンを見た。
「どうしてそんなことを知ってるの? 私の事をギルド長が報告してたの?」
「……」
ユージーンはふいっと視線を逸らした。答えたくない時の癖だ。そんな姿にリリーシュは懐かしさが込み上げ嬉しくなった。
(半年しか経っていないのに)
自分が随分とユージーンを恋しく思っていたのだと分かり、リリーシュは心の内で苦笑する。
だが駄目だと、リリーシュは唇を噛む。
ユージーンを巻き込むわけにはいかない。何のためにユージーンを置いてきたのか。何のために自分一人で国を出てきたのか。
ユージーンのためなのだ。
――俺にはお嬢様がいるから、一緒にはなれない。
トーマスがよその令嬢と仲睦まじく過ごしているのを目の当たりにした時、リリーシュはそれほど悲しまなかった。自分のようなつまらない人間と一緒にいるよりも、ずっとトーマスに相応しい女性だと思ったのだ。
そしてそれをユージーンに報告しようと探していると、使用人の玄関の前でユージーンが美しい人と口付けをしているのを見た。
リリーシュは息が止まり、その場に立ち尽くした。
「ユージーン、私と一緒に来て。お願い、ここから出ましょう」
美しい金色の髪の女性が、ユージーンに縋りその胸に顔を埋めていた。ユージーンは眉根を寄せ、女性の肩を掴み引き剥がした。
「俺にはお嬢様がいるから、一緒にはなれない」
「そんなにあの子が大事なの!?」
「……お嬢様は俺を助けてくれた方だ。俺は一生、あの人に仕えると決めた」
リリーシュにとって、トーマスの事よりも、その夜見たユージーンの台詞が一番心を抉られる出来事だった。
(私のせい?)
ユージーンは自分に縛られている。自分が、ユージーンの自由を奪っている。
自由を奪われる事を一番嫌う、この自分が。
46
あなたにおすすめの小説
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
番ではなくなった私たち
拝詩ルルー
恋愛
アンは薬屋の一人娘だ。ハスキー犬の獣人のラルフとは幼馴染で、彼がアンのことを番だと言って猛烈なアプローチをした結果、二人は晴れて恋人同士になった。
ラルフは恵まれた体躯と素晴らしい剣の腕前から、勇者パーティーにスカウトされ、魔王討伐の旅について行くことに。
──それから二年後。魔王は倒されたが、番の絆を失ってしまったラルフが街に戻って来た。
アンとラルフの恋の行方は……?
※全5話の短編です。
運命の番がユニコーンだった場合…
たんぽぽ
ファンタジー
短命種が自分の番ーツガイーと出会う確率は限りなく低い。 長命種であっても、人生の大半を費やす覚悟が必要なほど。
出会えたなら、それはもう運命である。
そんな運命の人と遭遇したリノは訳ありの10歳。リノは短命な種族の生まれではあるが、それでもまだ未成年とされる年齢だった。
幸か不幸か未成熟なリノ。それゆえ男は出会った少女が自分の番だとは気づかなかった。知らずに愛でたのは、男がその性癖ゆえに絶滅の道しかないと言われる残念種族のユニコーンだったから…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる