溺愛恋愛お断り〜秘密の騎士は生真面目事務官を落としたい〜

１１※

「あっ、あ、んんっ」

　ユーリは素早く私のガウンと寝衣を脱がせると、自分も乱暴に隊服の上着とシャツを脱ぎ捨てた。
　覆い被さり合わせた肌の熱さに、身体の芯がじん、と痺れる。
　彼の大きな掌は私の身体を隅々まで弄り、胸を持ち上げ円を描くように捏ねた。
　上がる甘い嬌声を飲み込むように深く口付けをし、舌を絡め擦り合わせる。
　ユーリは私の胸を揉みしだきながら指で頂を引っ掻き、摘まみ、その甘い刺激に腰を捩ると脚の間に彼の昂ぶりをぐりっと押し付けられた。
　手を伸ばしトラウザーズの上からその昂ぶりを撫で上げると、ユーリが呻き声を上げる。
　口付けをして胸を捏ねられながら、私は彼のトラウザーズの前を寛げその昂ぶりに直接触れた。
　熱く硬くなったそれは、手の中でびくびくと震え、その先端に指を添わせればとろりと先走りが零れる。その切っ先を指で捏ね、鈴口をぐりっと指で押し込むと、合わせた唇から小さく呻き声が上がった。
　激しく合わせていた唇がちゅっと音を立てて離れ、互いを銀色の糸が繋いだ。とろりと口端から流れた唾液を、ユーリは舌で追い舐め上げる。

「アリサ……、一回、抜きたい」

　目許を赤く染めそんなことを言う彼の色気に、ぞくぞくと腰が痺れる。自分の吐く息も熱い。

「……手で？」
「うん。じゃないと……、ひどくしそうだから」

　私の肩口に顔を埋めそんなことを言う彼の髪を片手でそっと梳き、もう一方の手で彼の昂ぶりを扱く。
　無意識なのか彼は腰を揺らし私の掌に強く押し付けた。そして耳元に響く、ユーリの荒い呼吸。
　それを聞きながら片手では収まらないほど大きな彼の昂ぶりを、ぬめりを纏わせた手で強く扱き、切っ先の傘の部分をぐりっと指で引っ掻いた。

「……っく、はあっ、ごめん、イく……っ」

　手の中でびくびくと昂ぶりが跳ねるように震え、ぎゅっと彼の身体が硬くなると、ドクンと手に温かな飛沫を感じた。それは溢れ、私の腹部にも広がりどくどくと広がっていく。

「～～っ、……はぁっ」

　ぶるりと身体を震わせ、肩口にいるユーリの身体から力が抜けた。ぐったりと力が抜け、はあはあと背中で荒い呼吸を繰り返す。

「……、ちょっと待ってて」

　なんだか不貞腐れたような声が耳元でしたかと思うと、彼は起き上がり脱ぎ捨てた自分のシャツを拾い、私の手と腹部を拭った。

「ユーリ、もう……」

　落ち着いた？　そう聞こうと思ったとたん視界に飛び込んできた、彼の昂ぶり。それはいつの間にか、もうその硬さを取り戻している。

「……いい？」

　目許を赤く染め控えめに、けれどギラギラと瞳を強く光らせる彼にそんなことを言われて、これでお終いなわけがなかった。

　＊

　先ほどより冷静になったユーリは自分の昂ぶりを数回手で扱くと、あわいにぐっと押し付け、一気に隘路を貫いた。

「……っ！」

　チカチカと目の前に星が飛び、声もなく首をのけ反らせびくびくと身体を震わせると、歯を食いしばったユーリの口元から呻き声が漏れる。

「……っ、アリサ、入れただけでもうイった？　すごい、痙攣してる……っ」

　ユーリはふっと息を短く吐きだすと、ずるりと入口まで引き返し、また一気に最奥を穿った。
　ドンっという衝撃に私の中がぎゅうっと痙攣し、ユーリの昂ぶりに吸いつく。彼はゆっくりとそれを繰り返し、やがて速さを増していった。
　激しく切っ先に壁を擦られ身を捩ると、ユーリはすぐに私の感じるところを見つけ攻め立てた。
　
「アリサ、ここっ、気持ちいい……っ？」
「ぁっ、あっ、ああっ！」

　肌がぶつかる音に交じり、ぐちゅぐちゅと水音が響く。ベッドのギシギシと鳴る音も自分の喘ぎ声もすべて、遠いどこかで聞こえる音のようだ。

「く、はあっ、アリサ、すごい濡れてる……っ、ねえ、俺の扱いてっ、感じてた？」
「ぁっ、や……っ、やだ……っ」
「嫌？　ほんとに？」

　ユーリは腰をぐるりと回し、中を確かめるように切っ先で抉る。その動きにびくびくと身体を痙攣させると、嬉しそうな顔で私に口付けを落とした。

「俺ばっかり気持ちよくなってごめんね、アリサも気持ちよくなって？」
「んんっ、あ、す、ごい、んあっ」
「ここ？　いい？」
「あっ、いい……っ！」

　私の反応を見ながらぱんぱんと激しく腰を振り、時折口付けを落としながら、ユーリはずっと私を攻め立てた。
　私の脚を肩にかけ、上から叩きつけるように最奥を責め、私の身体を横に向けて角度を変え内側を擦る。責められる場所が変わり、新たな刺激に身体が震えまた彼の昂ぶりをぎゅうっと締め上げる、その繰り返し。
　何度イったのかわからないほど意識が飛んでも、身体を揺さぶられ、意識を取り戻すとまた、興奮に血管を浮き上がらせ汗ばんだユーリの鍛え上げられた肉体が私を攻める。
　気がつくといつの間にか背後から責められていて、当たる場所が変わり、また身体が痙攣する。
　いつまでも続く甘い責め苦に、もう何も考えられなかった。

「アリサ……っ、アリサ！」

　私を呼ぶ掠れた声に胸が高鳴り、そして苦しくなる。
　大きな手で腰を掴まれ抱きしめられて、激しく身体を重ねる私たちのそこにあるのは一体、どんな感情なのか。
　わからないまま、私はまた意識を手放したのだった。
　
　＊

「ん……」

　閉じた瞼の向こうに日の光を感じた。
　重たい瞼を何とか開くと、そこは見慣れない部屋。ベッドの向こうの窓、カーテンの隙間からわずかに日の光が漏れている。

（今、何時……？）

　視線を室内に巡らせ、時計を見る。まだ早い時間だ。一瞬気持ちが仕事に向いたけれど、今日は休みだったと思い出し、ほっとして息を吐き出す。
　もぞりと身体を動かすと、がっしりとした腕が腰に回されていることに気がついた。
　背後からユーリに抱き締められている。

（え、えっと……）

　混乱し、けれど突然脳裏に蘇る昨夜の出来事。

（わ、私……！）

　我に返り、かあっと全身が熱くなる。我ながらなんてことをしたのだろうと両手で顔を覆った。
　バクバクと心臓がうるさい。

（どうしよう、どんな顔で話したらいいの!?）

　部屋を訪ねユーリの顔を見て、彼が苦しそうな様子が窺えた。本当はあんなことをするつもりなんてなかった。

『アリサ、頼む……、今日はだめだ。俺に、近づかないで』

　そんなことを言う彼の放つ色香に、多分、当てられたのだと思う。
　恋愛とかそんなことじゃなく、持て余した熱のやり場に苦しんでいた彼に触れたい、触れてほしいと思ったのだ。
　でも、それだけ。
　私たちはそれだけの、形だけの関係。
　これ以上何かを求めることもないし、またいつものように、日常に戻ればいいのだ。
　ふうっと息を吐き出し、少し冷静になれた。
　首筋に、ユーリの温かな息がかかり、耳を澄ますと彼はぐっすり眠っているのがわかる。
　そっとその腕を持ち上げ身体を離しても、ユーリが起きる気配はない。

（よほど疲れていたんだわ）

　静かにベッドから降りてその寝顔を覗く。長い睫毛が固く閉ざした瞳を覆い、うっすら開いた唇から静かに寝息が聞こえる。

「……おやすみなさい」

　小さな声でそっと呟くと、私は寝衣を拾い身に着けて扉へ向かった。

（大丈夫、またあとで顔を合わせても、普通に接したらいいのよ）

　ベッドで眠るユーリをもう一度振り返り、静かに扉を閉めて、私は誰にも会わないよう自室へと戻った。

　＊

　ダイニングで朝食を取っていると、階上からバタバタと大きな音が響き慌ただしくユーリが飛び込んできた。

「あ、アリサ……っ！」

　目を見開き私の顔を見ると安心したようにほっとした表情を見せ、そして顔を赤く染める。

「おはよう、ユーリ」
「お、おはよう」

　ユーリはサッと視線を落とすといつもの私の向かいの席に腰を下ろした。
　ノラが「あらあら」と言いながらユーリの前に紅茶を置く。

「おはようございます、ユーリ様。昨日は遅いお帰りだったようですね」
「ああ、ギルバートが出迎えてくれたよ」
「お食事はどうなさいますか？」
「食べるよ。腹が減ってるんだ」
「承知しました」

　ノラはそう言うと一度頭を下げ、キッチンへと料理を取りに戻っていった。

「……アリサ」
「なあに？」

　名前を呼ばれ、新聞に落としていた視線を上げると、心配そうに私を見る瞳と目が合う。
　落ち着いて、大丈夫。
　普段通りにしていたらいいだけ。

「――大丈夫？」

　なにが、とはさすがに言わない。けれど彼の居心地の悪そうな姿に思わずぷっと吹き出してしまった。
　気まずいのは私だけではないみたい。

「ふふ、大丈夫よ。あなたは？　ちゃんと眠れた？」
「おかげさまで。……その、昨日は」
「だめ、謝らないで」

　私はユーリがその先を言おうとするのを遮った。彼はぐっと口を引き結び、黙る。

「誰にも迷惑はかけていないし、私たち二人のことでしょう？　もう終わったことなのだし、そのことについて話すことは何もないわ」
「……終わった？」
「そう。昨日のことはもうこれでお終い。お互いそういう気分だった、それだけよ」

　ばさりと新聞をたたむと、向かいの席から「そうか」と小さな声が聞こえた。

「終わったって、そういう意味か」
「他に何か？」
「いや、この関係が終わったのかと」

　ユーリはそう言うと、目の前の紅茶に口をつけた。美しく持ち上げるその所作は洗練されていて、何度見てもじっと見入ってしまう。

「まだ、終わっていないと思うわ」

　そう答えると、ユーリはふっと嬉しそうに笑った。
　
「よかった。じゃあ、デートする？」
「えっ？」
（どうしてそうなるの？）
「お陰様でゆっくり眠れたし、出かけようよ」

　ノラがちょうどいいタイミングでワゴンを押して入室してきた。
　手際よくユーリの前に皿を置くのを見つめながら、さすがに腰が痛いから嫌だ、とは言えなかった。
　騎士の体力をなめてはいけない。