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ホンダル ツコット

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とある事情で近々ラノベとか書けなく成ると思います。
まあその為に長編にはしてないのですけど。

拙いラノベにお付き合い頂いて本当に有り難う御座います。
行ける処まで書きますね。


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ふと気が付く。
やはり母親の影響なのだろうか、僕は割と古い歌を知っている。

あっ、前世の日本の歌ね。
我夢土下座なんてローカル色の強い昔のフォークソンググループだし。
僕自身リアルタイムで全く知らない。


「私目、ホンダル・ツコットと申します」
「・・・・・・すっすいません。僕はマリフです。えっとホンダさんはどの様なご用でしょうか?」
「ホンダじゃ有りません。ホンダルです」


『えっ・・・本田路津子さん・・・』

な訳あるかあアァ~。
それ日本人の歌手じゃねえか~。

いっいかん・・・

ついつい日本の記憶が。

「あっ、ホンダル・ツコさんですね。それで僕にどの様なご用件でしょうか」

「・・・・・・ツコットですわ」
「すっすいません」


私、家名はありますが平民ですし、貴方より年下ですので敬語は要りませんわ。

騎士爵位のツコット家は平民なのですが、私のお母様は侯爵家の娘ですから、それであなた様を存じ上げておりますの」
「ああ、侯爵家の奥様の・・・」
「その節は有り難う御座いました。叔母様が凄く感謝しておられましたわ」


「え~と、・・・町中では何ですので彼処のお茶屋さんで、お話伺えたらと思いますが」

「敬語は・・・ふう、もうよろしいですわ。
入りましょうか」


僕は前世でも今世でも喫茶店成るものに入るのは初めてだ。
今は少し金銭的に余裕が有って良かったよ。


「マリフさんは強い冒険者なのですね」
「いえいえ、全然全く杭全神社です」
「クマタジンジャ?」
「あっ忘れて下さい、今の・・・ジョークですから」
「・・・はあ?」


「僕自身は殆ど生活魔法しか使えないですし、ゴブリンや角ウサギすら狩った事が無いですよ」
「いえいえ、酔魚ってゴブリンや角ウサギより捕獲が難しいのですよ。それにステッペンウルフの撃退話も」
「あっそれは電撃で」
「でっ電撃は高等魔法ですよマリフさん」
「・・・あ~、静電気って御存知ですか?」
「セイデンキ?」
「冬に羊毛とか着るとパチパチしたり、ドアノブなんかでバチッて来るでしょ。あれですアレ」
「もしかしてアレと雷様が同じとおっしゃいますの」
「はい同じものです。アレの大きいのが雷です」
「そうでしたのね」
「ですから、アレがいっぱい集まったイメージなら発動すると思いますよ」
「今度挑戦してみますわ」
「頑張って下さい」

「私のツコットって家名は、母の故郷で黒百合をそう言うのですが、マリフさんは何か由来があるのですか?」
「ああ、僕のは大昔の海の役所が起源と言われています」

実際marineの府では無いかとの伝承が有る。
瀬戸内には麻里府などの地名は多い。

「海の役所ですか」
「そうですね、マリが海でフが役所ですね」
「そうなんですね。なんか素敵です」
「いや実際そうでも無いですよ。女名みたいとかからかわれますから」
「ああ、でも私もホンダルって女子らしくない名前ですから」

家名かあ・・・それで黒百合をくれたのかな。
そうだお礼言わなくちゃ。

「黒百合有り難う御座います」
ざわざわ、ざわざわ。
「ん?」

「私の家名がツコットで、ホンダルは素晴らしい景色って意味らしいです。それと黒百合は高地の寒い所に咲きますから、こちらまで搬送するのが難しい花ですの、ですから皆様ざわめいたのですわ」


にしても愛の告白では無くて家名からの黒百合だったんだ。

「マリフさんは私にとってのニシパです」
「えっ! ・・・・」
「うふふ、何でも無いですわ」

僕は別れ際彼女にUちゃんの在庫からクッキーの詰め合わせを渡した。


ツコット家って何者なんだろう?。
彼女は確かにニシパって言った。
ニシパ・・・まさかね。


「ほらマリフ行くよ」
「はあはあ、ウーヌ早いよ」
森には未だ行けないので、町の東西の山に冒険者達は入って活動している。

この山地は割と広く様々な魔物が棲息しているが、如何せんピューマの獣人で有るウーヌには敵わない。
正直山岳では僕は足手まといだった。
息の切れて来た僕とそれを気遣うウーヌの前に現れたのは、前世のアニメでも観たことの有るモンスターだ。


それは完全に異質なこの世のモノでは無い身体を持っている。
胴体と尻尾は黒豹だが、頭は二頭の柴犬と一匹の猫。
まさに張り合わせの身体。
アニメではライオンの頭とかバイソンの頭がくっついて、尻尾が蛇だったりするが。

そう、それはキメラ。
伝説の人造魔獣。
国を破滅させたモノ。

ウーヌはペタリと座り込み、僕は時が止まった様に頭が真っ白だ。
『ご主人様・・・この魔物は私目の機銃でも打ち倒すのは不可能ですから、私目が機銃掃射している間にゆっくり下がって、お逃げ下さい』
「・・・・・・」
『ご主人様っ!』
「ちょ・・・ちょっと待って、何か変」
『どういう事ですか』
「攻撃姿勢が、攻撃する気が見受けられない」
『・・・しかし』
「だから今少し待って」


『恐がらないで、何もしないから
ただ話したいだけ・・・』
「「しゃっしゃべった!!」」

キメラが喋った。
まさかのまさか。
しかも何だか友好的。


3日後、侯爵邸。
「それじゃあ何か、そのキメラは4つの身体が合体した魔獣と申すのか」
「はい侯爵様、しかも攻撃されなければいたって友好的です」
「はあ~、山に隠れ住んだ12歳の天才学者が、領主に追われて最後に転移魔法を試みたが失敗、・・・身体が合体したと」
「俄には信じられませんが・・・マリフ君、そのキメラに私達も会う事は出来るかね?」
「はい、Uちゃんが魔力の形態を覚えているので、探索は可能だと思います。

ただ・・・あの子は転移魔法を既に習得してまして、どこの山に居るかはUちゃんでも3・4時間掛かるかも知れません」

「ではその報告を待ってそこへ向かうとしよう。それまでキメラを繋ぎ止めておいてくれるか」
「はい多分言う事は聞いてくれると思います」
「そうかでは早速明日から始めよう」
「お待ち下さい父上」
あ~侯爵の息子さんかあ。
たぶん・・・。
「私は反対です」
だよねえ。

「オズワルト・・・ワシに何かあらばそなたに侯爵家は任す。キメラをほっておいて攻撃されでもすれば、この国が滅ぶやも知れんのだ。ワシが行って確かめねばならん」
「私も参ります。後の事は既に息子に申し付けておりますゆえ」
「すまんの子爵」
「いいえ、例え金魚のフンと言われても付いて行きますぞ」

まだ地元の港町の山野に居てくれたので、一時間もせずに会う事が出来、侯爵様に報告した。

3日程キメラと話をして過ごした。
彼は脳だけが人間で、後はピューマみたいな従魔と二匹のペットの犬が、転移魔法の失敗で合体したのだと教えてくれた。
その後転移魔法を完成させ、攻撃されれば逃げていたらしい。

そう言えば昔(フライ)って映画が有ったな。
あれは瞬間移動だけど同じっちゃ同じ。

ギルドの本で読んだけど転移魔法は未だに確立されて無くて、かなり危険な魔法とされているらしい。
考え方としては自分の回りの空間ごとパラレルワールドへ移す訳で、やろうと思えば世界まるごと消滅しかねない。
その方法でないと自分の身体を保持出来ないからだ。
つまり車に乗ったままで亜空間を移動するか、身体だけ素粒子を繋ぎ止めたままで亜空間を移動するかで、つまり車に乗ったままだと回りの空間を歪めるけど、身体だけだとそれが少なくてすむが、同時に自分の身体を素粒子レベルで保持すると言う、誠に荒業をやってのける訳で、神にしか出来ない御業になる。

つまり事実上瞬間移動とか亜空間航法は不可能とみるべき。

キメラに成った少年はまだ運が良かったのかも知れない。

ただ王にコレクションとして追われ、結果的に一国を滅ぼしたキメラ。
それが伝説として今に伝わっている。


そして5日後。
「お止め山って有りますか?」
「オトメヤマ?」
「つまり国王陛下直轄の私有地で、何人も侵すことの出来ない山です」
「成る程そこでキメラを保護すると」
「ええ同時にこの国を保護する事に成るかと」
「成る程な・・・それなら有るぞ」
「本当に」
「ただし当然国王陛下の許可と貴族議会の裁決がいる」
「それは難しいですか」
「いや何分国の運命が掛かる事ゆえ大丈夫だろう。王専属の狩り場なので割と広大だしな」
「間違えてキメラに弓を向けたりは」
「いくらなんでもそんなアホはおるまい」


この事は直ぐに国王陛下に進言され、割と早く貴族議会で裁決承認された。


国王陛下は時折キメラに相談に乗って貰ってるらしい。
何せ12歳で学者に成った天才の脳なのだから。



後、僕とウーヌも話し相手として入山を許されている。
敷地には大きな湖も有って、Uちゃんが着水出来るのだ。


いつかホンダルさんに、貴女の御先祖様は異世界人ですかと聞いてみよう。
おそらく本田さんの様な気がする。
50年前くらい前の人だろう。
彼女が言った「ニシパです」は、アイヌ語だ。
紳士とか旦那とかの意味。
そしてそれは黒百合の唄に出てくる。
まさか母が口ずさんだ古い歌が・・・。


ここで出てくるとは。



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