夜伽話につきあって

つらつらつらら

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21・紳士の素顔

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 居間に戻ってきたナイトフォールは、何種類かのレターセットと葉書も一緒に持ってきてくれた。
 三人は勉強がしやすい木製のイスが並ぶテーブルへ移動した。
 ルーニャは書き物の道具を手に取りためつすがめつしながら、これは、と思うレターセットの絵柄えがら吟味ぎんみしていく。葉書も何枚かあるのだけれど、今日書くことになる特別な一通のことを思うと、やっぱり封筒に入れて送る方が思い出に残るような気がした。

 ジャンも便箋びんせんの入った透明の袋を見比べて、ほお~と息をついた。花の蜜を吸っている鳥の姿や、水辺でいこう家族ののどかな風景など。まるや三角でデザインされたシンプルな絵は有名な画家の作品だとわかった。

「ナイトフォール先生、これ、どこの文具店で買ってくるんですか?」
「年に一度は外国の書物を直接買いに行くから、そのときのおみやげに、ね」

 ナイトフォールは、ルーニャが今持っているレターセットは北方の小さな諸島で見つけたものだと教えてくれた。水彩絵具の軽やかなタッチであおい海と白い帆船はんせんが描かれている。
 青と白。なんとなく『かぐや姫』の表紙と対になる気がして、ルーニャは「これがいいな」とつぶやいた。
 ナイトフォールはジャンにも声をかけた。

「ジャン、君も気に入ったものがあれば使っていいよ」
「え、もらっていっていいんですか?」
「ああ」

 深い緑の山脈に流れ星が降っている絵がプリントされたレターセットを見ていたジャンは、ぱっと顔を上げた。どうも選択肢が多いなと思っていたので、気をつかってくれたのがうれしかった。

 一緒に用意された黒のペンをメモ用紙に試し書きして、ルーニャはテーブルに一組のレターセットを広げた。隣にジャンが座り、あれこれ口を出して後輩の指導にあたる。ナイトフォールは向かいに座り、必要のない道具をひとつにまとめてかたわらに置いた。

「まずは下書きからだろ。ほら、メモ使えよ」
「そういえば僕、先生の住所知らないよ?」
「本の後ろに出版社の住所が載っているだろう。そちらに宛てて送れば作者に転送してもらえるよ」

 ナイトフォールに言われて、ルーニャは『かぐや姫』の裏表紙をめくった。奥付に作者の名前や出版年などが書かれている。
 ジャンがちらっとのぞいて言った。

「ナヨ・タケ。ペンネームが安直でわらえるけど。そういえばかぐや姫が生まれたときに入ってたタケってさ、いわゆる宇宙船だよな」
「赤ちゃんしか入れない?」
「そうそう」

 さて、はじめてのファンレターである。
 ルーニャは鉛筆を握りしめた。メモ用紙がまぶしいほど白い。

「最初は……挨拶あいさつから?」

 下書きなら失敗してもいいので、気が楽だった。は、じ、め、ま、し、て……。一文字ずつ声に出しながら書いていく。僕は、ルーニャといいます。……。それから?

「何て書けばいいんだろう……」
「先生の本を楽しく読みました。一番のお気に入りです、とか?」
「そっか。先生の、本を……」
「待て待て、俺の言ったことを一字一句真似したら意味ないだろ。ちゃんとお前の言葉で伝えないと」
「ええ、ええと…… ドキドキする!」

 本題に入ろうというところでグッ!と緊張してしまった。ルーニャの表情が固くなる。「おもしろかった」と一言伝えるだけなのに、言外にもっと重いものが含まれていて、とてつもないエネルギーを使うことを知った。

「ブルーの好きなところ、どのシーンが印象的だったか、書いてみるといいんじゃないかな」
「ブルーの……」

 ナイトフォールが助け船を出す。ルーニャは主人と若者にはさまれて、頭を爆発させながらたどたどしい文章をひねり出した。

「これからも、応援していま、す……」
「ほら、手が震えてるぞ。なんだよそのミミズ文字は」
「ジャン」
「はーい」
「う~……!」

 とりあえず手紙の形だけできたので、ルーニャはふう! と大きなため息をいた。さらに「てにをは」などを直さなければいけない。メモ用紙が真っ黒になったので、ナイトフォールが新しい紙を差し出した。

「ありがとうございます」
「ジャン先生もそろそろ時間だから、続きはあとにしようか?」

 尊称を使われたのでなんだか得意気になったジャンは、帰りは少し遅くなってもかまわないと言いかけて、ハッとした。
 ナイトフォール先生が、じつに楽しそうな顔で少年のことを見ていたのだ。数ヵ月一緒にいるけれど、そんな表情をするのはルルの本を語るときくらいだ。

 瞬間、ジャンは理解してしまう。

 先生にとってルーニャは「お気に入り」なのだ。自分より特別なのだと。
 顔には出さず、むすっとしてジャンはメモを読み返しているルーニャに声をかけた。

「手紙、清書するなら一人で考える方が集中できるだろ。俺はその間に石榴ざくろの部屋へ行ってるよ」
「うん、やってみる。ありがとう、ジャン」
「先生、さっき言っていた本を教えてください」

 ナイトフォールがルーニャといくつか言葉を交わすのを聞きながら、ジャンは受験するなら絶対ナイトフォール先生の勤める大学に入ろうと決めた。


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