【完結】ディープキス

コハラ

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7話

缶詰5日目 揺れる気持ち【9】

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 アボカドとクリームチーズのサラダ、かぶと生ハムのマリネ、サーモンのカルパッチョ、ほうれん草のキッシュなどのつまみを食べながら、シャンパンを飲んだ。

 新井さんが選んでくれたクリュッグのやつはスッキリとした味わいで飲みやすく、おつまみも美味しい。

 新井さんと仕事の話をサラッとした後に、森山君の妹との関係をこちらから聞いてみた。
 中学高校と愛子さんとは同じ演劇部だったそうだ。

「新井さん、演劇やってたんだ。新井さん可愛いからヒロインとか似合いそうね」
「いえ、全然。私は大根役者でして。ずっと端役ばっかりでした」

 照れくさそうな笑みを新井さんが浮かべた。端役ばかりだなんてちょっと意外。新井さんは目立つのに。

「私と違って愛子は上手かったですよ。いつも主役か准主役をやってましたから。普段は目立たない子なんですけど、舞台に立つと物凄く輝くんですよ。涼君も公演があるといつも舞台を観に来てて、多分、愛子の一番のファンだったと思います」
「へえー、森山君って妹思いなんだ」
「いつも花束を持って観に来てました」
「森山君、いいお兄さんね。愛子さんが結婚したら、絶対号泣しそうね」

 新井さんの顔から笑顔が消えて、沈んだように見えた。
 何かいけない事を言ったんだろうか。

「新井さん、どうしたの?」

 新井さんのパッチリとした目はあっという間に涙に濡れた。

「新井さん、ごめん。私、何か気に障る事言った?」
「……すみません、ちょっと」

 新井さんがハンカチを取り出して、目元にあてた。

「本当にごめんなさい。急に泣き出して、引きますよね」

 ハンカチから顔を上げて、新井さんが言った。
 赤くなった目は何だか痛々しい。

「そんな事ないよ。私こそ、何か変な事を言ってしまったね。ごめんね」

 新井さんが違うというように首を左右に振った。

「春川さんは何も悪くありません。敏感に反応してしまった私がいけないんです。ああ、今日は泣かないって決めてたのに。ダメですね」

 形のいい唇を上げて微笑んだ顔が弱々しく見える。
 一体どうしたんだろう?何があったんだろう?

「もう平気だと思ったんですけど、愛子の話はやっぱりちょっと辛いです」

 新井さんが息をついた。

「やっぱりボトルでシャンパン取りませんか?私、出すんで」
「うん。いいけど」

 新井さんがウェイターを呼んで、クリュッグの2万円のボトルのやつを頼んだ。

「今日は特別な日なんです」

 そう言って、ウェイターがボトルからついだシャンパンを新井さんが飲んだ。

「二十歳になったらクリュッグのシャンパン、飲もうねって愛子と約束したんですけど、彼女はその約束を守る事が出来なかった」

 静かに、過去を顧みるような話し方から寂しさを感じる。
 もしかして、愛子さんは……。

「今日は愛子の命日なんです。彼女、19才で亡くなったんです」

 新井さんの瞳がまたうるっとした。
 
 19才で亡くなった……。
 
 今、新井さんは23才だから、19才というと4年前だ。
 森山君の妹さんはなんて若さで亡くなってるんだろう。
 人生これからだったのに。
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