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2.継母、継姉二人を用意する

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 そうと決まれば、シェランの行動は早かった。

 絶世の美人に化けたその足で、見事にトレンマーダ男爵を引っ掛け、酒でほろ酔いにさせて結婚証書に署名させる。「美味い話がある」と吹き込んで、そのまま流れるように蟹漁船に放り込む、いや、ご乗船いただいた。

 我ながら惚れ惚れするような詐欺行為だな……とシェランは思ったのだが、気になることが一つ。

 酔っ払った男爵が泣きながら、

「うちの娘は……シンデレラは、可哀想な子なんです。どうかあの子を可愛がってやって下さい」

 と何度も繰り返し言っていたことだ。

 一見、娘想いの良き父のように見えるが、

シンデレラ灰かぶりのエラ? それが娘の名前なのか? 実の娘に「灰かぶり」なんて酷い名前をつける親がどこにいる?)

 貴族というのは割と闇深い連中で、外からは分からぬ異常性やら業やらを抱えていたりするものだが、この男爵家もそうなのだろうか。その娘を虐めて追い出す気満々のシェランが何か言えた義理ではないのだが、妙に気に掛かる。

(まあ、いずれ分かることだが)

 軽く首を捻りながら、シェランは自宅の一室で、子飼いのごろつき二人にドレスを着せ付けていた。顔に白粉をはたき、自然に見える化粧をほどこし、綺麗な鬘を被せ……

「……いや、こいつは酷えな」

 シェランはピュウッと口笛を吹いた。

 もはや笑うしかない。彼の部下であるアンガスとドクは、熊のような大男と幽霊のような痩せた男、という分かりやすい凸凹コンビだ。この二人を自分の連れ子として男爵邸に連れて行くつもりなのだが、こんな女装で騙される奴がいるか? こんな作戦を考えたのはどこのどいつだ。ひょっとして俺か?

(俺だったな)

 男爵を遥か遠くの洋上まで追い出してやった以上、いまさら詐欺の仕上がりにこだわる必要もないのだが。

 まあ、この見た目なら、男爵の娘も一瞬で震え上がってくれるかもしれない。

「おいアンガス、ドレス姿でガニ股歩きは止めろ。ドスドス音を立てて歩くな。……と言っても無理か。まあいい、これからはどんな時でも語尾に『ですわ』と付けろよ」

 早々に諦めの境地に達して、シェランはそれだけを厳命した。

「うす。ですわ」
「ドクもだ。お行儀良くしろよ」
「俺はいつでも大人しくしてます、ですわ。ボス」
「よしよし」

 鏡に映るのは、国を傾けそうな魔性の美女たるシェラン、ドレスの絹地がぱつぱつに弾け飛びそうなアンガス、どんなに頬紅を差しても棺桶から出てきたばかりのような顔をしているドク。

 それが今日から、男爵夫人のシェリー、長女のアン、次女のドリスと名乗ることになるのだ。当面の目的は、男爵の一人娘シンデレラを虐めて、虐めて、虐め抜くこと。

「首を洗って待ってなさいシンデレラ。一刻も早く修道院に行きたいと思わせてあげるわ!」

 ああ、少し高く意識した作り声もいい感じだ。このまま地獄のように意地悪な継母を演じてやろうじゃないか、とシェランは気合を入れたのであった。
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