【完結】「お前たち! 今日もシンデレラを虐めるわよ!」「……今日も失敗したか、だが俺は諦めんぞ」

雪野原よる

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7.継母、倒錯した世界を作る

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「こっち側を持ちなさい」

 シンデレラに命じて、ドレスの余った部分を持ち上げさせながら手際よく紐で結んでいく。

 彼女には大きすぎるドレスだが、何とかまとめ上げることが出来た。あちこちダブついてはいるが、シンデレラが痩せすぎなので、多少膨らんで見えるぐらいで構わないだろう。勿論、理想はきちんとサイズの合う服を買って着せることなのだが。

 次は、靴だ。

「寝台に座りなさい」

 命じると、虚空でも見据えるように大きく目を見開いたまま、シンデレラがすとんと寝台に腰を下ろした。

 その前に片膝をつき、少女の足を捉えて持ち上げて、シェランは靴を履かせていった。やはり彼女には大きすぎ、ぶかぶかで浮いているのを、リボンを使って巻き付けるように結んでいく。

「今はこれで我慢なさい。じきに新しいのを買うわ」
「……」

 なぜか、声にならないようだ。シンデレラはこくこくと頷いた。

 シェランは彼女の足から手を放そうとして、ふと、しげしげと眺め下ろした。やけに小さな足だ。子供のような足だな、こんな足でずっと働いていたのか、とじっと見て──

「ボス! 食事の準備ができたですわ……」

 扉が開き、アンガスの野太い声が響いて、最後は掠れて消えた。シェランが目を上げると、戸口でアンガスが固まっている。どんぐり眼が見開かれ、口も大きく開かれていた。

(なんだ?)

 シェランは眉を顰めた。

 そして次の瞬間、彼のそれなりに回転の早い頭は、なんとなく事態を把握した。

 寝台に座っている、痩せて頼りなげな少女。その前に背が高い、優美な男爵夫人が片膝をつき、まるで騎士が姫君に跪くようなポーズで少女の足を持ち上げ、靴を履かせている。

 しかもその男爵夫人は、いつもは冷ややかな目を少女に注ぎ、傲慢な態度で振る舞っているのだ。

 端的に言って、

(倒錯的すぎるな)

 絵画にでもしたらどうだ。意外に売れるんじゃないのか? この俺の美貌だしな? とシェランは投げやりに考え、シンデレラの足を放して立ち上がった。

 うっかりしていて、男爵夫人の優雅な所作ではなく、生来のきびきびした男の動きになってしまっていたが、シンデレラは俯いていてこちらを見ていない。見ていたところで、彼女がシェランの正体を見破れるとは思わないのだが。

 シェランはアンガスの肩をぽんぽんと叩き、

「ご苦労だったわ、今行きます、……下がってろ」

 後半は耳元で囁くように言って追い返した。

 囁かれたアンガスがちょっと赤くなっていたのは、見てみぬふりをした。部下たちはシェランの美貌を見慣れているとはいえ、やっぱりシェランが規格外すぎるのだ。自分でもたまに鏡を見て「美しすぎてヤベぇ」と思うぐらいなのだから、部下が戸惑うのも仕方がない。

(……それよりどうした、この状況。なんでこうなった)

 その夜、シンデレラに温かい食事を与え、客用寝室のきちんとした寝台に突っ込んだ後で。

 ようやく、シェランは自分の立てた計画が滅茶苦茶になっていることを再認識して頭を抱えた。
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