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6.シェラン「これは小動物じゃないんだぞ」
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実のところを言えば、シンデレラの着ていたボロボロの服を破り捨てたことを、シェランは悪いとは思っていない。
なんたって、本当に酷いボロだったのである。あれは人が着るものじゃない。健康にも良くない。それは、嫌がっているところを無理矢理剥いだのは、多少悪かったと思っているのだが……
それはともかく。
(何か着せるものはないか)
即座に自分の部屋と定めた主寝室の床に、スーツケースを大きく広げて、シェランは次々とドレスを引っ張り出していた。
彼の透明感のある美貌に添うような、品のいい青や白、銀糸織のドレスばかりである。男爵家では一切働かずに(通販番組ばかりを見て)過ごすつもりだったので、全て、くるぶし丈の長さに華奢なピンヒールの組み合わせだ。なお、シェランはどちらかというと長身なので、踵の高い靴を履いて男の横に立つと頭一つ分越えてしまったりするのだが、「女神のような女性」とは言われても「ごつい男」とは一切言われない。見た目で言えば、どこまでも詐欺師になるべく生まれてきたような男なのである。
(しかし、あの娘は痩せてるし小さいし、どれも合わないな)
靴も合わないだろう。あの娘が履いているものといえば、木靴なのである。木靴!
(童話に出てくる貧しい平民か!)
シェランは生まれ育ちはともあれ、都会で金持ちばかりを相手に生きてきたので、この世に未だに木靴が存在していたことが信じられない気持ちだ。しかも、大きすぎる木靴をあてがわれていたようで、足を引き摺るようにして歩いている。あれは酷い。貴族の娘として、歩き方に妙な癖がつくのは致命的だ。
(……仕方ない、後で通販番組で女性服一式を取り寄せるしかないな)
溜息をつきながら、シェランは比較的質素なドレスと薄い肌着、一番踵が低い靴を選び出した。
くるりと向きを変えてシンデレラを見ると──まるで手負いの獣のように、毛布に包まった痩せた娘がギラギラした目でこちらを見ていた。キラキラ、ではなくギラギラだ。
完全に警戒されている。
(警戒されるだけの元気が出てきたのはいいことだが)
奴隷のように扱われて、従順が身に染み付いた娘なのだから、噛み付かれたりはしないだろう。シェランは彼女の横に、バサッと服を投げ落とした。
シンデレラが、ビクッ! と身体を震わせた。
「いいこと、まずはその肌着を着なさい。紐ぐらい、自分で結べるわね?」
居丈高な口調で告げる。
「……」
「返事は?」
「はい、奥様」
「よろしい」
くるりと背中を向けてやったのは、シェランなりの情けだ。完全に「いまさら」ではあるのだが。
ごそごそと着込んでいる音が聞こえた。腕組みして待つ。
「着たかしら?」
「はい、奥様」
返ってきた声は、大人しいものだった。
シェランは腕をほどいて振り返った。シンデレラは膝まで届く長さの肌着を着て、顔を俯けて立っている。シェランが近付くと、おずおずと見上げてきた。
罠に捕らわれた小動物のような目付きだった。苦しみと諦観が混じった目。表情は虚ろなのに、大きな緑色の瞳に浮かんだ色は奇妙に生々しい。
シェランは胸を衝かれた。強烈に、哀れだと感じた。
(いやいや、これは怪我をした小動物とかじゃないんだぞ)
うっかりその頭を撫でてやりそうになって、シェランは堪えた。
なんたって、本当に酷いボロだったのである。あれは人が着るものじゃない。健康にも良くない。それは、嫌がっているところを無理矢理剥いだのは、多少悪かったと思っているのだが……
それはともかく。
(何か着せるものはないか)
即座に自分の部屋と定めた主寝室の床に、スーツケースを大きく広げて、シェランは次々とドレスを引っ張り出していた。
彼の透明感のある美貌に添うような、品のいい青や白、銀糸織のドレスばかりである。男爵家では一切働かずに(通販番組ばかりを見て)過ごすつもりだったので、全て、くるぶし丈の長さに華奢なピンヒールの組み合わせだ。なお、シェランはどちらかというと長身なので、踵の高い靴を履いて男の横に立つと頭一つ分越えてしまったりするのだが、「女神のような女性」とは言われても「ごつい男」とは一切言われない。見た目で言えば、どこまでも詐欺師になるべく生まれてきたような男なのである。
(しかし、あの娘は痩せてるし小さいし、どれも合わないな)
靴も合わないだろう。あの娘が履いているものといえば、木靴なのである。木靴!
(童話に出てくる貧しい平民か!)
シェランは生まれ育ちはともあれ、都会で金持ちばかりを相手に生きてきたので、この世に未だに木靴が存在していたことが信じられない気持ちだ。しかも、大きすぎる木靴をあてがわれていたようで、足を引き摺るようにして歩いている。あれは酷い。貴族の娘として、歩き方に妙な癖がつくのは致命的だ。
(……仕方ない、後で通販番組で女性服一式を取り寄せるしかないな)
溜息をつきながら、シェランは比較的質素なドレスと薄い肌着、一番踵が低い靴を選び出した。
くるりと向きを変えてシンデレラを見ると──まるで手負いの獣のように、毛布に包まった痩せた娘がギラギラした目でこちらを見ていた。キラキラ、ではなくギラギラだ。
完全に警戒されている。
(警戒されるだけの元気が出てきたのはいいことだが)
奴隷のように扱われて、従順が身に染み付いた娘なのだから、噛み付かれたりはしないだろう。シェランは彼女の横に、バサッと服を投げ落とした。
シンデレラが、ビクッ! と身体を震わせた。
「いいこと、まずはその肌着を着なさい。紐ぐらい、自分で結べるわね?」
居丈高な口調で告げる。
「……」
「返事は?」
「はい、奥様」
「よろしい」
くるりと背中を向けてやったのは、シェランなりの情けだ。完全に「いまさら」ではあるのだが。
ごそごそと着込んでいる音が聞こえた。腕組みして待つ。
「着たかしら?」
「はい、奥様」
返ってきた声は、大人しいものだった。
シェランは腕をほどいて振り返った。シンデレラは膝まで届く長さの肌着を着て、顔を俯けて立っている。シェランが近付くと、おずおずと見上げてきた。
罠に捕らわれた小動物のような目付きだった。苦しみと諦観が混じった目。表情は虚ろなのに、大きな緑色の瞳に浮かんだ色は奇妙に生々しい。
シェランは胸を衝かれた。強烈に、哀れだと感じた。
(いやいや、これは怪我をした小動物とかじゃないんだぞ)
うっかりその頭を撫でてやりそうになって、シェランは堪えた。
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