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26.詐欺師、バレる
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「さ、詐欺師?」
男爵の顔が青褪めた。
シェランは唇の端を吊り上げて笑うと、見せ付けるように明るいランプの光の輪の中に立ち、ドレスの胸元を結ぶ紐を解き始めた。
「せっかくだから見せてやるよ。あんたが欲しがった美女の秘密、見たいだろう?」
見てもらわなければ困る。見て、色ボケした頭に男の裸体という現実を叩き込み、もう二度と「妻のために生きて帰る」などという意気込みと気合が湧かないようにしなければならない。
シェランはほっそりとして見えるが、だからこそドレスの下の身体は徹底的に引き締めている。後は詰め物を駆使して、優雅な凹凸があるように見せ掛けているだけだ。その下にあるのは筋肉の筋がしっかりした身体であり、贅肉がないからこそ、その筋はよりくっきりと際立つ。このぐらいの明るさがあれば、幻想の抱きようもないほどきちんと見えるだろう。
「あ……あ、わ、わ……お、男……」
呂律の回らない言葉を吐き出しながら、男爵がよろめいて後ずさった。
「……」
シェランは嗜虐的な笑みを深めた。
視界の端で、戸口の向こうから覗き込んでいるアンガスとドクの姿を確認する。シェランの指示で、仲間内の援護を頼んで、屋敷内に十人ほどのごろつきを引き入れているのだ。門の前で待たせている馬車まで、男爵を丁重に、大切な荷物としてお運びして差し上げて、そのまま目的地である極海の鉱山まで送り届ける予定だ。
なお、エラの部屋の前には簡易のバリケードと二人の男を配して、明朝まで出て来られないように塞いである。
(ここで、エラにやって来られては困るからな)
「私がお義母さまを守る」と言ってくれた少女の顔を思い出して、シェランの胸がちくりと痛んだが、彼はその感情を無視した。
関わらせないのが一番だ。
エラが眠っているうちに、さっさと全てを終わらせよう──
「お義母さまあああああ!」
特大のつむじ風が飛び込んできた。
(は?)
ボゴン! と勢い余って何かを粉砕する音がした。戸口に立っていた見張りの男がのされて床に倒れ込む。つむじ風……ではなく、飾り剣を手にしたエラが、部屋の真ん中に仁王立ちしていた。何事だ。シェランが我に返るより早く、据わった目を男爵に向け、
「お義母さまを手篭めにしようなんて……許さない! 一生寝てろォ!!」
スチャ! と構えた剣の刃を、力任せに男爵の頭に叩き付けた。
……あくまで儀礼用のなまくら剣で、幽霊ぐらいしか祓えない仕様でよかった。エラもそれを分かっていて全力で叩いたのだろう。多分。
シェランは呆然としながらも、素早く戸口に視線を走らせ、同じように呆然と立っているアンガスとドクの姿を見た。その視線の間で、スローモーションのように男爵が崩れ落ちる。シェランは脳が痺れるような感覚を味わいながら、無理矢理指を動かして、はだけた服を手繰り寄せ、胸元を覆った。
「お義母さま!!」
振り返ったエラが、仔犬が飛びつくように駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?! ああ、あの男に無理矢理脱がされて……」
「だ、大丈夫よ、大丈夫」
シェランは機械じみた声で返したが、エラが突如大粒の涙を零し始めたのでぎょっとした。
「お義母さま……お義母さまぁ……」
「エ、エラ?」
「お義母さまが、あんな男に触れられるなんて……」
誤解している。大いに誤解されている。
だが、その誤解をシェランが解くより早く、エラは泣きながらシェランの襟元に手を掛け、大きく左右に開いて、シェランが隠していた胸元をランプの灯の元にさらけ出した。
「──え?」
待ちなさい、何を見ているの、悪い子だわ……などという文言がシェランの頭の中に泡のように浮かんでは消えていく。
(この場で何を言えと)
見られている。緑色の目を見開いて、食い入るように、滅茶苦茶エラに見られている。
「……」
沈黙が続き、それも延々と続いた。その間、シェランは色々なことを考えたのだが、最終的には諦観が全てを埋め尽くした。
(だって、無理だろ。こんな破天荒な娘……俺が予想した以上のことを毎回やりやがって)
そういうところも嫌いではない。というか、そういうところがあるから好きになったのだ。
これはもはやどうしようもない。後は、なるべく彼女を傷付けずに話すことが出来ればいいのだが。
シェランは天を仰いで溜息をつき、
「……エラ。とりあえず座って話さないか?」
初めてエラに向ける素の声で、そう提案した。
男爵の顔が青褪めた。
シェランは唇の端を吊り上げて笑うと、見せ付けるように明るいランプの光の輪の中に立ち、ドレスの胸元を結ぶ紐を解き始めた。
「せっかくだから見せてやるよ。あんたが欲しがった美女の秘密、見たいだろう?」
見てもらわなければ困る。見て、色ボケした頭に男の裸体という現実を叩き込み、もう二度と「妻のために生きて帰る」などという意気込みと気合が湧かないようにしなければならない。
シェランはほっそりとして見えるが、だからこそドレスの下の身体は徹底的に引き締めている。後は詰め物を駆使して、優雅な凹凸があるように見せ掛けているだけだ。その下にあるのは筋肉の筋がしっかりした身体であり、贅肉がないからこそ、その筋はよりくっきりと際立つ。このぐらいの明るさがあれば、幻想の抱きようもないほどきちんと見えるだろう。
「あ……あ、わ、わ……お、男……」
呂律の回らない言葉を吐き出しながら、男爵がよろめいて後ずさった。
「……」
シェランは嗜虐的な笑みを深めた。
視界の端で、戸口の向こうから覗き込んでいるアンガスとドクの姿を確認する。シェランの指示で、仲間内の援護を頼んで、屋敷内に十人ほどのごろつきを引き入れているのだ。門の前で待たせている馬車まで、男爵を丁重に、大切な荷物としてお運びして差し上げて、そのまま目的地である極海の鉱山まで送り届ける予定だ。
なお、エラの部屋の前には簡易のバリケードと二人の男を配して、明朝まで出て来られないように塞いである。
(ここで、エラにやって来られては困るからな)
「私がお義母さまを守る」と言ってくれた少女の顔を思い出して、シェランの胸がちくりと痛んだが、彼はその感情を無視した。
関わらせないのが一番だ。
エラが眠っているうちに、さっさと全てを終わらせよう──
「お義母さまあああああ!」
特大のつむじ風が飛び込んできた。
(は?)
ボゴン! と勢い余って何かを粉砕する音がした。戸口に立っていた見張りの男がのされて床に倒れ込む。つむじ風……ではなく、飾り剣を手にしたエラが、部屋の真ん中に仁王立ちしていた。何事だ。シェランが我に返るより早く、据わった目を男爵に向け、
「お義母さまを手篭めにしようなんて……許さない! 一生寝てろォ!!」
スチャ! と構えた剣の刃を、力任せに男爵の頭に叩き付けた。
……あくまで儀礼用のなまくら剣で、幽霊ぐらいしか祓えない仕様でよかった。エラもそれを分かっていて全力で叩いたのだろう。多分。
シェランは呆然としながらも、素早く戸口に視線を走らせ、同じように呆然と立っているアンガスとドクの姿を見た。その視線の間で、スローモーションのように男爵が崩れ落ちる。シェランは脳が痺れるような感覚を味わいながら、無理矢理指を動かして、はだけた服を手繰り寄せ、胸元を覆った。
「お義母さま!!」
振り返ったエラが、仔犬が飛びつくように駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?! ああ、あの男に無理矢理脱がされて……」
「だ、大丈夫よ、大丈夫」
シェランは機械じみた声で返したが、エラが突如大粒の涙を零し始めたのでぎょっとした。
「お義母さま……お義母さまぁ……」
「エ、エラ?」
「お義母さまが、あんな男に触れられるなんて……」
誤解している。大いに誤解されている。
だが、その誤解をシェランが解くより早く、エラは泣きながらシェランの襟元に手を掛け、大きく左右に開いて、シェランが隠していた胸元をランプの灯の元にさらけ出した。
「──え?」
待ちなさい、何を見ているの、悪い子だわ……などという文言がシェランの頭の中に泡のように浮かんでは消えていく。
(この場で何を言えと)
見られている。緑色の目を見開いて、食い入るように、滅茶苦茶エラに見られている。
「……」
沈黙が続き、それも延々と続いた。その間、シェランは色々なことを考えたのだが、最終的には諦観が全てを埋め尽くした。
(だって、無理だろ。こんな破天荒な娘……俺が予想した以上のことを毎回やりやがって)
そういうところも嫌いではない。というか、そういうところがあるから好きになったのだ。
これはもはやどうしようもない。後は、なるべく彼女を傷付けずに話すことが出来ればいいのだが。
シェランは天を仰いで溜息をつき、
「……エラ。とりあえず座って話さないか?」
初めてエラに向ける素の声で、そう提案した。
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