0と1の感情

ミズイロアシ

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第二部

06 何通りもの私

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 後日、巷のブティックにて、ロゼはバレエ観劇に着ていくドレスに悩んでいた。

 きらびやかなドレスに囲まれて、慣れない場にまだ子どもである彼女の体強張った。

「ロゼ。どれか、手に取ってみては?」
「そ、そうだね、マキナ」

 平常運転のマキナに促され、手前のラックから目に付いたものを適当に手に取った。

 鏡の前で黄色いドレスを合わせてみる。
 今度は他のドレスを体に当てた。それを数回繰り返した。

「ねえ、ポール? これは、どうかな」

 付き添いの彼に花柄のドレスを見せた。

「うん、良いと思うよ」

「もう! そればっかじゃない」
 鏡の前で左右の手に持つドレスを交互に当てた。

「どれも可愛いし」額に冷や汗をかいていた。

「正直でよろしい」

 冗談を言って両手のドレスをラックへ戻した。

「なかなか、決まりませんね」マキナが棒読みで言った。

「だってポールが」
「お、俺!?」

 ポールは女の子にたじたじだった。

 ロゼは初めてのドレスに選ぶのが不安だった。
 そこでポールを引っ張り出したのだが、流石に彼も女の子の衣装を選ぶのには骨が折れた。

「もう! どうしよう」
「たはは……」
「すみません。ロゼに、悪気はないのです」
「マキナぁ?」

 ロゼは心外だと言う顔をした。次のドレスに手を伸ばした。

「大丈夫だよ、マキナ。俺、これでも楽しんでるから」
「楽しい、ですか?」

 ロボットは首を傾げた。

「うん。妹って、こんな感じなのかなって思って」ロゼを見て言った。

「私も」

 ロゼは彼に答えるように

「お兄ちゃんがいたら――ううん。家族がいたなら、きっともっと楽しかったろうなって。えへ」

と言って笑った。

「ロゼ……俺も、孤児は他人事じゃないからなあ~。じいちゃんがいなければ、きっとロゼと同じ運命だったよ」

 彼の優しい笑顔に、少女は元気をもらった気がした。

「ポールも、家族を亡くしたのね。戦争で」

 彼は頷きを返した。肯定を示したのだ。

「両親をね。でも、少なからず皆、大切な人を失っていると思うよ。エリオも、ダグラスもね」
「そうなの?」
「ああ、そうさ。そういえば、ダグラスは妹がいたっけなあ。お兄さんもいたけど、自警団の一員に――」
「妹?」
「うん、そう。でもー……生きてたらロゼより少し大きいけどね」

「そうなんだ……」
 またあの二人に会いたいなと思った。



 様々なドレスを着試した。しかしコレだというのに出会えないでいた。

「マキナは、私にはどんなのが似合うと思う?」
「はあ、そうですね……」

 ロボットは、小さな主人の姿を視線を上下させて見て、考えた。

 ロゼはマキナの導き出す案を待った。

「ロゼは……明るい、温かい色が似合う気がします」
「えっ」
「うん。俺もそう思う」

 三人は意見をまとめて、ロゼにぴったりのドレス探しを再開するのだった。
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