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この胸の高鳴りは……【side蓮】4
「え? 何ごめん、もう一度言ってくれるかな?」
撮影のあとの車の中。
チッと舌打ちをして、前の車に文句をつけている。そんな美月さんに、ひるみながらも口を開く。
「だから、その……」
運転中の美月さんは少々気が荒い。
ハンドルをにぎると人が変わる典型だ。
とてもいいマネージャーだと思っているが、限られた時間の中で唯一ゆっくりと話ができる車内。もう少し穏やかに会話をしたい。わがままだろうか。
「あの……。役が抜けたあとも、感情だけ引きずることってあるんですかね?」
「んー? なんかもっと分かりやすく話せない? どういうこと?」
「えっと……。撮影が終わると役は抜けるのに、感情だけがずっと続くんです。好きだとか愛しいとか、そういう気持ちが――――」
そこで急に車が曲がったと思ったら目の前にコンビニが現れて、美月さんは乱暴に駐車をした。
「ち、ちょっと危ないですよ、もう少し丁寧に運転――――」
「なになになになに! 蓮くん目覚めちゃったの?!」
「……え?」
「やだー! 生BL拝めちゃうの?! ちょっとどうしよう!」
キャーキャーと興奮して暴れている美月さんに、尻込みをしつつ口をはさんだ。
「違いますっ!」
「え? 違わないでしょ?」
「そういう話じゃないですよ。俺は、感情が引きずることがあるのか、知りたいだけで」
「だから、秋人くんが好きってことでしょ?」
「……っ、だから、役の感情が残ってしまって……」
「ふぅん。役の感情ねぇ」
美月さんはふり返ると、背もたれの横から顔を出して、ジッと俺の顔を見る。
「なんですか」
「蓮くん、ずーっと秋人くんにドキドキしてたんだよね? キスシーンなんかできないって悩むくらい」
「そ、それは……秋さんが綺麗だから……であって……」
「そのときと、今と、どう違うの?」
「ぜんぜん違いますよ。前は近づくとドキドキしちゃってただけで。今は、側にいなくてもずっとドキドキしてます。思い出すだけで、好きって気持ちがあふれて……。だから、撮影のときと同じ感じなんですよ」
「思い出すのって、ドラマの中の恋人? それとも秋人くん?」
「…………あ、きさん……です」
美月さんが目を細めて、ニヤニヤとこちらを見ている。
「私が思うに、蓮くんはずっと秋人くんに惹かれてて、だんだん気持ちが育っていって、今、なんだと思うよ?」
ふふふ、と笑いながらそんなことを言う。
「……美月さんに相談したのが間違いでした。忘れてください」
「分かったわかった。ごめんって。じゃあちゃんと答えるけど、実際に共演相手と結婚したりお付き合いしたりは、あるよね。それが役の感情を引きずったかどうかは、分からないけど」
「……そう、ですよね」
「役の感情を引きずった、っていう話は聞いたことないよ。好きになっちゃったってことなら、あるけどね。うーん、紙一重だよね。線引が分からない」
引きずったかどうかは、分からない。線引がどこか分からない。確かにそうだよな、と思った。
今三十歳の美月さんが何人の役者と関わってきたかは分からないけれど、事務所には大勢の役者がいる。
その美月さんが聞いたことがないなら、みんな線引が分からなくて、気持ちを受け入れたってことなのか。
考え込んでいると、美月さんは少し悲しそうな声色で聞いてきた。
「蓮くんは、男同士だから認めたくなくて、あがいてるの?」
「いえ。そうじゃないです」
「違うの?」
「もし本当にそうだったら……秋さんに知られたらって思うと死ぬほど怖いです。絶対にきらわれたくないから。でも同性だって、好きになっちゃったらそれは本当に好きなんだろうし。別に偏見とか全くないし」
「じゃあ何に悩んでるの?」
「…………」
さっきまで真面目に聞いてくれなかった美月さんに、話す気になれない。だから黙っていた。
「もう、ごめんって。ちゃんと聞くから話してみてよ」
「……茶化さないで聞いてくれます?」
「うん。茶化さない」
なんとなく、ワクワクしてる感が否めない。
でも他に話せる相手もいないので話すしかないか、と諦め気分で話し始めた。
撮影のあとの車の中。
チッと舌打ちをして、前の車に文句をつけている。そんな美月さんに、ひるみながらも口を開く。
「だから、その……」
運転中の美月さんは少々気が荒い。
ハンドルをにぎると人が変わる典型だ。
とてもいいマネージャーだと思っているが、限られた時間の中で唯一ゆっくりと話ができる車内。もう少し穏やかに会話をしたい。わがままだろうか。
「あの……。役が抜けたあとも、感情だけ引きずることってあるんですかね?」
「んー? なんかもっと分かりやすく話せない? どういうこと?」
「えっと……。撮影が終わると役は抜けるのに、感情だけがずっと続くんです。好きだとか愛しいとか、そういう気持ちが――――」
そこで急に車が曲がったと思ったら目の前にコンビニが現れて、美月さんは乱暴に駐車をした。
「ち、ちょっと危ないですよ、もう少し丁寧に運転――――」
「なになになになに! 蓮くん目覚めちゃったの?!」
「……え?」
「やだー! 生BL拝めちゃうの?! ちょっとどうしよう!」
キャーキャーと興奮して暴れている美月さんに、尻込みをしつつ口をはさんだ。
「違いますっ!」
「え? 違わないでしょ?」
「そういう話じゃないですよ。俺は、感情が引きずることがあるのか、知りたいだけで」
「だから、秋人くんが好きってことでしょ?」
「……っ、だから、役の感情が残ってしまって……」
「ふぅん。役の感情ねぇ」
美月さんはふり返ると、背もたれの横から顔を出して、ジッと俺の顔を見る。
「なんですか」
「蓮くん、ずーっと秋人くんにドキドキしてたんだよね? キスシーンなんかできないって悩むくらい」
「そ、それは……秋さんが綺麗だから……であって……」
「そのときと、今と、どう違うの?」
「ぜんぜん違いますよ。前は近づくとドキドキしちゃってただけで。今は、側にいなくてもずっとドキドキしてます。思い出すだけで、好きって気持ちがあふれて……。だから、撮影のときと同じ感じなんですよ」
「思い出すのって、ドラマの中の恋人? それとも秋人くん?」
「…………あ、きさん……です」
美月さんが目を細めて、ニヤニヤとこちらを見ている。
「私が思うに、蓮くんはずっと秋人くんに惹かれてて、だんだん気持ちが育っていって、今、なんだと思うよ?」
ふふふ、と笑いながらそんなことを言う。
「……美月さんに相談したのが間違いでした。忘れてください」
「分かったわかった。ごめんって。じゃあちゃんと答えるけど、実際に共演相手と結婚したりお付き合いしたりは、あるよね。それが役の感情を引きずったかどうかは、分からないけど」
「……そう、ですよね」
「役の感情を引きずった、っていう話は聞いたことないよ。好きになっちゃったってことなら、あるけどね。うーん、紙一重だよね。線引が分からない」
引きずったかどうかは、分からない。線引がどこか分からない。確かにそうだよな、と思った。
今三十歳の美月さんが何人の役者と関わってきたかは分からないけれど、事務所には大勢の役者がいる。
その美月さんが聞いたことがないなら、みんな線引が分からなくて、気持ちを受け入れたってことなのか。
考え込んでいると、美月さんは少し悲しそうな声色で聞いてきた。
「蓮くんは、男同士だから認めたくなくて、あがいてるの?」
「いえ。そうじゃないです」
「違うの?」
「もし本当にそうだったら……秋さんに知られたらって思うと死ぬほど怖いです。絶対にきらわれたくないから。でも同性だって、好きになっちゃったらそれは本当に好きなんだろうし。別に偏見とか全くないし」
「じゃあ何に悩んでるの?」
「…………」
さっきまで真面目に聞いてくれなかった美月さんに、話す気になれない。だから黙っていた。
「もう、ごめんって。ちゃんと聞くから話してみてよ」
「……茶化さないで聞いてくれます?」
「うん。茶化さない」
なんとなく、ワクワクしてる感が否めない。
でも他に話せる相手もいないので話すしかないか、と諦め気分で話し始めた。
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