記憶喪失から始まる、勘違いLove story

たっこ

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35 うざいくらいの「好き」▶月森side ※

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 準備だけでぐったりした先輩をベッドに優しく寝かせて俺が上になると、先輩がまた強がる言葉をこぼす。

「きょう……は、おれが抱く……っつってんだろ……」
「先輩、ろれつも回ってないのに無理ですよ」
「は……うそ言うな……」
「ほんとですって」

 とろんとした顔で必死に強がる先輩に苦笑する。
 昨日の素直な先輩を知っているから、余計に可愛さが倍増だ。

「先輩。もう大人しく抱かれててください」

 優しく頭を撫でながら、そっと唇にキスをした。

「……なに、お前……ほんと生意気……っ」
「そんなとろけた顔で言われても可愛いだけなんですけど……わかってます?」
「……っ」

 とろけてる自覚がなかったのか、先輩は目を見開いて、みるみる真っ赤になった。
 記憶を戻した先輩のこんなに可愛い姿が見られるなんて、まだ夢を見ている気分だ。
 昨日までの先輩が本当の先輩だと俺が見破ったから、きっともう表情が作れなくなっているんだろう。でも、素直にもなりきれず口調はそのままで、それが余計に可愛いから俺の顔はもうずっと緩みっぱなしで大変だ。

「先輩……いいですか?」

 指でトロトロにした先輩の後ろに、ゴムで準備した俺のものを軽く押し付ける。

「……んなの、聞くな。さっさと入れろ……」

 口調は強がっていても、表情は昨日と同じ。どこか甘えた感じで照れくさそうで、瞳も熱っぽい。

「痛かったら言ってくださいね」

 もう一度キスを落としてから、俺はゆっくりと先輩の中に沈み込んでいく。
 先輩は身構えるように一瞬だけ顔を強ばらせ、すぐに表情をゆるめた。
 昨日は無我夢中だったから、今日はもっと優しくやろう。昨日に比べれば今は少しだけ落ち着いている。でも、その分昨日より心臓がやばい。全身が心臓かと思うくらいに鼓動が暴れてる。先輩を失うかもしれないという不安がなくなって、幸福感でいっぱいで胸が苦しい。でもこれは幸せな痛みだ。
 ゆっくりゆっくり押し進めて、なんとか奥まで全部入った。
 うあ……やばい……先輩の中……やばい。
 
「は……ぁ、つきもり……」
 
 その切なげな声に全身が反応したとき、首に腕が回って引き寄せられた。
 
「すきだ……」
 
 先輩が耳元で甘くささやき、優しく俺を抱きしめる。
 だから……破壊力……っ!
 
「うっっ……ぁ……っ」
 
 嘘だ……っ、まだ入れただけなのに……っ。
 
「え……まさかイった?」
「……っ、ごめん……なさい……」
 
 ありえない……。情けなさすぎる……。誰か嘘だと言って……。
 羞恥でいっぱいになり、先輩の首元に顔をうずめると、先輩が豪快に吹き出した。

「ははっ。わ、悪い。笑っちゃ駄目だよな」

 そう言いながら、笑いが止まらない。
 俺は驚いて顔を上げた。
 事故に遭う前の先輩の、こんな心からの笑顔は初めて見る。
 ……いや、インターハイ初出場を決めたあの日にも見た、あの笑顔だ。そして、昨日までの先輩と同じ笑顔。

「そんなに良かったか? 俺の中」
「……はい、最高です」
「素直かっ」

 また、ぶはっと吹き出す。
 先輩……もうずっと笑っててください。
 俺の隣で、ずっと笑顔でいてほしい。
 何も気を張らずに、強がらずに、本当の先輩でいてほしい。
 でも、強がる先輩も、素直な先輩も、俺はどっちも大好きです。

「先輩……好きです。大好きです」
「……俺も、好きだよ」
 
 先輩の腕が俺を引き寄せ、唇を合わせた。
 キスをしながら、何度も何度も「好き」と伝える。何年も溜め込んだこの気持ちは、一生伝えても伝えきれそうにない。
 唇を合わせながら、先輩がまた笑いだした。

「何回言うんだよ」
「ずっとです」
「ずっとって、お前なぁ」

 あきれたように、でも目尻を下げて優しげに笑う。
 強がる先輩が少しずつ消えていく。昨日までのように、だんだんと穏やかになっていく先輩に、嬉しくて胸が熱くなった。

「先輩も、何回も言っていいですよ?」
「……言うかよ馬鹿」

 だよね……。

「……って言うと思ったろ?」
「え?」
「何度だって言うよ。好きだ……月森。ほんとに、好きだよ。もうわけわかんねぇくらい、お前しか見えない」
「せ、先輩……っ」

 先輩が頬を赤く染めて、熱い瞳で俺を見つめる。

「言ったろ。俺は重いんだ。セーブしないと……たぶんうぜぇくらい好きって言うぞ。お前よりもな」

 何それっ。嬉しすぎるんですけどっ。

「言ってほしいです!」
「……うぜぇって絶対」
「俺もうざいから大丈夫です!」
「お前はうざくねぇよ、全然」
「俺のほうが絶対重いんで! 絶対うざいです!」
「すげぇ力説だな」

 先輩がまた吹き出した。

「ほんとに、お前はうざくねぇよ。俺が重いから、お前も重いくらいでちょうどいい。俺がうぜぇって思うくらい……好きって言えよ。さっきのは……嬉しくて笑ったんだ」
「ほ……ほんとに?」
「……マジで……怖いくらいお前が好きだよ……」

 熱い瞳で伝えられた「好き」の言葉に、目頭が熱くなる。思わず先輩をぎゅっと抱きしめた。

「大好きです、先輩っ」
「俺も……大好きだ」
「先輩……っ」
「…………おい、おっきくする前にゴム取り替えろ」
「あ、は、はい、ごめんなさいっ」
「ごめんなさいは――――」
「禁止! でした!」
「よし」



 そのあとは先輩に無理をさせないように、ゆっくり優しく先輩を抱いた。

「……っ、ぁ……っ、ぅん……っ……っ」

 漏れ出る声を、先輩は必死で堪えようとする。
 唇をぎゅっと強く結び、でも堪えきれずに小さく喘ぐ。

「先輩の声、昨日いっぱい聞いちゃいましたから、我慢しないでください」

 そう伝えると「………っる……っせぇ、だまれ……っ」と、また強がりの先輩が顔を出す。
 でも、俺の「好き」の言葉には必ず答えてくれて、お互いにうざいくらい「好き」を繰り返し、途中で先輩がまた笑った。

「あ……っ、つきもり……っ、んっ、……あぁ……っ!」
「う……ぁっ……!」

 果てて脱力する俺の身体を、先輩が優しく抱きしめた。

「ん……、好きだ……つきもり……」
「俺も好きです……先輩」
「好きだ……」
「好き」
「大好きだ……」
「大好きです」

 これじゃきりがねぇな、と先輩が笑った。




「おい、月森」

 昨日の甘い先輩とは違う低い声にハッとなった。

「は、はいっ」
「いつまでやってんだ。昼食わねぇのか?」
「えっ、もう昼ですか?」

 先輩を思い出しながら仕事をすると時間が早いな。
 ミスがないといいけど……。
 ……大丈夫……だよね?
 
 
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