彼を探して〜Pay foreword to your Journey 〜

霜月美雨

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Yさんとよく行く、
行きつけの食堂があった。


時にはそこで
他の旅人と話をしたり、思いがけない再会があったり、
ローカルの店員との会話を楽しんだりする。


この日は珍しくローカル客が多くて
私達は2人だけで遅めのブランチをとった。


「美雨ちゃん、今日予定ある?」


注文が済むと Yさんが聞いた。


「特にないです。なんで?」



「服、見に行こか?」



「ぇ?いいの…??」



「勿論さぁ~^^ じゃ、決まり!」



このエリアには、試着中に女性客の体に執拗に触れたり、隠し撮りしたりする店も少なくない。


日本は世界的に性の取り締まりに緩いといわれているが、


当時のその国も
それを遥か上回る、想像を絶する度合いであった。


ーーーーーーーーーーーーーー

「ん~~。こっちのスカートに、
コレ合わせてみて。」


布屋さんの如く天井の棚までうず高く積み上げられた、色とりどりの衣類に目がチカチカする。


店内に一度入れば、Yさんはカリスマファッションデザイナーみたいに的確で鋭いアドバイスで、インスピレーションが冴え渡る。


ものの30分で
大量にある衣類の森林から
私に似合うものを選んでくれた。


日本でアパレル経験もあったYさんだけど、販売員というよりも、ファッションショーに出品するデザイナーさんを思わせる立ち振る舞いだった。


鮮やかな巻きスカートとスッキリとした綿麻シャツ。
自分がそれまで着ることのなかったタイプの服。
けれどとてもしっくりきて、自分のコンプレックスも気にならない。
ーーこんな着方もあるのか。。


おろしたてのスカートを身につけたまま、その店を後にした。


「ん~、やっぱり似合うね~^^
もっとお洒落したらいいのに~~」


「………ありがとう。………お洒落…か…。」


「そうよ?女の子楽しまなきゃ~。アクセサリーとかは付けないの?」


「ん~…あまり付けないかな。。リングとかは買ったことがあるけど…」


「ピアスはあいてるん?」


言いながら、Yさんは私の髪を耳にかけた。


「うん。インダストリアルだけ。」


「は?!ェ? リブは?」


「帰ったら開けようかなぁ~と思ってたとこ^^」

「リブ開けないで軟骨開けてる子、初めて会ったわ。俺。 きゃー笑」


「Yさん、あんまり付けてないけど、たくさんあいてますよね。今つけてるのもルビーみたいで綺麗…」


「これいーでしょ?気に入ってるんよ~。
あ。あそこの店、ちょっと見ていい?」


Yさんと私は、同じエリアのアクセサリーショップに入った。


店内には
民族的、伝統的なデザインから、
ガラス製のもの、近代的なデザインのもの…
色とりどりのブレスレットやペンダントなどが、所狭しと並んでいた。


赤ちゃんからピアスをする習慣があるこの国では、アクセサリーショップは女性達で賑わい、中には若いカップルもいたりする。
そういうところを見ると、何故だかほっこりした。



「わぁ…カラフル~~」



ピアス類はボードにズラリと並んでいて
サイズも様々だった。


私は蝶々のレリーフが入った風に揺れる
ライトグリーンのピアスと
ブルーのガラスビーズと鈴のついたピアスを手に取った。


Yさんは目がチカチカする小さなサイズを見ている。


「何か気に入ったのありました~~?」


「んーーもうちょっとよ~~」


ファッション関係を選んでいるときの彼は
目の光が特別だった。


「これとこれ。美雨ちゃんは好き?」


「私?」


自分用のを選んでくれていたとは知らず、
驚く。


白くてユニセックス風で個性的なデザインと
ダイヤモンドを模したシンプルなデザインの2つだった。


「綺麗ですね。好きだな^^」


「なら決まり!」


Yさんは私が選んできたものと合わせて
買ってくれた。


一度は遠慮して自分で払うと言ったけれど、
俺なら交渉して安く買うから。と
スマートに値切っている様子に
ただただ感心してしまう。


~~~~~~


その日、宿に帰った後に2人で包みを開けた。


「ん~~やっぱりいいわ~。」


満足げに本日の戦利品を眺める。
3週間ほど共に過ごしたYさんの口からは
否定的な発言やネガティブな言葉は聞いたことが無かった。


「この2つさ、
俺一個ずつ貰ってもいい?」


ーー!


なぜだかドキッと心臓が脈打った。
心についていかない表情のまま会話を繋ぐ


「もちろんですよ~~^^
付けてみて?」


Yさんはベッドの縁に半分腰掛けてピアスを付けると、サッと立ち上がり
そばの壁の鏡でチェックした。


「ん!気に入った!」


そう言いながら振り向く笑顔は
あどけない少年を思わせる。


彼はベッドに歩み寄りながら、
反対の耳に付けていた、ルビー風のピアスを外した。


「代わりにコレあげるよ。俺もう片方持ってるから。」


日本帰ってピアス開けたら付けて。
似合うと思うから。と
彼はそれを私に手渡した。


ーーーーなんで…こんなの 
…なんか…ズルくない…?


「……うん。ありがとう。」



アジア経由でヨーロッパを巡り、再びアジアに来ていたYさんは、この後中東とアフリカに向かう予定だ。


私の旅は、終盤に差し掛かっていた。


ーー日本に…帰るんだ。私……



逃げて来た現実が目の前に戻ってくる心細さに、ふいに胸が詰まる。


手のひらに乗せられた赤いピアスが
夕日を受けてキラキラと輝いている


その美しさが、まだ少し瘡蓋に染みて
旅愁の物悲しさを誘っていた。






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