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第一章 幸せを知らない令嬢と、やたらと甘い神様
第二話
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どうやって夜に教会まで行こうかと悩みながらも、神様の言葉に少しばかり期待して家に戻った。
すると婚約者が来ているから客室へと使用人が知らせに来て、その青い顔を見て良い知らせではないことはすぐに分かった。
「――アルサイーダ・ムシバ、私との婚約は解消してもらう」
私が部屋に入るなり、私の婚約者……だった人はソファに座りながら、ゴミを見るような目で私を見下して冷たくそう言い放った。
私は出入り口そばで、黙って立っていた。
いつかこうなることは、分かっていた。
家同士の政略結婚で愛情などお互い持ち合わせていないし、両親も結婚するだけでみすぼらしいお前が婚家に行くことはないと言い放っていた。
それに納得して婚約していたのだ……元婚約者様の人間性がうかがい知れる。
「ごめんねぇ、お姉様。でも美しい彼には、私の方が相応しいのよ」
それに私の妹と元婚約者が良い仲だということは、随分前から知っていた。
私の反応を楽しむようにニヤニヤと歪んだ笑みを浮かべている妹は、当たり前のように彼の隣に収まり、仲睦まじく身体を寄せ合っている。
元婚約者――いや、もう妹の婚約者か。
彼も似たような顔をしている……妹がだいぶ人間性に欠ける物言いをしているのだが、妹の婚約者は気にしていないようだ。
……似たものカップル、よくお似合いだ。
「まぁ、当然の選択でしょうな」
妹たちの向かい、テーブルを挟むように置かれたソファに座っていた父も、ニヤニヤとしながら言う。
「私もアレを全く愛せないので、あなた様のお気持ちはよく分かりますわ」
父の隣に座っている母も、チラリとこちらに侮蔑の視線を向けたかと思うと、扇で隠しきれていないほどの醜い笑みを浮かべながらそう言った。
これは私を傷つけ、その反応を見て楽しむ茶番……ショーだ。
家族は悲劇的状況に戸惑う私という無様な道化を見て、生活の鬱憤を晴らすために笑いたい観客。
でも私は悲劇に慣れ、すっかり無表情になっている道化だ。
家族の要望には答えられそうにない。
「まったく……可愛げのない女だ。泣きの一つでもすれば良いものを」
私のそんな様子を見た父は、面白くないとでも言いたげに苛ついた様子でそうこぼした。
「本当に。私達に笑いを提供できないなら、お前がいる意味なんてないのに」
母は父に同意して、私の存在意味を問いだした。
いつも通りの流れ……もう少しすれば、反応を見せない私に飽きた家族は、部屋に戻っていろと私を解放する。
でも、この日はいつもと違った。
私の婚約破棄が行われた日であり、そして妹の婚約が決まった日でもあるのだ……そんな特別な日に、彼女はさらなる余興を思いついていた。
「じゃあさ、いっそのことお姉様なんて捨てちゃおうよ」
妹が良いこと思いついたと手をパンッと合わせて、無邪気な提案を放り投げた。
さすがの私も耳を疑ったが、残念ながら表情が動くことはなかった。
「おぉ、それは良い提案だ。妹が嫁に行くのに、姉が実家に残っていては示しがつかないだろう」
「そうね。婚約破棄された傷物では、次の貰い手も見つからないでしょうし」
父と母はニヤニヤと笑いながらその提案に乗り、世間体を気にする風なことを言う。
私は夜会やお茶会にも出席していないし、ムシバ家の人間として表に出たこともない、そもそもまともに外に出してもらったことすらないのにだ。
それを分かっていながら、いや、分かっているからこそこんな悪魔のような話に乗ったのだろう。
「私も結婚したら実家を離れることになるし、ママやパパのためにもゴミ掃除はちゃんとしてからお嫁さんに行かないとね!」
妹が親孝行がんばると、ガッツポーズをしながらそう言う。
そしてチラリとこちらを見たかと思うと、にやぁ……と怪物のような笑顔を見せていた。
「お前は産まれてこなかったことにする。今すぐこの家を出ていけ」
――父がそう言い放って、私は家から追い出されることになった。
最後に見た妹の、それはそれは醜い怪物のような笑顔が頭にこびりついて離れない。
何も持ち出させるなという父の命令を守るために、気まずそうな使用人たちは私が客室から門の外に出るまで付いてきていた。
別に私の持ち物などほとんどないから、何も盗んだりはしないのに……。
外の世界での生き方なんて知らない、家族と使用人以外の人と関わったこともない……それでも、私は落ち込んでいなかった。
あの約束があるから。
ガシャンッと家の門が閉められて、私は外の世界に放り出された。
私は無表情な仮面を張り付けて、静かに教会へと向かった。
すると婚約者が来ているから客室へと使用人が知らせに来て、その青い顔を見て良い知らせではないことはすぐに分かった。
「――アルサイーダ・ムシバ、私との婚約は解消してもらう」
私が部屋に入るなり、私の婚約者……だった人はソファに座りながら、ゴミを見るような目で私を見下して冷たくそう言い放った。
私は出入り口そばで、黙って立っていた。
いつかこうなることは、分かっていた。
家同士の政略結婚で愛情などお互い持ち合わせていないし、両親も結婚するだけでみすぼらしいお前が婚家に行くことはないと言い放っていた。
それに納得して婚約していたのだ……元婚約者様の人間性がうかがい知れる。
「ごめんねぇ、お姉様。でも美しい彼には、私の方が相応しいのよ」
それに私の妹と元婚約者が良い仲だということは、随分前から知っていた。
私の反応を楽しむようにニヤニヤと歪んだ笑みを浮かべている妹は、当たり前のように彼の隣に収まり、仲睦まじく身体を寄せ合っている。
元婚約者――いや、もう妹の婚約者か。
彼も似たような顔をしている……妹がだいぶ人間性に欠ける物言いをしているのだが、妹の婚約者は気にしていないようだ。
……似たものカップル、よくお似合いだ。
「まぁ、当然の選択でしょうな」
妹たちの向かい、テーブルを挟むように置かれたソファに座っていた父も、ニヤニヤとしながら言う。
「私もアレを全く愛せないので、あなた様のお気持ちはよく分かりますわ」
父の隣に座っている母も、チラリとこちらに侮蔑の視線を向けたかと思うと、扇で隠しきれていないほどの醜い笑みを浮かべながらそう言った。
これは私を傷つけ、その反応を見て楽しむ茶番……ショーだ。
家族は悲劇的状況に戸惑う私という無様な道化を見て、生活の鬱憤を晴らすために笑いたい観客。
でも私は悲劇に慣れ、すっかり無表情になっている道化だ。
家族の要望には答えられそうにない。
「まったく……可愛げのない女だ。泣きの一つでもすれば良いものを」
私のそんな様子を見た父は、面白くないとでも言いたげに苛ついた様子でそうこぼした。
「本当に。私達に笑いを提供できないなら、お前がいる意味なんてないのに」
母は父に同意して、私の存在意味を問いだした。
いつも通りの流れ……もう少しすれば、反応を見せない私に飽きた家族は、部屋に戻っていろと私を解放する。
でも、この日はいつもと違った。
私の婚約破棄が行われた日であり、そして妹の婚約が決まった日でもあるのだ……そんな特別な日に、彼女はさらなる余興を思いついていた。
「じゃあさ、いっそのことお姉様なんて捨てちゃおうよ」
妹が良いこと思いついたと手をパンッと合わせて、無邪気な提案を放り投げた。
さすがの私も耳を疑ったが、残念ながら表情が動くことはなかった。
「おぉ、それは良い提案だ。妹が嫁に行くのに、姉が実家に残っていては示しがつかないだろう」
「そうね。婚約破棄された傷物では、次の貰い手も見つからないでしょうし」
父と母はニヤニヤと笑いながらその提案に乗り、世間体を気にする風なことを言う。
私は夜会やお茶会にも出席していないし、ムシバ家の人間として表に出たこともない、そもそもまともに外に出してもらったことすらないのにだ。
それを分かっていながら、いや、分かっているからこそこんな悪魔のような話に乗ったのだろう。
「私も結婚したら実家を離れることになるし、ママやパパのためにもゴミ掃除はちゃんとしてからお嫁さんに行かないとね!」
妹が親孝行がんばると、ガッツポーズをしながらそう言う。
そしてチラリとこちらを見たかと思うと、にやぁ……と怪物のような笑顔を見せていた。
「お前は産まれてこなかったことにする。今すぐこの家を出ていけ」
――父がそう言い放って、私は家から追い出されることになった。
最後に見た妹の、それはそれは醜い怪物のような笑顔が頭にこびりついて離れない。
何も持ち出させるなという父の命令を守るために、気まずそうな使用人たちは私が客室から門の外に出るまで付いてきていた。
別に私の持ち物などほとんどないから、何も盗んだりはしないのに……。
外の世界での生き方なんて知らない、家族と使用人以外の人と関わったこともない……それでも、私は落ち込んでいなかった。
あの約束があるから。
ガシャンッと家の門が閉められて、私は外の世界に放り出された。
私は無表情な仮面を張り付けて、静かに教会へと向かった。
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