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第十章 幸せを知った令嬢と、神様の終わらない溺愛

第四十話

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 カーフィンの第二子が産まれて、子どもたちはすくすくと成長していく。

 私の見た目は、イラホン様の妻になった時と何も変わらない。

 神の妻として仕事を手伝うようになって気が付いたけれど、人間と神とでは時の流れ方が違うように感じる。

 私達にはほんの少し時間が流れただけなのに、人間の成長と一生があっという間に過ぎ去っていく。

 けれど私は大切な人たちの一瞬一瞬を見逃さないように、できるだけ寄り添えるようにしながら願いを聞き遂げてパワーを与えていた。

 イラホン様は最近、空の神を継承するようにお父様から言われていて、その引き継ぎのために教会を離れることが増えた。

 最初は空の神になることを拒否して抵抗していたけれど、いつまでも逃れられるはずがなかった。

 それに加えて、ついこの前、カティ様とバハロン様がそれぞれ大地の神、海の神という三大神の座を引き継いだことも関係しているだろう。

 三大神であった父君たちは穏やかな隠居生活を送っているらしい。

 見た目だけでなく内面もそっくりなこの親子は、昔なじみの輪にできるだけ早く加わりたいと考えているのだろう。

 今の教会には、後任が入ることになる。

 人間に慈しみの心を持っている、人間に寄り添えるような神を探し出し……よろしく頼むと念押しして、すぐにでも任せられる状態になっている。

 ……けれど、私の要望でもう少しだけ引き継ぎを待ってもらっている。

 私はこの教会の人間として、を迎えたいから。

 教会の仕事が終わって、私は不在の神父に変わって教会の戸締まりをしてから瞬間移動でカーフィンの住む家へと向かう。

 歴代の神父が暮らすその家は、ある程度の人数が住めるように大きい邸宅になっているけれど……金持ちの嫌らしさはなく、家庭的で穏やかな空気に包まれている。

 カーフィンの部屋に入っていくと、ベッドに横たわる年老いたカーフィン。

 それを取り囲むように、すっかり成長してカーフィンの孫となる子供を抱いている娘、第二子として産まれて今は神父を引き継いでいる息子、泣きそうになりながら祖父を見守る孫たちがいた。

 子供や孫たちは、息も絶え絶えになっているカーフィンに懸命に声を掛ける。

 それだけで、カーフィンがいかに彼らに愛情を注いできたのか……いかに愛されているのかが伝わってくる。

 私はカーフィンにパワーを与えて、苦しまないように願う。

 すると呼吸がふいに楽になったカーフィンは、穏やかな表情で何もない天井に穏やかに微笑んでいた。

 そして家族の顔を見て、またにっこりと笑って口を開く。

「……わしは幸せだった。お前たちはこれからも幸せであれ」

 そう言って、眠るように息を引き取った。

 カーフィンの家族が泣き叫んで悲しみに暮れているのを見て、私までつられて涙が溢れる。

 しばらくすると、カーフィンの身体から魂が舞い上がるように出てきて、見慣れた……あの頃のカーフィンになっていく。

 静かに涙をこぼす私を見たカーフィンは、あの頃と同じように困ったような笑顔を浮かべて声を掛けてくれる。

「……また泣いてるのか、アルサ」

 声を掛けられただけで嬉しくて、もう言葉にならない。

 ただ泣きじゃくっていると、ふいに腰に手を回されて私に寄り添ってくれる……いつもの温かい感触がした。

 そしてパチンッと指を鳴らす音がして、気がつくと私たちは屋敷の見慣れた応接室まで来ていた。

「知っているだろう、アルサは涙もろいんだ」

 イラホン様はカーフィンに、バハロン様に声をかける時と同じトーンで話しかける。

 カーフィンは突然の瞬間移動に驚いていたけれど、イラホン様の姿を見ると納得したように笑っていた。

「まったく、アルサはいつまでもかわいい」

 かと思うと、イラホン様は甘い言葉を囁きながらおでこに唇を寄せてくる。

 驚きのあまり涙が少しだけ落ち着いて、顔を赤くしながらイラホン様の方を見ると、いたずらっ子のような微笑みを浮かべていた。

 もう……! と抗議しながらも、私もつられて笑っているとカーフィンが声を掛けてくる。

「……幸せそうで良かった」

 カーフィンも少しだけ泣きそうな、けれど心底嬉しそうな笑顔でそう言ってくれた。

 やっぱり、何年経ってもカーフィンはカーフィンだった。

 それが嬉しくて、そしてカーフィンの言葉に答えるためにも私も心からの笑顔を見せる。

「えぇ、私達は幸せよ」

 イラホン様の方を見なくても、同じ表情をしてくれているだろうと思える。

 嬉しそうに見守っているカーフィンに、私は身を乗り出す勢いで続ける。

「話したいことがたくさんあるの。ちゃんと天国まで送るから、少しゆっくりしていかない?」

 カーフィンにそう尋ねると、彼はもちろんと返事を返してくれた。

 けれど奥さんとの馴れ初めを聞くと、顔を真赤にして言いにくそうにしていて……イラホン様と一緒に、思わず笑ってしまった。
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