雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ

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第七章 最後の追放

第二十七話

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 床に転がって悶え苦しむ陛下の様子があまりにも無様で、私は笑いが堪えられずに口元を袖で隠しながらクスクスと笑う。

 眉間にシワを寄せ、顔を青くしながら黙っている陛下は、宴でだらしない真っ赤な顔をしているときよりも、何倍も無力的な男性になっていた。

「……さて、どこからご説明しましょうか」

 私は眼下で転がる陛下に微笑みかけ、優しく声をかける。

 陛下はそんな私をギロッと睨むが、死にかけの人間に睨まれたところで何も怖くないのでニコッと微笑みを返す。

「そもそも私が後宮に来たのは、陛下が宰相である私の父に『上級妃を排除したい』と相談したからでしたね。だから私はを請け負って、後宮に来ました」

 陛下は荒く必死に息をしながら、私の話を黙って聞いている。

 私は何も気付いていない様子の陛下にニコリと微笑み、さらに説明を続ける。

「邪魔者というのは上級妃と……陛下、あなた様のことです」

 陛下は声を出せずにいたが、明らかに驚きと疑問の表情を浮かべている。

 酒と性欲に塗れたその小さな頭で今、何を考えているのでしょうか……なぜ? どういうことだ? どうして? ですかね。

 私はクスッと微笑みながら、何も分かっていない様子の陛下に分かりやすく説明する。

「私は上級妃と陛下を排除するために後宮に来ました。陛下との契約で」

「よ、余は……ッ!」

 すると陛下はそんなこと言っていないとでも言いたげに、潰れた喉から懸命に声を絞り出す。

「私の雇い主はあなた様ではありません。……あなた様の弟君です」

 私がそう言うと、陛下の顔は驚愕を通り越して、一瞬毒による苦しみすらも忘れたかのように感情を失った表情をしていた。

 その表情は実に無様で、私はあまりのことに吹き出してしまった。

 慌てて口元を袖で隠して懸命に笑いを堪えるが、堪えきれずにクックック……と声が漏れてしまった。

 やっとの思いで笑いを抑えた私は、説明を続ける。

「皇弟陛下は堕落したあなた様が治めるこの国を憂いておられました。だから私の父に『陛下を排除したい』と相談したのです。兄弟で同じ人物に似たような相談をするなんて……これこそ運命ですね」

 私はニッコリと微笑みながらそう語るが、陛下は俯いて震えるばかりで返事を返してこない。

「そして父はそんな皇弟陛下こそ皇帝になるべきお人だと、その考えに賛同しました。そんな時です……あなた様が上級妃を排除したいと父に相談したのは」

 陛下はまだ俯いて震えていたが、毒が効いて私の話が聞こえていないのではないか、まだ存命かを確認するために髪を掴んで無理やり顔を上げさせる。

 すると陛下は困惑と恐怖の表情を浮かべていて、実に無様で笑えたので、私はニッコリと微笑んで話を続けた。

「これは邪魔者を排除する好機だと確信した父は、皇弟陛下と相談の上、娘である私を後宮に送り込んで上級妃とあなた様を排除させることにしました」

 私が陛下の髪を掴んでいた手をパッと離すと、陛下は重さのままに床に自分の頭を打ち付けていた。

 私は構わず、説明を続ける。

「けれど私もタダ働きはしたくありません。そこで皇弟陛下に条件を出しました」

 チラリと見ると陛下はまだ震えていたので、命はあるようだった。

「私が死ぬまで後宮から追い出さないこと、後宮にこれ以上女性を入れないこと、私のやることに決して文句を言わないこと……そして、正妃は別に用意することです」

 陛下は力を振り絞って顔を上げた。

 そこまで上げた顔はどんな表情をしているのかと覗いて見たら、意味がわからないという馬鹿丸出しの顔をしていた。

「あなた様は知らなかったでしょうね。自分が命令すれば周りは無償で動くと思っているあなた様には、条件は提示しませんでしたから。大方、正妃の座をチラつかせたから、私が懸命に動いているとでも思っていたのでしょう?」

 私はそこまで言うと、グイッと陛下に顔を近づける。

「テメェの正妃になんかなりたくねぇっつーんだよ、カスが!」

 今までの不満が爆発して、つい顔を歪めながら口汚く言い放ってしまった。

 あら、やってしまいましたわと口元を袖で隠した頃には、陛下は力なく頭を床に落としていた。

 まだを言っていないから、死んでもらっては困ると思った私は、また陛下の髪を掴んで無理やり顔を上げさせる。

 顔は汗に塗れ、血の気は遠のき、目は虚ろで……そろそろ限界が近い顔をしていた。

 だから私はニッコリと微笑み、陛下の末路を教えて差し上げる。

「……あなた様は上級妃がいなくなったことを自分への呪いだと思い込み、それから逃れようと私を巻き込んで無理心中を図ったことになります。そうなれば皇族の恥。あなた様の名前は、皇族から排除されることになるでしょう」

 陛下の虚ろな目からは涙がこぼれている。

 こんなにも汚い涙があるだろうかと嫌悪しながらも、私はにっこりと微笑んで陛下に最後の言葉を贈る。

「さようなら、陛下。後宮からも、皇族からも……この世界から追放されて、永久に消えてください」

 私が言い終わると、陛下は眠るようにまぶたを閉じて、この世界との別れを果たしていた。
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