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会計係ユレニアの場合。
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婚約調印式前日。
「ヘリオトロープ・タロッテ様。ユレニア様と我がレスティラウト家ジュリエッタとの婚約を破棄して頂きたく、参上致しました」
ヴェールを被り、品の良いドレスを纏ったヘリオトロープへ頭を下げるのは、レスティラウト伯爵令嬢。
ヘリオトロープは頭を下げる令嬢を見やり、その手に持っていた扇子を弄ぶ。
「理由をお伺いしても?」
「はい」
レスティラウト伯爵令嬢は頭を上げ、ヘリオトロープを確り見据えて口を開いた。
「既にご存知かと思われますが、我が家は火の車なのです。お恥ずかしいことに、どこぞの公爵家の次男に愚かな姉と母が誑かされ、我が家は随分と搾り取られましたわ」
どこぞの公爵家の次男…というのは、先日ドクター・リドことリディエンヌ・グラジオラス侯爵に婚約破棄をされたというベリアルド・グラノワール元公爵令息のことだろう。
彼の次男は、頭が花畑の令嬢の無謀な夢を応援する振りをし、挫折した頃に甘い言葉を囁き優しくし、そんな令嬢達を弄んでは捨てていたという。
その性質の悪い遊びがグラノワール公爵へとバレ、家を追い出されそうになり、ドクター・リドと婚約していたことを思い出し、縋ろうと…いや、利用しようとして失敗。
公爵家から除籍されたと聞いている。
元々、タロッテの経営するサロン・クレマチスに客として来ていたベリアルド・グラノワールは、その性質の悪さからクレマチスを出入り禁止になった。
その後に始めたのが、その女遊びだそうだ。
つくづく、自業自得で愚かしい男。
「愚かな姉ジュリエッタがオペラ歌手を目指し、当然ながら挫折。しかし、姉を溺愛するこれまた愚かな両親が、既に劇場を作らせていました。そして、公爵家のスペアに搾り取られてしまったというワケですわ。隣国へ留学していたわたくしは、いきなり帰国せよという命令を受け、一週間前にこの馬鹿馬鹿しい事態の顛末を知らされたということです」
ふるふると悔しさに震えながら語るのは、確かレスティラウト伯爵家の次女のミランダだった筈だ。
「挙げ句、裕福な商家のタロッテ男爵令息を姉へ婿入りさせると言い、わたくしを高級娼婦として売り飛ばす算段だという始末ですわ」
「・・・それで、その状況であなたが婚約破棄を申し出るのはどのような意図なのでしょうか?」
ヘリオトロープは自分を見据えるミランダ・レスティラウトを見返す。
「わざわざ、タロッテ家の経営する娼館へと赴いてまで」
ここはタロッテ男爵家が経営管理する娼館。売り飛ばされる予定のミランダ・レスティラウトが乗り込んで来て、婚約を破棄してほしいと訴えている。
「復讐?」
「いえ、助力を仰ぎに参りました。グラノワール公爵家に毟り取られる前に、身を削ぎ落とします」
「身削ぎ、ですか」
「はい。まずは愚かな父を隠居させ、これまた愚かな姉と母を修道院送りに致します。そして家督をお祖父様へ返し、その数年後にわたくしが引き継ぎ、伯爵家の復興を目指します」
「宜しいでしょう。承りました」
グラノワール次期公爵がゴリ押しした結果、ユレニアの両親がこの婚約を押し切られてしまった。
ヘリオトロープは、それをどうにかしたい。
年下のイトコが、こんな馬鹿な結婚をさせられるなど、とても許せたことではない。
更に言えば、いい加減グラノワール公爵家の、溜まりに溜まった膨大な付けを払わせたい。
「では、未来のレスティラウト伯爵と、グラジオラス大公との誼を祝いましょう。歓迎致します。ミランダ様」
「ありがとうございます。ヘリオトロープ様」
__________
ちなみに、ユレニアはサヴァンです。
クレマチスの花言葉は「高潔」「精神的な美しさ」そして「策略」などです。
「ヘリオトロープ・タロッテ様。ユレニア様と我がレスティラウト家ジュリエッタとの婚約を破棄して頂きたく、参上致しました」
ヴェールを被り、品の良いドレスを纏ったヘリオトロープへ頭を下げるのは、レスティラウト伯爵令嬢。
ヘリオトロープは頭を下げる令嬢を見やり、その手に持っていた扇子を弄ぶ。
「理由をお伺いしても?」
「はい」
レスティラウト伯爵令嬢は頭を上げ、ヘリオトロープを確り見据えて口を開いた。
「既にご存知かと思われますが、我が家は火の車なのです。お恥ずかしいことに、どこぞの公爵家の次男に愚かな姉と母が誑かされ、我が家は随分と搾り取られましたわ」
どこぞの公爵家の次男…というのは、先日ドクター・リドことリディエンヌ・グラジオラス侯爵に婚約破棄をされたというベリアルド・グラノワール元公爵令息のことだろう。
彼の次男は、頭が花畑の令嬢の無謀な夢を応援する振りをし、挫折した頃に甘い言葉を囁き優しくし、そんな令嬢達を弄んでは捨てていたという。
その性質の悪い遊びがグラノワール公爵へとバレ、家を追い出されそうになり、ドクター・リドと婚約していたことを思い出し、縋ろうと…いや、利用しようとして失敗。
公爵家から除籍されたと聞いている。
元々、タロッテの経営するサロン・クレマチスに客として来ていたベリアルド・グラノワールは、その性質の悪さからクレマチスを出入り禁止になった。
その後に始めたのが、その女遊びだそうだ。
つくづく、自業自得で愚かしい男。
「愚かな姉ジュリエッタがオペラ歌手を目指し、当然ながら挫折。しかし、姉を溺愛するこれまた愚かな両親が、既に劇場を作らせていました。そして、公爵家のスペアに搾り取られてしまったというワケですわ。隣国へ留学していたわたくしは、いきなり帰国せよという命令を受け、一週間前にこの馬鹿馬鹿しい事態の顛末を知らされたということです」
ふるふると悔しさに震えながら語るのは、確かレスティラウト伯爵家の次女のミランダだった筈だ。
「挙げ句、裕福な商家のタロッテ男爵令息を姉へ婿入りさせると言い、わたくしを高級娼婦として売り飛ばす算段だという始末ですわ」
「・・・それで、その状況であなたが婚約破棄を申し出るのはどのような意図なのでしょうか?」
ヘリオトロープは自分を見据えるミランダ・レスティラウトを見返す。
「わざわざ、タロッテ家の経営する娼館へと赴いてまで」
ここはタロッテ男爵家が経営管理する娼館。売り飛ばされる予定のミランダ・レスティラウトが乗り込んで来て、婚約を破棄してほしいと訴えている。
「復讐?」
「いえ、助力を仰ぎに参りました。グラノワール公爵家に毟り取られる前に、身を削ぎ落とします」
「身削ぎ、ですか」
「はい。まずは愚かな父を隠居させ、これまた愚かな姉と母を修道院送りに致します。そして家督をお祖父様へ返し、その数年後にわたくしが引き継ぎ、伯爵家の復興を目指します」
「宜しいでしょう。承りました」
グラノワール次期公爵がゴリ押しした結果、ユレニアの両親がこの婚約を押し切られてしまった。
ヘリオトロープは、それをどうにかしたい。
年下のイトコが、こんな馬鹿な結婚をさせられるなど、とても許せたことではない。
更に言えば、いい加減グラノワール公爵家の、溜まりに溜まった膨大な付けを払わせたい。
「では、未来のレスティラウト伯爵と、グラジオラス大公との誼を祝いましょう。歓迎致します。ミランダ様」
「ありがとうございます。ヘリオトロープ様」
__________
ちなみに、ユレニアはサヴァンです。
クレマチスの花言葉は「高潔」「精神的な美しさ」そして「策略」などです。
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