上 下
64 / 161
グラジオラス城砦城代様へ。

しおりを挟む
 そして、更にもう一枚。

『PS.姫ってば相変わらず甘・過・ぎ♥️

 うちに喧嘩売って来たの、王立騎士団の上層部だっけ? 表出歩けなくなるくらい、もっと徹底的にイジメちゃえばいいのにさ~?

 今からでもボクがやろうか?

 返事が無い場合はOKと見做みなしまーす♪』

「・・・あんの、うつけがっ!!!」

 姫は、ぐしゃりと手紙を握り潰すと、怒りを籠めて執務机へと叩き衝けた。

 そして、道化が動く前に手を打とうと考え・・・

 ふと、机に叩き衝けた手紙の裏に、なにか書かれていることに気が付いた。

『な~んてねっ☆

 もう軽いイ・タ・ズ・ラ♥️

 仕掛けちゃったっ☆

 楽しかったゼ!

 クマちゃんも大きくなったねー♪

 それじゃー姫、アデュー♪』

「チッ・・・相変わらず巫山戯ふざけた奴だ」

 既に動いてから手紙を寄越したのだろう道化の、ほくそ笑む顔が目に浮かび、姫は舌打ちする。

 そして、執務机の上に置いてある普段使いの呼び鈴ではなく、中に仕舞ってあった音の違う呼び鈴を取り出して鳴らす。

「はいはーい、お呼びですか姫ー」

 すぐさま執務室へ入って来たのはヴァルク。

「・・・別に君を呼んだワケではないのだがな?」
「あれー? 姫様不機嫌ですー? 珍しー。でもでもー、呼んだのは梟ですよねー? 俺も一応梟ですしー」
「君は、梟だろう? ヴァルク。私が呼んだのは現役梟だ。君はお呼びでない」
「えー、姫様のいけずー」

 ヴァルクが現役で梟をしていたのは、諸国漫遊城見学の旅をしていたときのこと。今は梟ではない。

「ロディウスを呼べ」
「わーお、なんか大事の予感ですねー」

 へらへらと笑いながら、ヴァルクが部屋を出て行き、数分後。ドアがノックされた。

「入れ」
「失礼します。どうされましたか?姫様」

 静かに執務室へ入って来たのは、中肉中背で目立たない印象の男。

「中央で道化が動いた。調べろ」
「あ~・・・道化様ですか・・・」

 ロディウスは、執務机に乗ったシワシワの手紙をチラリと一瞥し、一瞬遠い目をして、

「直ちに」

 姫へ一礼して部屋を出て行った。

「・・・あまり大事になってなければいいが・・・まあ、既に遅きに失しているが・・・」

 そして姫は、一人溜め息を吐いた。

「そろそろ交代、か・・・」

 交代予定の八年程前から準備はしていたが・・・いざ交代となる直前でこのようなことをされると、非常に心配になってしまう。

「というか、あと二年程で賢者と城代を交代予定なのだが・・・道化へ二年も任せて良いものか・・・」

 とりあえず、道化の甘言には乗るなと、グラジオラス城塞及び爵位持ちの者達へ通達しなくてはいけない。

 大変迷惑なことに、道化は無駄に波風を立てることをとても好むのだ。

「全く・・・」
__________

 前章のクラウンとは、道化のことでした。

 悪ノリ悪巫山戯が大好きな奴です。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,405pt お気に入り:4,027

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,633pt お気に入り:3,455

婚約者を追いかけるのはやめました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:5,423

腹黒上司が実は激甘だった件について。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:418pt お気に入り:139

陽のあたる場所【加筆訂正中】

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:380

悪役令嬢の嫁、貰ってしまいました!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:147

処理中です...