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男子なれば、誰しも一度は憧れたことがあろう! 聖剣と魔剣!
しおりを挟む「うむ。それで、シス殿。魔力は追跡できそうかの?」
精霊の強い気配と、わしの魔力を感じ取る。
「・・・これは! 聖剣と魔剣は、同じ場所にある。というか、誰ぞが抱えて移動しておるようじゃ。教会の敷地内の、林の方角へ向かっておる!」
「林を抜け、教会から出るつもりでしょうか?」
「厭な予感がするのぅ・・・というワケで、グレゴリーよ。わしは急ぐ故、其方もなるべく早く来るのじゃぞ」
「まさか、シス殿、アレをするつもりかっ!?」
ハッとするグレゴリーへ、
「ふっ、背に腹は代えられぬ。わしが寝込んでも、暫くは大丈夫じゃろうて」
ニヒルで強がりな笑みを浮かべ、わしは残りの全魔力を集中させ……
「では、行って来るのじゃ!」
身体強化を施し、風になったのじゃ。
「猊下っ!?」
八十九歳の老人の、身体強化での全力疾走。後を考えると、筋肉痛やら肉体へのダメージが恐ろしいわいっ!!
「お、お待ちください猊下~っ!?」
息を切らせるクレメンスの気配を背後に感じ、林の方へ向かって走る。
「ロマおじいちゃん、どこいくの~?」
「おい、じーちゃん! ジジイのクセにそんな走って大丈夫なのかよ!」
「わ~! おじいちゃんはや~い!」
「猊下ー、無理はされませぬようにーっ!」
などという声が聞こえて来るが、応える余裕は一切ない。
肺がゼヒューゼヒューという、若干ヤバめな呼吸音を上げるのを堪えて宥め、必死に聖剣と魔剣を追って走る。すると――――
「へっ、シスのケチ野郎と薬臭いグレゴリーがこそこそしていると思や、聖剣と魔剣だと? この俺を差し置いて、楽しそうなことしやがって……この俺が、試し斬りをしてやろうじゃないか」
悪態を吐く低い嗄れ声が、なぜだかハッキリと聞き取れた。
「貴様か~っ!? わしとグレゴリーの聖剣と魔剣を盗んだ痴れ者はっ!? この、卑しい蛮族騎士めっ!?」
「チッ、もう勘付きやがったかっ!? 仕方ねぇ、ぶっつけ本番だっ!? おりゃあっ!!」
「や、やめるのじゃーっ!?」
樵のトム爺こと、黒血の聖騎士の異名を持つアホアホ脳筋野郎のトマスが、黄金色の聖剣『レイズ・クリスタル』を大きく振りかぶり、木へと叩き衝けた。
瞬間、パキィィィンっ!!!! という甲高い澄んだ音を響かせ、わしの結界ごと聖剣『レイズ・クリスタル』が、砕け散りおったっ!?!?
「ああん? 聖剣っつーからもっと頑丈かと思ったが、脆いじゃねぇか。シス! お前とグレゴリーは聖剣とは名ばかりの鈍を作ったのかよっ!?」
「はああっ!? 馬鹿か貴様! 剣をいきなり木に叩き衝けおってからに! 剣は斧じゃないんだよ! 用途が全く違うだろこの馬鹿がっ!?」
「へっ、こんな細っこい木にも負ける聖剣じゃ、魔獣を斬れるか馬鹿が!」
と、聖剣を粉々に砕かれたわしが、砕いたトマスに逆ギレされるという酷い理不尽っ!?
「これじゃあ、魔剣の方もたかが知れるぜ。とんだ期待外れじゃねぇかよ!」
「うっさいわ、この脳筋がっ!? 貴様が今、木に叩き衝けて粉々に砕いたこれは、聖剣『レイズ・クリスタル』キャンディーじゃっ!?」
「は?」
「わしとグレゴリーが、数十年のときを費やし、聖剣を模して作り上げた美しいキャンディーじゃったのにっ!?」
「・・・え?」
「男子なれば、誰しも一度は憧れたことがあろう! 聖剣と魔剣! 実際の聖剣と魔剣なんぞ入手できぬし、できたとしてもちょー危険じゃろう! じゃから、わしとグレゴリーで安全に子供らと遊べる聖剣と魔剣を、キャンディーとチョコレートで作ったのじゃっ!?」
「あ? え? じゃあこれ、チョコかよっ!?」
「そうじゃ。わしとグレゴリーが、この刀身の黄金色の透明度と漆黒さを出すにどれ程苦心したと思うておるのじゃっ!? 数十年じゃぞっ!? ようやっと成功したと思うたら、貴様に聖剣を砕かれるとはなっ!? 酷い裏切りじゃトマスっ!?」
「いや、お前ら数十年もなにやってんだよ? 馬鹿か? 馬鹿なんだな?」
呆れ顔がわしを見やる。
「……ええ、本当に。聖剣と魔剣の盗難に遭ったかと大騒ぎしたと思えば、それがキャンディーとチョコレート? 本当に、呆れてものも言えませんね」
と、背後からも冷ややかな声がトマスに同意しよる。
「馬鹿とはなんじゃっ!? 失敬にも程があるぞっ!? 複数属性の高位精霊を召喚し、0,1度単位での徹底した温度管理と湿度管理に加え、結晶構造の構成を補助し、気泡が入らぬよう、形が崩れぬよう、最高の透明度を保ち、めちゃくちゃ気合を入れて作った渾身のできだったのじゃぞっ!?」
「そんな役に立たないことに血道上げてんじゃねぇぞ。アホ共が」
「はあっ!? 誰~がアホじゃ! 大体の、貴様らが一番この研究の世話んなっとるからの! チョコレートの結晶構造を水晶の結晶構造に見立て、魔術を組み込むことを考えたのはグレゴリーじゃからの! 貴様、昔からわしのリジェネや解毒を籠めた飴やチョコをバカバカ食うとったじゃろがっ!? しかも、チョコレートの温度管理で結晶構造を複数作り出すことで、複数の魔術を籠めることができる画期的な研究なんじゃぞ!」
まあ、デリケートなチョコは三十度未満……体温で直ぐに溶けてしまうから、あまり携帯には向かぬ。故に、複数の魔術を籠めたチョコの実用化は難しい。その辺りは、要改善と言うたとこじゃがの。
「くっ……世話になったのは事実だが、たかがチョコや飴だろ!」
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