「いいよな。女は着飾ってにこにこしてりゃそれでいいなんて、羨ましい限りだ」と、言われましたので・・・

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
3 / 6

選択肢2.「ごめんなさい……あなたがそんな風に思っていただなんて、知らなかったの……」と、謝る。を選んだ場合。

しおりを挟む



 わたしは・・・

 足早に部屋へと向かう旦那様の背中に声を掛けた。

「ごめんなさい……あなたがそんな風に思っていただなんて、知らなかったの……」

 旦那様へ謝罪をし、わたしはパチン! と指を鳴らした。

「侍女達! というワケで、旦那様をドレスアップしてあげて! 勿論、フルコースで」

「「「かしこまりました!」」」

 と、控えていた侍女達が旦那様を取り囲んでバスルームへと連れて行った。

「な、なにをするお前達っ!?」
「あら、旦那様。着飾ってにこにこしていればいい奥様のことが羨ましいのでしょう?」
「大丈夫ですわ、旦那様」
「やっ、やめろっ!? 勝手に服を脱がすなっ!?」
「ええ。旦那様がそのようなご趣味を持っていても、奥様の愛は変わりませんわ」
「そんな趣味とはどういう意味だっ!?」
「あらあら、お恥ずかしがらなくても宜しいのですよ」

 と、侍女達は手際良く旦那様の衣服を剥ぎ取って行く。

「やめろっ!? パンツを脱がすなっ!!」

 旦那様は必至で抵抗して、パンツ一枚だけは死守。

「まあ、それでは大事なところのケアができませんのに」
「はあっ!? なにを言っているっ!?」
「はいはい、お風呂の用意はできていますから。入りましょうね、坊ちゃん?」

 旦那様を子供扱いしているのは、お義父様の頃からこの家に仕えている大ベテランの侍女長。

「なっ!? ぼ、坊ちゃんって呼ぶなっ!?」
「はいはい、坊ちゃんには昔からお風呂嫌いで困らされたものです」
「や、やめろっ!? そんなところ触るなっ!? じ、自分で洗うっ!? 自分で洗うから!」
「はいはい、あんまりわたくし共を困らせないでくださいませ」
「うわ~~~っっ!?!?」

 なにやら叫び声がしていますねぇ。どうしたのかしら?

「ちょっ、待てっ!? なんだその剃刀はっ!?」
「フルコースのドレスアップですからね、ムダ毛処理ですよ。動かないでくださいね? 動くと肌が傷付いてしまいますからね」
「や、やめっ!」
「坊ちゃんっ、動かないっ!!」
「ひっ!」

 侍女長の一喝で、暴れるような気配はなくなりました。

 よかった。旦那様がお怪我をしては大変ですもの。

「さ、これでお綺麗になりました」
「す、すね毛が全部剃られてしまった……」
「はい、それじゃあマッサージを致しますよ」
「なっ、服を着せろ!」
「はいはい、坊ちゃん。そんなに急がなくても、ドレスはマッサージが終わってからですよ」
「ドレスっ!? なにを言ってるんだっ!?」

 ハッ! そうだわ。ここでボケ~っと旦那様と侍女達のやり取りを聞いている場合じゃなかったわ!

 旦那様は、着飾ったわたしのことが羨ましいと言っていたもの。旦那様は、ドレスを着てお化粧をしてみたいということだ。だから、マッサージとネイルと、パック。その後に軽食が入ってから、お化粧が終わる前に、旦那様でも着られるサイズのドレスとコルセットとハイヒールを用意しなくてはっ!?

 わたしは慌てて、お針子達に一番大きなドレスのサイズを直すようにとお願いした。

 妊婦用の楽なドレスをお直しすれば、男性でも着られるわよね? コルセットも大きいサイズの物がどこかにしまってあったはず。ああでも、旦那様が履けるくらいのハイヒールがあったかしら?

 と、大慌てで旦那様に身に着けて頂く物を超特急で用意してもらった。

 みんな笑顔で笑いながら、快く準備してくれた。さすが、侯爵家の使用人ね!

 でも・・・

「旦那様、申し訳ありません」

 ぐったりとして侍女達に身を任せている旦那様に、悲しいお報せをしなければいけません。

「なにがだ」

 不機嫌な声でわたしを見上げる旦那様。

「残念なことに、旦那様の履けるサイズのハイヒールが見付かりませんでした」
「・・・」

 じっとりと、怒りの籠った眼差し。やっぱり、フルのドレスアップでハイヒール無しというのは格好が付きませんものね!

「というワケで、遥か東方に伝わるテンソクという秘法を試してみませんか? なんでも、足にキツく布を巻いて、足のサイズを小さくすることができるそうです」
「なんだそれは……」

 ぐったりと疲れたような声が返ります。

 まあ、なんだか初めてのデビュタントを思い出します。あのときのわたしも、こんな風にして侍女達にお世話をされながら、ぐったりしていたものです。

 ですが、これも慣れです。マッサージを受け、そしてあれこれしている合間に軽食と水分補給をすればある程度回復するはず。

「やり方はわかりませんが、侍女達が足に布を巻いて足を小さくしてくれるそうです」
「?」
「なにやら、ものすっご~~く痛いそうですが、おしゃれというのは我慢ですものね! がんばってくださいませ!」
「は?」
「では、わたしは旦那様の軽食を用意するようにお願いして来ますね♪」

 ふふっ、コルセットでかなり締め付けるとあんまり食べられないし、下手したら吐きそうになるから、軽くても栄養価の高い食べ物を用意しなきゃ! と、料理長にお願いしに行くと、

「ぎぃゃーーーーっ!?!?!?」

 なんだか断末魔の悲鳴みたいな旦那様の声が屋敷に響きました。

 きっと、コルセットを締められているのね……初めてのコルセットはとっても、とってもつらいものね。昔々は、コルセットはアバラが折れてからが本番! という恐ろしい風習があったそうです。

 現在では、アバラが折れるまでキツく締め過ぎると生活全般と出産への悪影響。下手をすると折れたアバラが内臓を傷付け、命の危機すらもあると判明してから、骨折する程にキツく締め上げることは無くなったそうですが……

 でも旦那様、おしゃれは我慢なのです! 気合と根性と、『これを着たステキなわたし♪』というのを想像して、痛い、つらい、苦しい、暑い、寒いを耐え抜くのです!

 それが真の淑女というものですわ!

 そんなこんなで、フルにドレスアップした旦那様は――――

「すみませんでしたっ!! もうあんなこと絶対言わないから許してくれっ!?」

 と、なぜか滂沱と涙を流しながら謝って来ました。

「どうされたのですか? そのように泣いていては、お化粧が剥げてしまいますよ? さあ、涙をお拭きになって?」
「許して、くれるのか……?」
「? わたしはなにも怒っていませんよ? 旦那様」
「そうか……」

 ほっとした顔でわたしを見下ろす旦那様に、

「ええ。むしろ、旦那様が女装してドレスを着て着飾ってみたいという願望を抑圧していたことに気付かず、申し訳ありませんでした」
「違うっ!? 俺にそんな趣味は無いからなっ!?」
「え? 違うのですか?」
「お前がっ、『女は気楽でいい』などと言ったことへの当て付けだと」
「そんな、わたしがそんなことをするはずがありませんわ」
「そう、なのか……?」
「ええ。ですので、旦那様」
「なんだ?」
「お化粧が崩れているので直しましょう?」
「もう勘弁してくれっ!?」

 と、旦那様は泣きながら着替えさせてくれ! と喚いたので、侍女達が笑いながら旦那様のドレスとコルセットを脱がせて行きました。

 ちょっと残念。

 でも、この件以来、旦那様がドレスアップしたわたしに対して優しくなりました。

「ドレスはその……色々と大変だったからな!」
「ふふっ……ありがとうございます、旦那様♪」

。.:*・゜✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜



 天然奥さんで旦那が酷い目に……でもラブコメハッピーエンド。(((*≧艸≦)ププッ

 ちなみにですが、纏足てんそくはヤバいです。あれは、幼少期からキツく布を巻いて足を折り畳んで、骨を変形させて足のサイズを小さくするため、纏足を施されると二度と普通には歩けなくなります。なので、非常に健康に悪い。

 まあ、アバラ折るまで締めるコルセットも似たようなものなんですけどね。昔のおしゃれって本当に怖い……(ll゜Д゜)怖ァ

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの婚約者なんですけどね!

キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は王宮精霊騎士団所属の精霊騎士。 この度、第二王女殿下付きの騎士を拝命して誉れ高き近衛騎士に 昇進した。 でもそれにより、婚約期間の延長を彼の家から 告げられて……! どうせ待つなら彼の側でとわたしは内緒で精霊魔術師団に 入団した。 そんなわたしが日々目にするのは彼を含めたイケメン騎士たちを 我がもの顔で侍らかす王女殿下の姿ばかり……。 彼はわたしの婚約者なんですけどね! いつもながらの完全ご都合主義、 ノーリアリティのお話です。 少々(?)イライラ事例が発生します。血圧の上昇が心配な方は回れ右をお願いいたします。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから

キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。 「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。 何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。 一話完結の読み切りです。 ご都合主義というか中身はありません。 軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。 誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

我慢しないことにした結果

宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

この恋に終止符(ピリオド)を

キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。 好きだからサヨナラだ。 彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。 だけど……そろそろ潮時かな。 彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、 わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。 重度の誤字脱字病患者の書くお話です。 誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 そして作者はモトサヤハピエン主義です。 そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんでも投稿します。

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である妹を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

元夫をはじめ私から色々なものを奪う妹が牢獄に行ってから一年が経ちましたので、私が今幸せになっている手紙でも送ろうかしら

つちのこうや
恋愛
牢獄の妹に向けた手紙を書いてみる話です。 すきま時間でお読みいただける長さです!

私の好きな人は異母妹が好き。だと思っていました。

恋愛
帝国の公爵令嬢アマビリスには片思いをしている相手がいた。 青みがかった銀髪と同じ瞳の色の第二皇子アルマン。何故かアマビリスにだけ冷たく、いつも睨んでばかりでアマビリスの異母妹リンダには優しい瞳を向ける。片思いをしている相手に長年嫌われていると思っているアマビリスは、嫌っているくせに婚約が決まったと告げたアルマンを拒絶して、とある人の許へ逃げ出した。 そこでアルマンを拒絶してしまった事、本当は嬉しかったのにと泣いてしまい、泣き付かれたアマビリスは眠ってしまう。 今日は屋敷に帰らないと決めたアマビリスの許にアルマンが駆け付けた。 ※小説家になろうさんにも公開しています。

処理中です...