ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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ヴァンパイア編。

51.待て、そこのシスコン。動くな。

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「・・・ふっ」

 やれやれとばかりに僕を見下ろす灰色の瞳。呆れた…というか、憐れみの眼差しを感じます。

「まだまだ」

 女性にしては低めの、ともすればぶっきらぼうにも聞こえる声が言います。

 何故、こんなことになったのでしょうか?

※※※※※※※※※※※※※※※

 あれはもう、二月ふたつき以上は前のことになるでしょうか・・・

 僕の、愛する妹が…家出をしたそうです。

 無論、どこへ行ったか直ぐ様調べ上げ、即刻保護するつもりでした。
 あの子は繊細でか弱いですからね。外で、一人で生きて行くなどとんでもないことです。

 今までは、少々不本意ではありましたが・・・彼女が単独行動をすることはなく、僕の妹を、「アルは俺の妹だ」と言ってはばからない、妄言を吐く無駄にデカい狼の男が大抵は傍に付いていましたからね。
 僕の妹を、自分の妹だなどと妄言を吐く無駄にデカい狼の男は、妄言を吐くだけあって、僕の妹を、短時間なら預けてもいいくらいの実力がありますから。まあ、それが腹立たしくもありますが。

 しかし、あろうことか、今回の家出は彼女一人で飛び出したというではありませんか。挙げ句、信じられないことに、「アレクのことは放置しろ」との父上の命令が下ったのです。

 アレクシア・ロゼット・アダマス。
 美しい彼女は、僕の愛しい妹。
 淡い白金の髪、銀の瞳孔が浮かぶ神秘的な翡翠の瞳、透き通るような白磁はくじの肌、職人が粋を凝らし、丹精籠めて創り上げたような、ビスクドールを思わせる侵し難い白皙はくせきの美貌。
 清楚で可憐な硝子細工のように繊細で、脆くも美しい・・・大切な、僕の白薔薇。

 愛しい愛しい僕のロゼット。貴女がどうしているか、非常に心配です・・・

 貴女の美しさにたかゴミ共がいないとも限りません。そんな塵共の視線に、貴女が晒されるなんて・・・僕にはとても耐え難い!!

 なんでしょう・・・この、見知らぬ塵共に対する、湧き上がる殺意は?

「・・・よし、ロゼットへ不埒な視線を送るごみ共を殲滅せんめつしましょう」

 さあ、早速準備をしなくては。

「待て、そこのシスコン。動くな」

 低い声が、僕の思考へ割り込みます。
 おそらく、気のせいでしょう。

「どこぞの、妄言を吐く無駄にデカい狼の声がしたような気がしますが・・・空耳でしょうね」
「なんだ? とうとう頭だけでなく、耳までイカれたのか? 可哀想にな? 全く・・・」

 わざとらしい溜息に少々苛つきます。

「誰の頭がイカれている、ですって? 僕は正常です。あと、耳もよく聴こえていますよ。ただ、君の存在を認識したくなかっただけです。ハルト」

 妄言を吐く狼の彼はレオンハルトと言います。くすんだ金髪に、緑灰色の瞳、少々野性味を感じさせる端正な容姿の、無駄に長身な男。

「そうかよ。で、どこ行く気だ? シスコン」
「どこぞの無能な狼が、僕の妹の護衛を全うしていないので、ちょっとロゼットを保護がてら、彼女へ集る塵共を殲滅しようかと思いまして」
「待て。お前にはなにが見えている? 幻覚か? なんなら、医者を呼んでやるぞ。フェンネル」

 相変わらず失礼な男です。しかし・・・彼は、妹の護衛だと認識していたのですがね? 役立たずにも、ロゼットから離れています。

「失礼な。僕はまともなので医者は不要ですよ。それより、何故君はここにいるのですか? ロゼットの護衛でしょう、君は? ハルト」

 僕より高い位置の緑灰色の瞳をめ付けます。

「別に、俺らも二十四時間常に一緒にいるワケじゃねぇからな?」

 肩をすくめるハルト。

「はい? 君はもしかして、知らないのですか?」
「なにをだ?」

 まだ、知らされていないのでしょうか?

「・・・聞いてください、ハルト」

 仕方ありません。教えてあげるとしましょう。

「なんだ?」
「僕の愛する妹が・・・家出をっ…したそうなのです。あの子は硝子細工のようにか弱く繊細で、美しくも脆くて儚い。そんな愛らしい妹が、一人で生きて行ける筈がありません。今頃、僕を恋しがって心細い思いをしているに違いありません。いえ、きっとそうです! あの子は、僕を呼んでいるのです! ということで、早速ですが保護しに行こうかと思います」
「そいつは奇遇だな? 丁度、俺の妹・・・も家出中だ。それとお前、変な電波か? 頭診てもらえ」
「っ! 誰が君の妹・・・ですか! あの子は、僕の妹・・・です! あと、僕は正常ですよ? ハルト」

 思わずツッコミを入れて・・・ハルトが、ロゼットの家出を知っていたことに苛立ちます。

「ハッ、お前はまともじゃねぇだろ。が、そういえばアイツは、お前の妹…だったか? いやぁ、アイツはもうほぼうちの家族だし、お前よりも、俺に、懐いてるからな? 忘れてたぜ。だから、アイツが呼ぶなら、お前じゃなくて俺の方だろ?」

 また、そのような妄言を・・・

「・・・殺しますよ? ハルト」
「ハッ、ってみろよ?」

 そんなやり取りの後、軽く殺り合って・・・
 毎日ハルトが僕に絡んで来るのです。だから…僕がロゼットの下へ行こうとするのを、止めることがハルトの役目なのでは? と、段々思い始めました。
 そして、ハルトの足留めに拠り二月程経った頃。

 僕が気付かないうちに、弟のフェイドまで家出をしていたそうで、ハルトにはフェイドを連れ戻せとの指令が下りました。
 これ幸いと、ハルトのいない隙にロゼットの下へ行こう。と、したのです。しかし・・・

※※※※※※※※※※※※※※※

 屋敷を出ようとした瞬間、

「っ!?」

 ガッと襟首を強く掴まれ、引き倒されたのです。
 気付くと、灰色の狼が僕の襟首を咥えていました。鼻筋の上に、痛々しい疵痕きずあとの走る特徴的な顔の狼さん。

「く、クレアさんっ?」

 この大きな灰色の狼さんは、ハルトの母君でスティングさんの奥方のクレアさんです。

「鍛えてあげる」
「は? いえ、結構ですが? クレアさん?」
「遠慮は、無用」
「はい? あの、クレアさん?」

 そして無言で、ずるずると屋敷内へと引きられて行きます。襟首を咥えられたまま・・・

※※※※※※※※※※※※※※※

 僕は、この方が苦手です。口数が少なく、無表情で無愛想。あまり話が通じません。
 クレアさんは感覚で生きるタイプとでも言いますか・・・それが、僕とはあまり合わないのです。
 同じ感覚タイプでも、フェイドの方は男で、身内ですからね。強く出ることもできるのですが・・・彼女は、あれです。一般的に言うところの、その…友人の母君というものですから、気恥ずかしさも多分に含まれています。あと、初対面で色々とやらかしてしまい・・・ボッコボコにされたこともありますし。

 というかまあ、僕は元々、女性全般が嫌いでしたからね・・・今は、そうでもありませんけど。

 それというのも、僕を生んだ女が相当に酷い女でしたからね。なにも父上は、あんな女を娶らなくてもよかったと、今でも思うのですが・・・

 ああ、アレは母親ではありませんよ? あの女はあくまでも、僕を生んだというだけの存在です。
 家族の情など存在しません。

 そもそもあの女は、僕を生んだことでアダマスを乗っ取ったつもりでいたようですし・・

 父上が留守なのをいいことに、やりたい放題。
 浪費、散財ならまだしも・・・
 けがらわしいことに、アダマスの家に男を連れ込んで・・・というワケです。まあ、あの女に言わせれば、父上との方が愛の無い結婚だったそうですが。

 僕からすれば浮気相手となる男は、あの女の実兄。
 父上との政略結婚からして、あの女の実家。グランデノム家がアダマスを乗っ取ろうと仕掛けた計画でしたし。今でも、僕を使って、アダマスの乗っ取りを企てているような連中です。
 本当に最悪で、胸糞悪い連中だ。

 兄妹云々にはどうこう言いませんが・・・僕も、妹の椿とロゼットを愛していることですからね?

 あの家のやり方に、唯々嫌悪を抱くのみです。
 愛するヒトがいながら、他人に嫁ぐなど、最低ではありませんか。しかも、権力やら財力を手に入れる為に、自分が望まぬ子供を生んでまで、ですよ?

 やむを得ない事情がある女性には同情致しますが、あの女の裏切りについてはゆるしません。

 自分自身、そして自分の愛するヒト、結婚相手ちちうえ。そして、子供ぼく幾重いくえにも重なる裏切りの連続です。
 気色悪い。穢らわしい。汚ならしい。本当にアレは、最低の女だと思います。

 まあ、僕はそんな女から生まれたワケです。
 当然、まともに育てられる筈がありません。

 僕は、生れたときからずっと毒を盛られて、生かさず殺さずのままで放置され続けました。

 父上は、僕を虚弱だと思っていたそうですが、その実態は、生れたての赤ん坊に毒を・・・だったそうです。

 あの頃はアダマスの使用人も少なくて、父上が留守のときは、あの女がグランデノムから連れて来た使用人が、あの女の言う通りに家を仕切っていたのです。

 父上について、少々思うところが無いワケではありませんが、うちは色々複雑ですからね。
 子殺しの始祖やら、他のヴァンパイアやら・・・相手にしなくてはいけないモノ達が昔から多いのです。

 そんな理由で、父上は多忙を極め・・・
 なにかおかしいと気付いたときには、アダマスの乗っ取りを企てたあの女に暗殺されかけて、僕が虐待されていたというワケです。

 お陰で、僕は幼い頃から弱視なんですよね。

 そんな僕を救ってくれたのは、椿とハルトでした。
 最初は僕の遊び相手として、うちに来たのです。
 そのときのゴタゴタ…というか、父上の計画で、あの女を排除したワケですが・・・あの女、置き土産として、僕を殺そうとしたのです。本当に最低ですよね。

 そのときの後遺症で僕は盲目になってしまったワケですが、事件直後に絲音しおん義母上ははうえをアダマスに迎え入れたり、椿が実妹だと紹介されて驚きましたね。
 ええ。心底驚きましたとも。

 僕が盲目になって数年経った頃・・・

 ちなみに、介助は椿がしてくれてました。
 そのときの僕は、女性不審でしたから、椿や絲音義母上には酷い態度を取っていたのですが・・・
 彼女達は、そんな僕に全く気を使わず、ときには叱り、殴り飛ばし、一切の特別扱いも手加減などもせず、普通に・・・自分の子供、そして兄妹として接してくれたのです。

 まあ、普通が僕にはわからなかったのですが・・・

 クレアさんにボコッボコにされたのもこの辺りの時期ですね。本当にボコッボコにされましたよ…いえ、僕が悪かったのですけどね?

 ある日。父上が、どこぞの街で聖女と祭り上げられていた女性を拐って来たのです。後の、ロゼットの母親となる・・・リュース嬢でした。
 リュース嬢のお陰で、僕は視力を取り戻し・・・

 数十年後に、ロゼットと出逢うワケです。

 彼女は本当に、その名前通りの方でしたね。
 おそらく、兄妹の母達の中で、父上を一番愛したのはリュース嬢でしょう。僕に再び光を与えてくれて、父上とロゼットを深く愛した女性。

 リュースのように美しく、アマンダの花言葉のように愛情深く優しい女性ヒトでした。

 儚い方でもありましたが・・・
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