ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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ヴァンパイア編。

58.だから、オレによくしてくれたの? 貴方は。

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 夢を、見た気がする。

 穏やかで安らかな、優しい夢。
 そして、懐かしい。

 けれど、なにかを失くした気もする。
 いや、なにかを忘れた・・・のか?
 なにかが抜け落ちた、ような・・・

「あら? おはよう、アル」

 艶やかな声。熱い手が頬に触れ、

「ん…」

 柔らかく熱い唇が落ちる。

「…なんで、貴方が? ルー…」

 目を開くと、目の前には深いアメトリン。
 艶やかにオレを見下ろす妖艶な美貌。

「ん、ふ…約束、したから」

 チュッと落とされる唇。

 愛されている。そう、伝わるキス。

「大きくなったら…もっといいこと、しようって。ね、アル?」

 彼女の輪郭が変わる。柔らかく、熱い唇がちょっとだけ硬く、匂い立つような妖艶さの、丸みを帯びた身体付きがスラリとシャープな体型に。艶やかな声が少し低く、少年の姿へと。

「…クラウド」
「ふふっ、久し振りだね? アル」

 微笑む彼に、唇や頬、顎、鼻、まぶたをチュッ、チュッと軽くついばまれる。

「ねぇ、アル? どっちがいい?」
「んじゃ、ルーで」
「ん、わかったわ」

 そしてまた、彼から彼女へと。硬さを帯びた身体が、柔らかさと丸みを帯びて女性らしく変わる。

「相変わらず、不思議な生態で」

 彼はクラウド。彼女はルー。現実で会うことが多いのはクラウド。夢に忍んで来るのがルー。
 クラウドは彼女であり、ルーは彼。
 正真正銘の同一個体。
 夢の中でも、この性転換を見たことがある。
 そのときは服装まで変わってたけど、さすがに現実では服装は変わらないらしい。

「ん…だって、女の子が好きなんでしょ?」
「女の子は好きだよ? 男が好きじゃないだけ」
「ふふっ…具合はどう? 気分は悪くない?」
「んー・・・悪くないと思う。けど、状況がわからないね。なんで貴方がいる? ルー」
「あなたに、逢いに♥️それじゃ、ダメ?」
「…ルー…なんで、貴方が、オレの婚約者候補に? 貴方は、父上と知り合いだったの? クラウド」

 その名前が上がったときから、ずっと疑問だった。なんでクラウドが? って。

「ふふっ、そう。実は、お知り合いなの。あなたの婚約者候補に上がるくらいの、ね?」
「それは知らなかったな」
「ええ。言ってないもの」

 見下ろす深いアメトリンを覗き込む。

「だから、オレによくしてくれたの? 貴方は」
「あなたが、可愛いから♥️好きよ? アル」

 クスリと笑みを含んだ艶やかな声。

「それはどうも。でもさ」
「ん…なぁに? アル」

 落とされる唇の熱。

「貴方の感情を伝えるのは、ズルくない?」
「イヤ?」
「心地よいことは心地よいんだけどね?」

 彼女の感情が、キスで伝えられる。
 彼女の感情を、共有させられる。
 愛している、好きだ、という感情が。
 そして、慈しみの感情。

「貴方の感情につられる」

 オレの感情ではない、彼女のオレへの愛情。

 愛されるのは心地よい。

「流されてくれないの?」

 愛されるのは、とても気分がよい。けど…

「うん」
「それは残念。淫魔の手なんだけどな? 相手に自分の感情を伝えて、愛し合うのはね」
「…でも、貴方のはどちらかというと…」
「?」

 感情が複雑だ。好き、愛情は間違いない。

 けれど、それに…様々な感情が混ざっている。同情、友情、憐れみ、懐古、罪悪感、それから・・・
 母親リュースちゃんや・・・

「・・・養母かあさんの愛情にも、似てる」

 母性、のような慈しみの感情。
 恋情、ではないと思う。

「ふふっ、ちょっと伝え過ぎたかな? あなたに干渉し過ぎたみたい。あたしの感情、駄々漏れ?」
「さあ? 思考はわからないよ」
「そう。じゃあ、可愛いあなたに、ご飯」
「んっ・・・」

 触れるだけだった口付けが、深くなる。
 とろりと甘く、濃厚な精気が流れ込んで来る。
 絡め取られるようなキス。

「・・・は、ぁ…ん…む・・・」
「ん、ふ・・・」

 ヤバいな。気持ちい・・・

 さすが淫魔。

※※※※※※※※※※※※※※※

「は、ぁ…ハァ…ハァ…」
「ん…ふふっ、可愛い♥️」

 くちゅりと、絡めていた舌を解放して唇を離す。口の端から垂れた唾液を舐め取り、涙の滲んだ目尻へと口付けて涙を啜る。

 とろりと潤んだ翡翠が可愛い♪

「あぁ、可愛い♥️ん、ふ…」

 チュッと唇に触れる。

「どう? あたしの精気、美味しい? アル」
「・・・なんか、色々とダメになりそう…」

 上気した白い頬。ぷいと恥ずかしそうに逸らされる翡翠。小さな声が言う。

「まだまだ序の口だよ?」
吸血耽溺症キス・アディクションって、あんな感じか?」
「ふふっ、淫魔とのセックスはそんなモノじゃないよ。もっと、気持ち悦い。最高の快楽、欲しい?」

 耳元にささやく。

「遠慮させてください。本気で」
「まだキスしかしてないのに?」
「キスでも充分過ぎる」
「ふふっ、可愛い♥️…ねぇ、アル。ダメ?」

 かぷりと、耳朶みみたぶを甘噛み。

「ルー…貴方の方が、その気が無いだろう?」

 溜息混じりのアルトが言う。

「あれ? 判るんだ?」
「そりゃあね。これだけ愛情を伝えてくれれば」

 好き。愛している。という、あたしの感情が、アルから返される。

「・・・驚いた」
「なにが?」
あたしの、あなたへの感情に」
「?」

 翡翠が不思議そうに瞬く。

「複雑過ぎる」

 アークに少し似たあなたへの懐かしさ。友情やら、同情、憐れみ。昔にイリヤを止めていればという罪悪感。可愛いあなたへの好意と愛情。

 あなたを救ったことが正しかったのかという葛藤。

「なに? 自分でもわかってなかったの?」
「自分のことは自分が一番わからないものだよ」

 白い頬を撫でて、アルの上から身を起こす。

「アル」
「?」

 手を差し出し、アルの身を起こす。

「愛してる」
「? ありがとう?」
あなたはね、頭痛を起こしたんだ」

 というより、おそらくはイリヤに呼ばれた…が、正解なんだろうけど。

「・・・そう」

 溜息と共に、白い手が額を押さえる。
 疵痕きずあとの残る額を。

「…ごめん。迷惑、掛けた…よね」
「大丈夫。あなたが暴れる前に寝かせたから」
「そっか…ごめん。ありがと。ルー」

 謝るのはあたしの方だ。
 もっと、早くあなたに逢うべきだった。

 だから・・・

あなたあたしの血をあげる」
「ルー?」

 ぷつりと、爪で指先の皮膚を破る。
 ぽたりとその血が落ちる前に、

「ほら、血晶けっしょう化」
「あ、うん」

 アルにあたしの血を血晶へと変えさせる。
 そして、血晶へと強力な眠りを付与。
 アルへと差し出す。

「はい。あげる。これは、あなたにも効く強力な睡眠薬になる。頭痛のときに飲むといい」
「え? ・・・媚薬とかじゃないよね?」
あなたが媚薬がいいって言うなら、媚薬にしてもいいよ? あなたにも効く媚薬。欲しい?」
「や、それは丁重にお断りさせて頂く」
「そう? まあ、いいけど。これは、正真正銘、強力な睡眠薬だよ。夢も見ないで、死んだように眠れる。ただ、非常に強力だからね。即効性で、数日は目を覚ませない。飲む場所は考えてから飲んでね? 痛み止めや薬の効かないあなたへ。あげる」
「ありがとう、と言うべきなんだろうけど・・・ルー。貴方は、どこまで知っている?」

 銀の浮かぶ翡翠が、あたしを見詰める。

あなたのことは大体、かな? アレクシア・ロゼット・アダマス」

 彼女の、名前を呼ぶ。秘匿されたその名前を。

「いつから?」
あなたが、あたしを認識する前から」

 あなたがイリヤに殺されたときから。離れ掛けたあなたの魂を繋ぎ留めたのはあたしだ。

「そっか・・・わかった。ありがとう」
「それと、ね、アル」
「?」
あたし、実は夢魔なんだ」
「・・・淫魔っていうのは?」
「淫魔は夢魔の一種だから。嘘じゃない」
「本当のこと、でもないけど?」
「うん」

 あなたがよく使う手だね。アル。

「・・・道理で。夢に…ね」
「ごめんね? 黙ってて」
「・・・いい。父上の差し金?」
「一応、あなたとあそこで逢ったのは偶然。あんなところにいる筈の無いあなたを見て、驚いた。思わず、ローレルはなにしてるんだって、言いたくなったよ」
「・・・父上を呼び捨てにできる関係、か」
「まあね」

 呼び捨てどころか、あの子呼ばわりなんだけどね?

__________

 百合好きの方、お待たせ致しました。
 リリよりも絡んでますが…ぬるいですかね?
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