ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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ヴァンパイア編。

72.化け物、め・・・

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 強い風を叩き衝けて狼を近寄らせないようにしているが・・・その強風を抜けて次々と襲い掛かって来る狼を千切っては投げ、千切っては投げ・・・本気で千切りそうになって、まあ耳や毛皮、片足くらいならいいかと開き直った。

 だって、際限無いし。

 百は越えているだろう狼達が一斉に僕に群がり、噛んだり引っ掻いたり、体当たり、それを投げたり蹴ったり、引き剥がす度にその毛皮や身体の一部、熱い血潮が飛び散る。

 ああ、犬臭い。

 怪我をして動けない狼もいるが・・・
 死んでないからいいだろう。
 それに、逃げ出す狼など、一匹もいない。あの灰色のきず狼がこの狼達に命令を下している。

「ったく、本気で鬱陶うっとうしい」

 面倒になって、火を使うことにした。

 両腕に炎をまとって振るうと、キャン! と怯えたような鳴き声で狼達が一斉に退さがる。
 あれだけ群がって食らい付いて来たのが嘘みたいに、狼達が距離を取る。狼がグルグルと僕を取り囲んでいるのは変わらないが・・・こんな簡単に怯むんなら、さっさと使っとけばよかった。

 ・・・何時間も無駄にした気分だ。

「・・・ああ、犬臭い…」

 苛々する。
 犬のにおいが鼻に付いて不快だ。
 体表を高温の炎で一瞬だけあぶり、体に付いた血肉や、脂、毛、臭いを燃やして飛ばす。殺菌消臭。

 まあ、周囲はまだまだ犬臭いけど…

「ふぅ…」

 自分に臭いが付いてないだけで、少しはマシな気分になった。

 すると、今まで静観していた灰色疵狼が動いた。

「ウォーン!!」

 鋭い声が響くと、グルルと狼が唸り声を上げ、僕を囲む包囲網がじわりと狭まる。おそらく、また狼達を僕にけしかけたのだろう。
 けれど、両腕に纏った炎を恐れているのか、狼達の動きは鈍い。

 さて、飛ぶか。パッと背中に蝙蝠こうもりのような翼膜よくまくを出して羽撃はばたき、体を浮かせた。瞬間、

「ウォン!!!」

 灰色疵狼が鋭くえた。

「っ!?」

 すると、背後からなにかが飛び出し、翼膜が斬り裂かれた。ガクンと体勢が崩れ、落ちる。
 ぷんと匂う土の匂い。地面から?
 そして、その隙を逃さず、横合いから灰色疵狼が僕の脇腹へ食らい付いた。
 牙が、食い込む。

「ぐっ!?」
「よう、真祖の。くたばりやがれ」

 ニヤリと笑った狼が猟銃を僕の頭へ突き付け、

「っ!?」

 ダンっ!!!
 強烈な衝撃に、視界が…暗転した・・・

※※※※※※※※※※※※※※※

 クレアが奴の足止めと気力、体力を消耗させる。
 狼達を従え、単調な攻めを数時間。
 その間に、地面を掘って奴へと近付く。
 奴が油断か、妙な動き、または逃げ出そうとしたところを一気に攻める作戦。

 クレアの合図で地面から飛び出したレオンハルトが奴の翼を斬り裂き、体勢を崩して落ちたところへ、クレアが奴の脇腹へ食らい付いた。

 そして、同じく地面から飛び出した俺が、奴の頭にショットガンをっ放した。

 相当な高威力を誇る代わりに、使い手への反動を一切無視したショットガン。渋るシーフに作らせたこれは、俺でも反動がキツい。

 ダンっ!!! と、肩が抜けそうな強い反動と重い手応え。衝撃波に鼓膜がヤられた。奴の頭が半分吹っ飛び、飛び散る熱い脳漿のうしょう。クレアがその胸へ爪を突き立て抉る。

「やったかっ?」

 レオンハルトが声を上げる。しかし、

「・・・・・・・・・ぉ゛かみぃぃィ゛っ!!!」

 憎悪に満ちた絶叫。ギロリと、奴の残った方の金眼が、片目で俺を睨む。

 そして、ドッ!!! と大気が破裂した。
 その叩き衝けるような圧倒的な暴風と魔力に、軽々と吹っ飛ばされる。
 クレアもレオンハルトも、宙に舞った。
 風に斬り裂かれないよう、そして衝撃に備えて身体にぐっと力を込めて筋肉を硬くする。
 吹っ飛ばされながら、ちらりと見えたのは・・・奴を中心にして地面が暴風で抉れ返り、露出した土や岩が吹っ飛び、クレーターができる瞬間。

 そして、半分吹っ飛んだ奴の頭の、ピンク色の脳が再生して、白い髄膜ずいまくに覆われ、頭蓋骨が形成され、筋肉、頭皮に覆われ、やがて髪の毛が伸び、奴が元通りになったのが見えた。

 化け物、め・・・

※※※※※※※※※※※※※※※

 気が付くと、原野だった風景が一変していた。
 十メートル程のクレーターを中心にして、約三百メートル程の地面が割れてひっくり返っている。

 範囲の狭い荒野を作ってしまったようだ。

「・・・クソっ…狼が…」

 まさか、頭を吹っ飛ばされるとは思わなかった。

 意識が飛んだ。
 どのくらい時間が経ったんだ?

 血液の硬化が間に合わなかったのか?

 それに…あれは猟銃か?
 昔より威力が上がっている。
 弾が弾けたような…?

 頭を吹っ飛ばされるのなんて、昔の…ふるい元仲間に命を狙われて以来だ。
 何千年振りだ…?

 鈍く痛む頭を押さえ、視界を確認。
 片目ずつで周囲を見渡す。視野の欠損は無い。
 手足の感覚はある。ちゃんと動く。

「・・・はぁ…」

 地形を、変えてしまった。
 狼共も、野生の狼達もなにもいない。
 思い切り魔力を放出してしまった。

「失敗した・・・」

 炎を出していないのが幸いと言ったところか?

 ここから離れよう。

 アークはもう、この辺りに近付かないだろう。

 この惨状…僕がここにいると、派手に宣伝してしまったようなものだから・・・狼共のせいで。

 忌々しい。

 下手をすると、昔の元仲間の誰かが動くかもしれない。僕を殺しに・・・

 もう一度翼膜を出して、飛び立つ。
 当分、この地には近付かない方がいいだろう。

「・・・アーク…」
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