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ヴァンパイア編。
90.美女かと思ったら美女モドキの野郎かよっ!?
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アマラを抱えて爆走して来たアルちゃん。
そして、その理由を聞くと荒んだ目をして黙り込んだ。アマラへ目を向けるが、答えがない。
意味不明だ。
「………」
「?」
ふと、遠くから声がしたような気がした。
「どうしたの? ジン」
「いや、なんか・・・?」
女の化粧と香水、そして酒の匂いとが混じる…夜の花街というのがぴったりな雰囲気の匂いが、物凄い速さで近付いて来る。
なんというかこう、嫌な既視感が・・・
「……ぃ、ァ…ゥラぁーっ!」
誰かの声が遠くから近付いて来たと思ったら、ぶわっとアルちゃんから殺気が溢れ出した。
「そういうことよ」
うんざりしたようなハスキー。
「そういうこと、か…」
アルちゃんは奴のことを毛嫌いしてるらしい。まあ、わかるけど・・・俺もアイツ嫌いだし。
カイルも、絶対大嫌いだろうなぁ……
「アマラ。今すぐ出港しよう」
アマラを見上げるアルちゃん。マジの目だ。
「アホ言ってンじゃないわよ。買い物はどうすンのよ? 後で荷物届くんだから」
「え~…アクセルさんにはオレから言っとくから! 別の港に届けてくださいってお願いする。そうじゃなかったら、船便。海に来てって頼む!」
アクセルさん? 船便?
「できるワケないでしょ。駄目よ」
「・・・わかった…」
アマラがキッパリと言うと、低い返事で翡翠の瞳が据わった。すっと消えるアルちゃんの表情。そして、一旦は鎮まっていた殺気がゆるりと滲み出る。
その殺気に、アマラが苦い顔をする。と、
「アルゥラーっ! そして金髪美女っ!」
なんというか、アルちゃんの不機嫌の原因が颯爽と走って来た。やたらイイ笑顔で。
金髪美女? 誰だそれ? と、一瞬思ったが…まあ、俺みたいに鼻が利かないと、この美貌の人魚が男だということは判らないか。
アマラはその性別を知らないヒトから見れば、確かに金髪のゴージャス美女だろう。
顔自体は、少しキツめの女顔だしな。
「すまない、金髪美女。アンタが落とした日傘だが、足を引っ掛けて壊してしまったんだ。お詫びと言っちゃあなんだが、受け取ってく、れ…?」
と、アマラへとリボンの掛かった日傘を差し出す長身の黒髪ジプシー系の男。
花が添えてあるのがなんとも言えないな……
「・・・」
アマラはドン引きだ。
そんなアマラを見て、
「…って、野郎じゃねぇかよっ!?」
暗い赤色の瞳が見開く。怒り混じりの嘆き・・・血を吐くような悔しげな声が言う。
どうやら、気付いたようだ。アマラが男だということに。女好きの直感だろうか?
「クっソ、騙されたぜっ! 美女かと思ったら美女モドキの野郎かよっ!?」
「誰が擬きよっ!? どこから見てもアタシは正真正銘の美女でしょうがっ!!!」
バカな言葉に、アマラがキレた。
怒るポイントが違うような気がするが・・・
「煩ぇ美女モドキっ! 日傘買って損したぜ・・・って、手前ぇさっきアルゥラにお姫様抱っこされやがって、純真なアルゥラを騙してなにしやがるつもりだっ!? どうせそんな美女の格好して、アルゥラ誘惑してエロいことするつもりだったんだろっ? なんて卑劣な野郎だっ!? そんな騙し討ちみたいな卑怯な真似は男らしくないぞっ!?」
ビシッとアマラを指差し、最低な邪推をするバカ…トール。本当に、相変わらずだ・・・
「誰がこんな色気もひったくれも無い小娘に欲情するかクソボケがっ!? 消えろクズ野郎っ!?」
「なにを言うかこの美女モドキっ!? アルゥラのこの清廉且つ少女から女へ到る狭間で綻びかけた繊細で美しい色香がわからないとか、お前本当に男かっ!? 信じらんねぇっ!?」
アマラの言い方もなんだけど・・・
正直、引いた。なに? コイツの、この色欲全開っ振り。マジ引くわ・・・
「? っと! 危ないな? アルゥラ」
バカ…こと、トールがいきなりすっと上体を反らしてそのままバク宙。その刹那、一瞬前までトールの首のあった位置を、ヒュッと横合いから鋭い軌跡でブーツが薙いだ。
「俺が美女モドキの相手をしているのが気に食わないのか? 大丈夫だ、安心してくれよアルゥラ! 俺は、野郎には全く興味が無ぇっ! 例えどんなに美女の見た目でも、俺は女が好きだからなっ!?」
冷たい無表情で妄言を無視したアルちゃんが、更に蹴りをトールへ叩き込もうとする。が、トールはそれを全て紙一重で避け、
「だからっ、アルゥラ! そうっ、やきもち…をっ、妬かないでくれよ?」
笑顔で嬉々としてアルちゃんへと語りかける。
というか、今…見間違いじゃなければ、物騒な物がブーツに仕込まれていたような気がする。ブーツの側面に、黒い刃が見えたような…?
確か、アルちゃんのブーツは攻撃力が高いらしい。ミクリヤとじゃれ合いをするときに裸足になるのは、ブーツに鉄板とか…が仕込んでいるからだと言っていた・・・
鉄板…とか、だ。おそらくは鉄板以外にも、仕込んでいるということだろう。具体的には、艶消しをした刃物だとかが仕込まれているようだ。
他にも仕込み武器があるのだろう・・・あ、いつの間にか両手に短剣が握られている。こないだの暗器といい、アルちゃんは案外物騒だと思う。
さすがエレイスの…暗殺稼業の頭領。スティングさんとクレアさん夫妻に育てられたというか・・・アルちゃんの動きが、ちょっと怖い。執拗に、トールの首を掻き斬ろうとしている。
「・・・殺気がすると思えば、またお前か? アル」
船の上からこちらを見下ろすヒュー。アルちゃんは答えず、両手の短剣とブーツに仕込んだ刃物とでトールの首を狙い続けている。
一撃でも食らうと、死ぬだろうな。
「つか、バカかよ……おいっ、トールっ! なんで手前ぇがこんなとこにいんだよっ!?」
小さくバカと呟いたのが聴こえた後、ヒューがトールへ質問する。確かに。なんでコイツがこんなところへいるのか、謎だ。
前にコイツがいた場所は、聖女信仰の港街。ここからだと、数百キロは離れている。
「・・・」
トールは答えない。
「おいっ、聞こえてンだろっ!? トールっ!?」
「五月蝿ぇっ、バカ野郎っ!? 男が気安く俺に話掛けてンじゃねぇぞっ!? アルゥラとの楽しい逢瀬の一時を邪魔すンなっ!?」
バカにバカと言われたヒューの怒気が漂う。
というか、本気の殺意と刃物の嵐が逢瀬・・・本当に筋金入りの女好き過ぎるだろ。
アルちゃんは明らかに、トールを殺る気満々だ。というのにトールは、無表情で執拗に自分の首を狙うアルちゃんが、自分に好意を持っているが故の行動だと思っているようだ。あの連撃の数々を全て躱しつつ、アルちゃんへ頭の悪いことを言い続ける速さと体力。
そして、花畑な頭とメンタル・・・本当に、凄い。突き抜けた女好きというか・・・あれは完璧に、頭がイっている。
「あらあら、どうしてトール君がここにいるの? 教えてくれないかしら?」
色気を多分に含んだ声がした。
「! それは勿論、走って来たからさっ! お嬢さん」
キラっとイイ笑顔でクラウド君…今は、ちゃん? に答えるトール。うん。苛っとする奴だ。
そして、答えになってない。
「ふふっ、それなら、トール君はどうしてここがわかったのかしら?」
苛つく様子もなく、クスクスと妖艶な微笑みを浮かべるクラウド…ちゃん?
「フッ、それはな、お嬢さん。沿岸部に沿ってあちこちの港を片っ端から往復してただけだっ!」
「「は?」」
ヒューと俺の声が揃った。
「この一月近く、毎日数百キロ以上走り回ってアルゥラを探し続けてたのさっ!」
「「毎日数百キロっ!?」」
俺達狼でも、百キロの距離を走るのに三、四時間はかかる。それも、休まずに駆けるとなるとかなり疲れる。個体差はあるにしても、一日で数百キロも駆けるとなると、普段から相当鍛えているヒトじゃないと無理だ。例えば、スティングさんやレオンハルトのような、エレイスの武闘派狼などだ。
「あら、すごい」
「俺は馬だからな! 走るのは得意だぜっ!」
そういえば、確かトールは水棲馬だと言っていた。
水棲馬というのは、川や湖などの水辺に潜み、水を渡れずに難儀している人間へ近付き、その人間が油断したところを襲って食べるという肉食の化け物馬のことだ。心臓だか肝臓は嫌いで、食べ残すらしい。偶に人間の若い男に化けて女を誘惑するだとか・・・
まあ、コイツの場合は、偶にじゃなくて、常に女を誘惑している気がするが。
「さて、と…アルっ、受け止めて♥️」
と、船縁に立ち上がったクラウドちゃんが、いきなり飛び降りた。しかも、頭から真っ逆さまに。
「ちょっ、ルーっ!?」
呼ばれたアルちゃんが、ぎょっとしたようにクラウド君の落下ポイントへダッシュ。そして、
「ふふっ、ナイスキャッチ♪」
無事にクラウドちゃんを受け止めたアルちゃん。濃い蜜色の腕がその首に回され、
「…ん♥️」
「っ!」
妖艶に微笑む唇が、アルちゃんの唇を塞いだ。そして、二人の立場が入れ代わる。ふらりと力の抜けたアルちゃんを、地面に降りたクラウドちゃんが軽々と抱き上げた。
「…ぁ、なたはっ・・・」
「ふふっ、ごめんね? 狼君、アルをよろしく」
「え? あ、うん」
条件反射で頷くと、クラウドちゃんがアルちゃんを俺へ渡してトールの方へ歩いて行く。
「ねぇ、トール君♥️」
「なんだ? 美しいお嬢さんっ」
「あたし、ちょっと欲しい物があって…」
「なんでも言ってくれ! 俺に手に入れられる物なら、なんでもプレゼントするぜっ」
「きゃ、嬉しい♪ということで、あたし。今からトール君とお買い物に行ってくるわ♥️」
「フッ、デートのお誘いだな?大歓迎だぜ! よし、じゃあ行こうか? お嬢さん」
「そうね? お財布君♪」
にこにこと妖艶に微笑む悪女は、トールの腕を組んで街の方へと向かって行った。
傍目には美男美女のジプシー系のカップルだけど、あれは絶対に貢がせるつもりだ。
というか、財布って思い切り言ってたの、聞こえてないのかな? 奴は・・・
「・・・クソっ、邪魔された…」
怒気の籠る低いアルト。
「って、アルちゃん大丈夫?」
「少し、エナジードレインされただけ」
憮然と答えるアルちゃん。
「アマラ」
「なによ?」
こっちも不機嫌なハスキー。
「あんまり怒らないでってさ。海が荒れる」
「っ・・・わかってるわよっ!」
__________
トールがどんどんバカになって行きます。
そして、トールにアマラと約束した宝石を買わせるルー。悪女です。ちなみに、名前を呼んで確りと魅了を掛けてたりします。
そして、その理由を聞くと荒んだ目をして黙り込んだ。アマラへ目を向けるが、答えがない。
意味不明だ。
「………」
「?」
ふと、遠くから声がしたような気がした。
「どうしたの? ジン」
「いや、なんか・・・?」
女の化粧と香水、そして酒の匂いとが混じる…夜の花街というのがぴったりな雰囲気の匂いが、物凄い速さで近付いて来る。
なんというかこう、嫌な既視感が・・・
「……ぃ、ァ…ゥラぁーっ!」
誰かの声が遠くから近付いて来たと思ったら、ぶわっとアルちゃんから殺気が溢れ出した。
「そういうことよ」
うんざりしたようなハスキー。
「そういうこと、か…」
アルちゃんは奴のことを毛嫌いしてるらしい。まあ、わかるけど・・・俺もアイツ嫌いだし。
カイルも、絶対大嫌いだろうなぁ……
「アマラ。今すぐ出港しよう」
アマラを見上げるアルちゃん。マジの目だ。
「アホ言ってンじゃないわよ。買い物はどうすンのよ? 後で荷物届くんだから」
「え~…アクセルさんにはオレから言っとくから! 別の港に届けてくださいってお願いする。そうじゃなかったら、船便。海に来てって頼む!」
アクセルさん? 船便?
「できるワケないでしょ。駄目よ」
「・・・わかった…」
アマラがキッパリと言うと、低い返事で翡翠の瞳が据わった。すっと消えるアルちゃんの表情。そして、一旦は鎮まっていた殺気がゆるりと滲み出る。
その殺気に、アマラが苦い顔をする。と、
「アルゥラーっ! そして金髪美女っ!」
なんというか、アルちゃんの不機嫌の原因が颯爽と走って来た。やたらイイ笑顔で。
金髪美女? 誰だそれ? と、一瞬思ったが…まあ、俺みたいに鼻が利かないと、この美貌の人魚が男だということは判らないか。
アマラはその性別を知らないヒトから見れば、確かに金髪のゴージャス美女だろう。
顔自体は、少しキツめの女顔だしな。
「すまない、金髪美女。アンタが落とした日傘だが、足を引っ掛けて壊してしまったんだ。お詫びと言っちゃあなんだが、受け取ってく、れ…?」
と、アマラへとリボンの掛かった日傘を差し出す長身の黒髪ジプシー系の男。
花が添えてあるのがなんとも言えないな……
「・・・」
アマラはドン引きだ。
そんなアマラを見て、
「…って、野郎じゃねぇかよっ!?」
暗い赤色の瞳が見開く。怒り混じりの嘆き・・・血を吐くような悔しげな声が言う。
どうやら、気付いたようだ。アマラが男だということに。女好きの直感だろうか?
「クっソ、騙されたぜっ! 美女かと思ったら美女モドキの野郎かよっ!?」
「誰が擬きよっ!? どこから見てもアタシは正真正銘の美女でしょうがっ!!!」
バカな言葉に、アマラがキレた。
怒るポイントが違うような気がするが・・・
「煩ぇ美女モドキっ! 日傘買って損したぜ・・・って、手前ぇさっきアルゥラにお姫様抱っこされやがって、純真なアルゥラを騙してなにしやがるつもりだっ!? どうせそんな美女の格好して、アルゥラ誘惑してエロいことするつもりだったんだろっ? なんて卑劣な野郎だっ!? そんな騙し討ちみたいな卑怯な真似は男らしくないぞっ!?」
ビシッとアマラを指差し、最低な邪推をするバカ…トール。本当に、相変わらずだ・・・
「誰がこんな色気もひったくれも無い小娘に欲情するかクソボケがっ!? 消えろクズ野郎っ!?」
「なにを言うかこの美女モドキっ!? アルゥラのこの清廉且つ少女から女へ到る狭間で綻びかけた繊細で美しい色香がわからないとか、お前本当に男かっ!? 信じらんねぇっ!?」
アマラの言い方もなんだけど・・・
正直、引いた。なに? コイツの、この色欲全開っ振り。マジ引くわ・・・
「? っと! 危ないな? アルゥラ」
バカ…こと、トールがいきなりすっと上体を反らしてそのままバク宙。その刹那、一瞬前までトールの首のあった位置を、ヒュッと横合いから鋭い軌跡でブーツが薙いだ。
「俺が美女モドキの相手をしているのが気に食わないのか? 大丈夫だ、安心してくれよアルゥラ! 俺は、野郎には全く興味が無ぇっ! 例えどんなに美女の見た目でも、俺は女が好きだからなっ!?」
冷たい無表情で妄言を無視したアルちゃんが、更に蹴りをトールへ叩き込もうとする。が、トールはそれを全て紙一重で避け、
「だからっ、アルゥラ! そうっ、やきもち…をっ、妬かないでくれよ?」
笑顔で嬉々としてアルちゃんへと語りかける。
というか、今…見間違いじゃなければ、物騒な物がブーツに仕込まれていたような気がする。ブーツの側面に、黒い刃が見えたような…?
確か、アルちゃんのブーツは攻撃力が高いらしい。ミクリヤとじゃれ合いをするときに裸足になるのは、ブーツに鉄板とか…が仕込んでいるからだと言っていた・・・
鉄板…とか、だ。おそらくは鉄板以外にも、仕込んでいるということだろう。具体的には、艶消しをした刃物だとかが仕込まれているようだ。
他にも仕込み武器があるのだろう・・・あ、いつの間にか両手に短剣が握られている。こないだの暗器といい、アルちゃんは案外物騒だと思う。
さすがエレイスの…暗殺稼業の頭領。スティングさんとクレアさん夫妻に育てられたというか・・・アルちゃんの動きが、ちょっと怖い。執拗に、トールの首を掻き斬ろうとしている。
「・・・殺気がすると思えば、またお前か? アル」
船の上からこちらを見下ろすヒュー。アルちゃんは答えず、両手の短剣とブーツに仕込んだ刃物とでトールの首を狙い続けている。
一撃でも食らうと、死ぬだろうな。
「つか、バカかよ……おいっ、トールっ! なんで手前ぇがこんなとこにいんだよっ!?」
小さくバカと呟いたのが聴こえた後、ヒューがトールへ質問する。確かに。なんでコイツがこんなところへいるのか、謎だ。
前にコイツがいた場所は、聖女信仰の港街。ここからだと、数百キロは離れている。
「・・・」
トールは答えない。
「おいっ、聞こえてンだろっ!? トールっ!?」
「五月蝿ぇっ、バカ野郎っ!? 男が気安く俺に話掛けてンじゃねぇぞっ!? アルゥラとの楽しい逢瀬の一時を邪魔すンなっ!?」
バカにバカと言われたヒューの怒気が漂う。
というか、本気の殺意と刃物の嵐が逢瀬・・・本当に筋金入りの女好き過ぎるだろ。
アルちゃんは明らかに、トールを殺る気満々だ。というのにトールは、無表情で執拗に自分の首を狙うアルちゃんが、自分に好意を持っているが故の行動だと思っているようだ。あの連撃の数々を全て躱しつつ、アルちゃんへ頭の悪いことを言い続ける速さと体力。
そして、花畑な頭とメンタル・・・本当に、凄い。突き抜けた女好きというか・・・あれは完璧に、頭がイっている。
「あらあら、どうしてトール君がここにいるの? 教えてくれないかしら?」
色気を多分に含んだ声がした。
「! それは勿論、走って来たからさっ! お嬢さん」
キラっとイイ笑顔でクラウド君…今は、ちゃん? に答えるトール。うん。苛っとする奴だ。
そして、答えになってない。
「ふふっ、それなら、トール君はどうしてここがわかったのかしら?」
苛つく様子もなく、クスクスと妖艶な微笑みを浮かべるクラウド…ちゃん?
「フッ、それはな、お嬢さん。沿岸部に沿ってあちこちの港を片っ端から往復してただけだっ!」
「「は?」」
ヒューと俺の声が揃った。
「この一月近く、毎日数百キロ以上走り回ってアルゥラを探し続けてたのさっ!」
「「毎日数百キロっ!?」」
俺達狼でも、百キロの距離を走るのに三、四時間はかかる。それも、休まずに駆けるとなるとかなり疲れる。個体差はあるにしても、一日で数百キロも駆けるとなると、普段から相当鍛えているヒトじゃないと無理だ。例えば、スティングさんやレオンハルトのような、エレイスの武闘派狼などだ。
「あら、すごい」
「俺は馬だからな! 走るのは得意だぜっ!」
そういえば、確かトールは水棲馬だと言っていた。
水棲馬というのは、川や湖などの水辺に潜み、水を渡れずに難儀している人間へ近付き、その人間が油断したところを襲って食べるという肉食の化け物馬のことだ。心臓だか肝臓は嫌いで、食べ残すらしい。偶に人間の若い男に化けて女を誘惑するだとか・・・
まあ、コイツの場合は、偶にじゃなくて、常に女を誘惑している気がするが。
「さて、と…アルっ、受け止めて♥️」
と、船縁に立ち上がったクラウドちゃんが、いきなり飛び降りた。しかも、頭から真っ逆さまに。
「ちょっ、ルーっ!?」
呼ばれたアルちゃんが、ぎょっとしたようにクラウド君の落下ポイントへダッシュ。そして、
「ふふっ、ナイスキャッチ♪」
無事にクラウドちゃんを受け止めたアルちゃん。濃い蜜色の腕がその首に回され、
「…ん♥️」
「っ!」
妖艶に微笑む唇が、アルちゃんの唇を塞いだ。そして、二人の立場が入れ代わる。ふらりと力の抜けたアルちゃんを、地面に降りたクラウドちゃんが軽々と抱き上げた。
「…ぁ、なたはっ・・・」
「ふふっ、ごめんね? 狼君、アルをよろしく」
「え? あ、うん」
条件反射で頷くと、クラウドちゃんがアルちゃんを俺へ渡してトールの方へ歩いて行く。
「ねぇ、トール君♥️」
「なんだ? 美しいお嬢さんっ」
「あたし、ちょっと欲しい物があって…」
「なんでも言ってくれ! 俺に手に入れられる物なら、なんでもプレゼントするぜっ」
「きゃ、嬉しい♪ということで、あたし。今からトール君とお買い物に行ってくるわ♥️」
「フッ、デートのお誘いだな?大歓迎だぜ! よし、じゃあ行こうか? お嬢さん」
「そうね? お財布君♪」
にこにこと妖艶に微笑む悪女は、トールの腕を組んで街の方へと向かって行った。
傍目には美男美女のジプシー系のカップルだけど、あれは絶対に貢がせるつもりだ。
というか、財布って思い切り言ってたの、聞こえてないのかな? 奴は・・・
「・・・クソっ、邪魔された…」
怒気の籠る低いアルト。
「って、アルちゃん大丈夫?」
「少し、エナジードレインされただけ」
憮然と答えるアルちゃん。
「アマラ」
「なによ?」
こっちも不機嫌なハスキー。
「あんまり怒らないでってさ。海が荒れる」
「っ・・・わかってるわよっ!」
__________
トールがどんどんバカになって行きます。
そして、トールにアマラと約束した宝石を買わせるルー。悪女です。ちなみに、名前を呼んで確りと魅了を掛けてたりします。
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