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ヴァンパイア編。
123.僕の妹を侮辱するな。
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ロゼットが、リリアナイトのいる方へと行ってしまいました。それも、なにげない風を装いながら、少し嬉しそうにして・・・
まあ、この悪意に満ちた空間がロゼットにとっては居心地が悪いのは判り切っていますからね。
この場を離れることへ、ホッとしたのでしょう。
ええ。きっとそうに決まっていますともっ!
僕よりもリリアナイトの方がいいなどということは、断じてないのですっ!
ロゼットは、とても繊細な子ですからね。
この悪意や、嘲笑、穢らわしい視線に耐えることが辛かったのでしょう。
僕の為に、貴女が耐えていたかと思うとっ・・・貴女のいじらしさが大変愛おしく感じられます。
ああ、ロゼット。今すぐ貴女へ吸血がしたい! 貴女の、白く滑らかな柔肌へと牙を突き立て、思う存分にその甘美な血で喉を潤したいっ・・・
ああ……本当に、喉が渇く……
ロゼット。この仮面舞踏会が終わったら、吸血をしましょうね? 貴女の血を、思う存分…ではなく、ある程度は我慢して自重しますが…飲ませてください。その代わり、貴女に僕の血をたっぷりと飲ませてあげたいと思います。
ロゼット。貴女と僕の二人で、お互いの血に酔いしれる素敵な時間を過ごしましょう。
貴女が、僕の血に酔う顔が早く見たい。僕の、一番大好きなロゼットの表情を・・・
そして貴女を、僕へと近付けましょう。
大丈夫です。なにも怖いことはありません。
今回は絶対に、貴女を壊してしまわないよう、じっくりと時間を掛けると決めています。
自重すると誓います。
焦らず、ゆっくりと貴女を、純血の存在へと近付けて、僕の伴侶にしましょう。
愛しい愛しい、僕だけの白薔薇を。
もし、万が一失敗してしまっても・・・ちゃんと貴女を僕の伴侶にすると誓います。
アンデッドの吸血鬼に成ったとしても、ロゼットがロゼットで在ることは変わらないですからね。
僕の愛は、微塵も変わりません。
無論、そうなった場合は、貴女を僕に隷属させたりなどしないので安心してください。
生涯、愛し合いましょう。
そう、考えていたら・・・
「いやはや、貴公子に想う方がおられるとは、知りませんでした。貴公子も隅におけませんな」
「全く、大変仲睦まじいご様子で少々妬けますぞ」
「されど貴公子、なにも一人の相手に決めることはないかと。貴公子ならば引く手数多でしょうに」
「我が一族に美しい娘がいまして」
「貴公子は黒髪や金髪碧眼の女性がお好みだとか」
寄って来た招待客達が一斉に話し始めた。
全く、ロゼットが離れた途端にこれですか。
本当に、鬱陶しい連中だ。
アダマスに集る純血共が。
表面上はにこやかにしています。けれど、欲得塗れのギラついた気配は隠せていません。
まあ、憎悪や殺気を抑えているモノについては、ほんの少しだけ評価しますが。
社交の場はある意味、戦闘の場ですからね。
そして・・・カツン、と杖の突かれる音で静まり返る招待客達。次いで、割れる人垣。
「フェンネルよ。一体どういうことだ?」
重厚な老人の声が言った。
「これはこれは。ようこそ、グランデノム大老」
白髪を撫で付け、オートクチュールのスーツに身を包んだ、矍鑠とした老人が現れた。
我がアダマス家と祖を同じくする純血の血統。
子殺しの始祖の血統の、現存している数少ない血統。グランデノム家の現当主。
ヴェレーノ・グランデノム大老。
永きに渡り子殺しの始祖から逃げ延び続け、アダマスの乗っ取りを企む狡猾な老人。
有り体に言えば、我が家の邪魔ばかりしている目障り極まりない糞爺。
そして・・・
「グランデノム大老とはまた、随分と他人行儀な呼び方をする。お前には、お祖父様と呼ぶことを許可しているだろう? 我が孫のフェンネルよ」
僕を生んだ、あの女の血縁に当たる。
「喜ばしいことに、お前はローレルの小僧よりも、我が娘のイベリスによく似ているのだから」
ヴェレーノ・グランデノムは忌々しいあの女の曾祖父だか高祖父に当たり、そして父親でもある、のだそうだ。
グランデノムは非常にヴァンパイアらしいヴァンパイアで、初代からずっと近親相姦と血族婚を繰り返しているという。その血は兄弟姉妹、親子で入り乱れ、錯綜している血族として有名だ。
その血縁関係はもうぐちゃぐちゃで、とてもではないが、把握し切れない。
他家へ嫁や婿に出たモノ以外は、血族の殆どが三親等以内の関係だという。
そして、純血の他家へ嫁や婿を送り出し、その家を乗っ取り、自分達の血族のモノと次々に婚姻を結ばせ、やがてはグランデノムの血族でその血族を塗り潰して繁栄して来た乗っ取りの家。
非常に性質が悪い家として有名だ。
全く、こんな最悪の家から嫁を迎えなければいけなかった当時の父上には、心から同情致します。
それにしても、気色悪い。
最低最悪の気分だ。
僕が、穢らわしいあの女に似ていると言われて喜ぶことなど、有り得ないというのに。
僕は、自分のこの髪と瞳の色、そして容姿が好きではない。昔は、この顔が大嫌いだった。
この老人は、そんなことさえも判らない。
まあ、今は多少ましになりましたけどね。
ロゼットが、「兄さんの髪は、見てるとお茶をしたくなるよね。ミルクティーの色。オレは好きだよ? その色」と言ってくれますし、「写真ってさ、風景がアンタの瞳の色っぽく写るんだよね。セピア色…っていうんだったかい? 見る度に兄様を思い出すよ」と、椿がそう言ってくれましたからね。
顔の造作自体はまだ嫌いですが・・・
以前の、鏡を見る度、自分の姿を見る度に、それをぶっ壊したくなる衝動は無くなりました。
失明から回復した当時は、姿を映す物を手当たり次第に壊し捲って、父上や絲音義母上、椿に相当迷惑を掛けてしまいました。
まあ、弱視なので眼鏡を掛けなければなにも見えないので、最終的には眼鏡を取り上げられてぶん殴られて怒られたのですが・・・
あと、僕をグランデノムと呼んだ連中を片っ端から消して行ったら、僕の前でグランデノムの名を出すモノは激減しましたからね。
それで僕はある程度、穏やかな心持ちになれたのですが・・・
この、グランデノム本家の連中以外には。
本当に、僕はこの連中が、心の底から死ぬ程…いえ、殺したい程に大嫌いだというのに。
それを、微塵も理解できないクソ共は、未だにアダマスを乗っ取ろうとしている。
アイマスクを付けていてくれて、助かった。これでこのクソ共の顔が、僕と似ているのを見てしまったら・・・今度こそ僕は本当に、自分のこの顔を大嫌いになってしまうだろうから。
そして・・・
「フェンネルよ。この仮面舞踏会は、お前がグランデノムとの関係を見直すという名目で開いたパーティーだった筈ではないのか?その為に、我がグランデノム一族を呼んだのだろう。お前と奴隷との戯れを見る為に来たワケではない」
蔑むように、老人の声が言った。
「奴隷…だと?」
言うに事欠いて、僕の愛しい妹を奴隷扱いか!思わず低い声が出てしまった。
「? お前が執着する程の価値を、あの奴隷が有しているというのか? 顔か? それとも身体か? 確かに、体つきは悪くない娘だったが・・・まだ抱いてはいないだろうに。そんなに美味い血をしているのか? ああ、それとも、あの混血の妹に似ているのか? 妹は確か、あの雑種の家にやったのだろう。雑種同士で相応しい筈だが、お前は納得していないのだったな?」
ああ・・・ロゼットを離して正解だった。こんなに酷くて醜い言葉を、あの子に聞かせずに済んだ。
ロゼットは・・・
もう、この会場にはいませんね?
リリアナイトが既に隔離したようです。
本当によかった。
リリアナイト、今はあなたへ感謝します。
「僕の妹を侮辱するな」
低く言うと、ザワリと声が上がった。
「大老へなんて口を利くんだ!」「孫だからと言って頭に乗るな!」「若造風情が!」「言わせておけば調子に乗って」「許されることではないぞ」
カツン、と杖の音で声が止んだ。
「よい。成る程成る程。妹へのその執着は、我がグランデノムの血の証と言えよう」
好々爺然とした笑顔で、
「なれば、我がグランデノムの娘も気に入ることだろう。あの奴隷などより、余程な?」
またもやロゼットを奴隷呼ばわり・・・
本っ当に、クソムカつく爺だな・・・
腸が、煮えくり返る程に。
「黙れ。そして、死ね」
その言葉で、熱い真紅の花が散った。
ぐじゃり! と、濡れたような音と共に胸と頭を同時に貫かれ、ドタドタと一斉に倒れて行く招待客達。
飛び散る血飛沫。
ボタボタと床に落ちる赤い熱。
今ので、会場の参加者の約七割が即死。
「ぐっ!?」「がハッ!」「…っ!?!?」「ぅ…う…」「な、に…をっ」「貴、公…子」「フェンネルぅっ!!!」
まだ死んでいないモノ達の、耳障りな呻き声が会場に響いている。
「まだ生きているのか。しぶといな」
受付で招待状と引き換えに配ったアイマスクと参加紀章に、僕の血晶を仕込んでいた。
それで、頭と胸を同時に貫いたというのに。
「まあ、不死性が高いのがヴァンパイアの特徴。その純血種が簡単に死なないのは当然」
それに、わざと残したモノ達もいる。
ロゼットへ穢らわしい視線を向けた塵屑や、椿とロゼットを殊更侮辱したグランデノムの連中には、これから地獄を見せてやろう。
床を染め上げる大量の真紅が、
「地獄の苦しみを存分に味合わせてやるから、僕の妹を侮辱したことを後悔して死ね」
重力に逆らってのたりと持ち上がる。
「穿いて抉れ。内側からじっくりと、丁寧に磨り潰して、その身を破壊し尽くせ」
そして上がる、絶叫。
抵抗しているモノもいるが、この僕の操血に敵う筈が無い。
流された血液は、既に僕の支配下にある。
なにせ、僕の異名は操血の支配者。
そう称される僕の操血に対抗するには、僕以上の魔力か操血能力が必要不可欠だ。
そしてこの場には、それを越えられるモノは存在しないのだから。
他家を乗っ取ることで逃げ延びたグランデノムと、彼の真祖と戦い続けて来たアダマスとでは、その積み上げて来た戦闘力に歴然とした差ができるのは当然のこと。
「最大限の苦痛の中、苦しみ抜いて死ね」
さあ、この連中の処理を済ませたら、ロゼットへ逢いに行きましょう。
これで、貴女を傷付けたモノ達が減りました。
__________
まあ、薄々察している方はいたでしょうが…
今回で漸くフェンネルの冷酷さ本領発揮。
滾るシスコンの血祭りパーティーです。一応、半分は自分の為なんですけどね・・・
まあ、この悪意に満ちた空間がロゼットにとっては居心地が悪いのは判り切っていますからね。
この場を離れることへ、ホッとしたのでしょう。
ええ。きっとそうに決まっていますともっ!
僕よりもリリアナイトの方がいいなどということは、断じてないのですっ!
ロゼットは、とても繊細な子ですからね。
この悪意や、嘲笑、穢らわしい視線に耐えることが辛かったのでしょう。
僕の為に、貴女が耐えていたかと思うとっ・・・貴女のいじらしさが大変愛おしく感じられます。
ああ、ロゼット。今すぐ貴女へ吸血がしたい! 貴女の、白く滑らかな柔肌へと牙を突き立て、思う存分にその甘美な血で喉を潤したいっ・・・
ああ……本当に、喉が渇く……
ロゼット。この仮面舞踏会が終わったら、吸血をしましょうね? 貴女の血を、思う存分…ではなく、ある程度は我慢して自重しますが…飲ませてください。その代わり、貴女に僕の血をたっぷりと飲ませてあげたいと思います。
ロゼット。貴女と僕の二人で、お互いの血に酔いしれる素敵な時間を過ごしましょう。
貴女が、僕の血に酔う顔が早く見たい。僕の、一番大好きなロゼットの表情を・・・
そして貴女を、僕へと近付けましょう。
大丈夫です。なにも怖いことはありません。
今回は絶対に、貴女を壊してしまわないよう、じっくりと時間を掛けると決めています。
自重すると誓います。
焦らず、ゆっくりと貴女を、純血の存在へと近付けて、僕の伴侶にしましょう。
愛しい愛しい、僕だけの白薔薇を。
もし、万が一失敗してしまっても・・・ちゃんと貴女を僕の伴侶にすると誓います。
アンデッドの吸血鬼に成ったとしても、ロゼットがロゼットで在ることは変わらないですからね。
僕の愛は、微塵も変わりません。
無論、そうなった場合は、貴女を僕に隷属させたりなどしないので安心してください。
生涯、愛し合いましょう。
そう、考えていたら・・・
「いやはや、貴公子に想う方がおられるとは、知りませんでした。貴公子も隅におけませんな」
「全く、大変仲睦まじいご様子で少々妬けますぞ」
「されど貴公子、なにも一人の相手に決めることはないかと。貴公子ならば引く手数多でしょうに」
「我が一族に美しい娘がいまして」
「貴公子は黒髪や金髪碧眼の女性がお好みだとか」
寄って来た招待客達が一斉に話し始めた。
全く、ロゼットが離れた途端にこれですか。
本当に、鬱陶しい連中だ。
アダマスに集る純血共が。
表面上はにこやかにしています。けれど、欲得塗れのギラついた気配は隠せていません。
まあ、憎悪や殺気を抑えているモノについては、ほんの少しだけ評価しますが。
社交の場はある意味、戦闘の場ですからね。
そして・・・カツン、と杖の突かれる音で静まり返る招待客達。次いで、割れる人垣。
「フェンネルよ。一体どういうことだ?」
重厚な老人の声が言った。
「これはこれは。ようこそ、グランデノム大老」
白髪を撫で付け、オートクチュールのスーツに身を包んだ、矍鑠とした老人が現れた。
我がアダマス家と祖を同じくする純血の血統。
子殺しの始祖の血統の、現存している数少ない血統。グランデノム家の現当主。
ヴェレーノ・グランデノム大老。
永きに渡り子殺しの始祖から逃げ延び続け、アダマスの乗っ取りを企む狡猾な老人。
有り体に言えば、我が家の邪魔ばかりしている目障り極まりない糞爺。
そして・・・
「グランデノム大老とはまた、随分と他人行儀な呼び方をする。お前には、お祖父様と呼ぶことを許可しているだろう? 我が孫のフェンネルよ」
僕を生んだ、あの女の血縁に当たる。
「喜ばしいことに、お前はローレルの小僧よりも、我が娘のイベリスによく似ているのだから」
ヴェレーノ・グランデノムは忌々しいあの女の曾祖父だか高祖父に当たり、そして父親でもある、のだそうだ。
グランデノムは非常にヴァンパイアらしいヴァンパイアで、初代からずっと近親相姦と血族婚を繰り返しているという。その血は兄弟姉妹、親子で入り乱れ、錯綜している血族として有名だ。
その血縁関係はもうぐちゃぐちゃで、とてもではないが、把握し切れない。
他家へ嫁や婿に出たモノ以外は、血族の殆どが三親等以内の関係だという。
そして、純血の他家へ嫁や婿を送り出し、その家を乗っ取り、自分達の血族のモノと次々に婚姻を結ばせ、やがてはグランデノムの血族でその血族を塗り潰して繁栄して来た乗っ取りの家。
非常に性質が悪い家として有名だ。
全く、こんな最悪の家から嫁を迎えなければいけなかった当時の父上には、心から同情致します。
それにしても、気色悪い。
最低最悪の気分だ。
僕が、穢らわしいあの女に似ていると言われて喜ぶことなど、有り得ないというのに。
僕は、自分のこの髪と瞳の色、そして容姿が好きではない。昔は、この顔が大嫌いだった。
この老人は、そんなことさえも判らない。
まあ、今は多少ましになりましたけどね。
ロゼットが、「兄さんの髪は、見てるとお茶をしたくなるよね。ミルクティーの色。オレは好きだよ? その色」と言ってくれますし、「写真ってさ、風景がアンタの瞳の色っぽく写るんだよね。セピア色…っていうんだったかい? 見る度に兄様を思い出すよ」と、椿がそう言ってくれましたからね。
顔の造作自体はまだ嫌いですが・・・
以前の、鏡を見る度、自分の姿を見る度に、それをぶっ壊したくなる衝動は無くなりました。
失明から回復した当時は、姿を映す物を手当たり次第に壊し捲って、父上や絲音義母上、椿に相当迷惑を掛けてしまいました。
まあ、弱視なので眼鏡を掛けなければなにも見えないので、最終的には眼鏡を取り上げられてぶん殴られて怒られたのですが・・・
あと、僕をグランデノムと呼んだ連中を片っ端から消して行ったら、僕の前でグランデノムの名を出すモノは激減しましたからね。
それで僕はある程度、穏やかな心持ちになれたのですが・・・
この、グランデノム本家の連中以外には。
本当に、僕はこの連中が、心の底から死ぬ程…いえ、殺したい程に大嫌いだというのに。
それを、微塵も理解できないクソ共は、未だにアダマスを乗っ取ろうとしている。
アイマスクを付けていてくれて、助かった。これでこのクソ共の顔が、僕と似ているのを見てしまったら・・・今度こそ僕は本当に、自分のこの顔を大嫌いになってしまうだろうから。
そして・・・
「フェンネルよ。この仮面舞踏会は、お前がグランデノムとの関係を見直すという名目で開いたパーティーだった筈ではないのか?その為に、我がグランデノム一族を呼んだのだろう。お前と奴隷との戯れを見る為に来たワケではない」
蔑むように、老人の声が言った。
「奴隷…だと?」
言うに事欠いて、僕の愛しい妹を奴隷扱いか!思わず低い声が出てしまった。
「? お前が執着する程の価値を、あの奴隷が有しているというのか? 顔か? それとも身体か? 確かに、体つきは悪くない娘だったが・・・まだ抱いてはいないだろうに。そんなに美味い血をしているのか? ああ、それとも、あの混血の妹に似ているのか? 妹は確か、あの雑種の家にやったのだろう。雑種同士で相応しい筈だが、お前は納得していないのだったな?」
ああ・・・ロゼットを離して正解だった。こんなに酷くて醜い言葉を、あの子に聞かせずに済んだ。
ロゼットは・・・
もう、この会場にはいませんね?
リリアナイトが既に隔離したようです。
本当によかった。
リリアナイト、今はあなたへ感謝します。
「僕の妹を侮辱するな」
低く言うと、ザワリと声が上がった。
「大老へなんて口を利くんだ!」「孫だからと言って頭に乗るな!」「若造風情が!」「言わせておけば調子に乗って」「許されることではないぞ」
カツン、と杖の音で声が止んだ。
「よい。成る程成る程。妹へのその執着は、我がグランデノムの血の証と言えよう」
好々爺然とした笑顔で、
「なれば、我がグランデノムの娘も気に入ることだろう。あの奴隷などより、余程な?」
またもやロゼットを奴隷呼ばわり・・・
本っ当に、クソムカつく爺だな・・・
腸が、煮えくり返る程に。
「黙れ。そして、死ね」
その言葉で、熱い真紅の花が散った。
ぐじゃり! と、濡れたような音と共に胸と頭を同時に貫かれ、ドタドタと一斉に倒れて行く招待客達。
飛び散る血飛沫。
ボタボタと床に落ちる赤い熱。
今ので、会場の参加者の約七割が即死。
「ぐっ!?」「がハッ!」「…っ!?!?」「ぅ…う…」「な、に…をっ」「貴、公…子」「フェンネルぅっ!!!」
まだ死んでいないモノ達の、耳障りな呻き声が会場に響いている。
「まだ生きているのか。しぶといな」
受付で招待状と引き換えに配ったアイマスクと参加紀章に、僕の血晶を仕込んでいた。
それで、頭と胸を同時に貫いたというのに。
「まあ、不死性が高いのがヴァンパイアの特徴。その純血種が簡単に死なないのは当然」
それに、わざと残したモノ達もいる。
ロゼットへ穢らわしい視線を向けた塵屑や、椿とロゼットを殊更侮辱したグランデノムの連中には、これから地獄を見せてやろう。
床を染め上げる大量の真紅が、
「地獄の苦しみを存分に味合わせてやるから、僕の妹を侮辱したことを後悔して死ね」
重力に逆らってのたりと持ち上がる。
「穿いて抉れ。内側からじっくりと、丁寧に磨り潰して、その身を破壊し尽くせ」
そして上がる、絶叫。
抵抗しているモノもいるが、この僕の操血に敵う筈が無い。
流された血液は、既に僕の支配下にある。
なにせ、僕の異名は操血の支配者。
そう称される僕の操血に対抗するには、僕以上の魔力か操血能力が必要不可欠だ。
そしてこの場には、それを越えられるモノは存在しないのだから。
他家を乗っ取ることで逃げ延びたグランデノムと、彼の真祖と戦い続けて来たアダマスとでは、その積み上げて来た戦闘力に歴然とした差ができるのは当然のこと。
「最大限の苦痛の中、苦しみ抜いて死ね」
さあ、この連中の処理を済ませたら、ロゼットへ逢いに行きましょう。
これで、貴女を傷付けたモノ達が減りました。
__________
まあ、薄々察している方はいたでしょうが…
今回で漸くフェンネルの冷酷さ本領発揮。
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