ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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ヴァンパイア編。

138.少し怠いが、起きよう。

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 ローレルの護衛を兼ねてと療養で、アダマスの本邸に滞在中。

「!」

 クレアがふっ、と顔を上げた。ピクリ、とその尖った耳が動く。

「どうした、クレア」

 特に、なにかの気配がする様子はない。

「・・・アルが、呼んでる」
「そうかよ」

 クレアはやたら直感が鋭い。クレアがそう言うのなら、そうなのかもしれない。
 ・・・電波とかでなければ、だが。

「行く」
「なら、レオンも連れて」
「スティングとレオンハルトは、駄目」

 行け、と言う前に、クレアに遮られる。

「は? いや、アルの捜索はローレルが」
「スティングとレオンハルトは、駄目。二人は、前にアルと会ってる。今度は、私の番」

 無表情だが、どことなくムスッとしたような声だ。どうやらクレアは、前に俺達がアルと会ったことを根に持っているようだ。

 まあ、コイツはアルとシーフを溺愛しているからな。レオンよりも、二人を可愛がっている。

 レオンも、あの二人を可愛がっている。それにはとても助かっている。多分、それなりに年が離れているのがよかったのだろう。二人への変な嫉妬はない。というか、むしろある意味、自由人…というか、割と野性の狼に近い感性のクレアよりも、レオンの方が二人の母親・・をしている気がしなくもないが・・・

 常識は、クレアよりも普通にレオンの方があるからな。というか、なぜかシーフの方がクレアと性格が似ている。そして、アルはレオンの方と似た。

「・・・わかった。行って来い」
「ん。行く。レオンハルトと、シーフをよろしく」
「おう」

 ローレルが倒れ、俺らが怪我をして帰って来てから、シーフは工房にこもり切りだ。クレアは火が苦手で、あまり工房に出入りしたがらない。
 まあ、工房への出入り自体を、今はシーフが嫌がっているということもあるが・・・

 レオンは、足留めをしろということだろう。真祖とやり合うには、レオンは明らかに実力不足。足手まといになる。

 現状としては・・・

 あの真祖が、死んでいなかったようだ。そして、ローレルいわく、奴がアルと接触した、と。

 アルが奴と接触したとは言っていたが、アルが死んだとは言っていない。

 なら、アルはまだ生きている。

 拠って、真祖とアルの動向把握が最優先事項。

 可能であれば、アルを連れ戻せとのこと。

 椿ちゃん達は無事。

 そして・・・

 リリアナイトの船で、フェンネルが仮面舞踏会マスカレイドを開催したそうだ。
 そこで、グランデノム他、純血主義を主張し、混血排除をうたう主要なヴァンパイア共を一掃したようだ。
 結果、なぜかリリアナイトの船が沈没。
 詳細は不明。
 事情を知っているであろうフェンネルは今、アダマス本邸ここへ向かって移動中とのこと。
 ローレルと俺らが動けない間に、フェンネルがこそこそと動いていたようだが・・・

 ローレルはフェンネルの勝手に、少々キレ気味だ。アルと奴の接触で苛ついているというのもあるが・・・これはきっと、血を見ることになるだろう。

 まあ、フェンネルは自業自得だな。

 ローレルはフェンネルを制裁しシバいて当分動けないようにした後、回復次第動くようだ。ある意味、愛情だと言えなくもない。八つ当りが透けて見えるが。

 俺とレオンはそれまで、ローレルの護衛兼、鬱陶うっとうしくうごめき出した蝿共の駆除。

 さて、クレアはアルを連れて帰って来るか・・・

※※※※※※※※※※※※※※※

『ねぇ、アル。あたしあなたに、思い出してほしくないんだ。忘れたままでいてほしい。お願いだから・・・』

 艶やかで優しい声が、脳裏に響く。

『思い出さないで? 愛しいあなたを、渡したくない』

 とろりとした眠気から・・・

「・・・」

 ゆるゆると意識が浮上して、目が覚めた。

 ぼんやりと真上に見えるのは天井。
 オレンジの柔らかい光が照らしている。
 多分、今は夜。

 一定の揺れる感覚と潮の匂い。

 そして、花の香がする。

 ここは、船の中。

 オレは、寝ていたようだ。

 なんで、ここにいる?
 どうやってここまで移動した?

 オレは確か、リリの船で・・・

 ああ、なんだか・・・ぼーっとする。

 額が鈍く疼く気がするが、痛くはない。

 状況が把握できない。

 ・・・お腹が・・・空いた・・・気がする。

 喉も渇いて・・・・・いるような・・・

 まあ、どうせ血は飲めそうにないけど。

「・・・」

 少しだるいが、起きよう。

 のそのそと身を起こす。と、

「・・・起きたの? アル」

 ハスキーな声がした。

「開けていい?」
「・・・どうぞ」

 少し掠れたような声が出た。そして、

「開けるわよ」

 シャッとカーテンが開いた。そして、見下ろすのは淡いハニーブロンドとアイスブルーの瞳をしたゴージャス美女・・・に、見えるアマラ。相変わらず、今日も麗しい美貌だ。

「おはよう。気分はどう?」
「・・・そこそこ悪い」

 溜息を吐きながら答える。

「顔見せなさいよ」

 そっと、下の方から伸ばされる白い手。

「今、オレお腹空いてるから、触ると多分エナジードレイン全開だよ?」
「少しくらい構わないわよ」

 白い手が頬へ触れ、優しく上を向かされる。

「酷い顔色ね。大丈夫なの?」
「頭痛の後はこんなもんだよ。こないだは、ルーがいたから回復が早かったんだ。もう放して。ホントに加減利かないんだって」

 頬へ触れている手から、アマラの精気を奪っているのがわかる。キスとかの接触の方が効率はいいが、あまりにもお腹が・・・空いて・・・いると、無意識にエナジードレインをしてしまう。
 多分これは、血を飲めない代わりだから、オレには抑えられない。
 半径一メートルの範囲くらいにある植物を片っ端から枯らしてしまったり、だとか・・・

 今回は養母かあさんもシーフもいないから、回復までに時間が掛かるだろう。

「アンタ、昼間のこと覚えてる?」

 アマラは、オレを無視して問い掛ける。

「昼? ・・・いつの昼? っていうか、なんでオレはここに? 違う場所にいた筈だけど・・・」
「・・・覚えてないの?」

 アマラの眉がしかめられる。

「? 記憶が飛ぶのは、よくあることだから」
「・・・どこまで覚えてるの? アンタは」

 どこまで、か・・・

 兄さん主催で仮面舞踏会マスカレイドをして、兄さんと踊った。それか、ら・・・?

 リリが、×××に傷付けられて・・・

「?」

 ×××、が・・・?

『駄目だよ。アル』

 瞬間、

「っ!? っ、っぐっ!?」

 ズキン! と、強烈に痛む額を強く押さえる。

「ちょっ、アルっ!?」

 激痛に、ハスキーな声が遠くなる。

「っ!? アルっ!? 思い出さなくていいからっ、落ち着きなさいっ!? アルっ!」
「っっっ、くっ・・・ハッ、はぁ・・・」

 治まった痛みに、息を吐く。

 くらくらする。気持ち悪い。

 喉が、渇く。血が、欲し・・・

 いや、この状態じゃ飲めねぇし。

 絶対ぇ吐くだろ。

 この、矛盾した気持ち悪い感覚に・・・自分が、欠陥品なのだと思い知らされる。

 酷く、いやな気分になる。

「……っとアル! 大丈夫っ!?」

 ガッ、と肩を掴まれ、遠くなった音が戻る。

「(ジンっ!? 今すぐ来てっ!?)」
「・・・大丈夫。治まったから」
「ンなワケないでしょ! そんな蒼白な顔で!」

 アマラが言うと、バタバタと足音がしてドアの開く音がした。

「アルちゃんはっ!? 退いて、アマラ。アルちゃん、大丈夫? 頭痛いの?」

 慌ただしく入って来た声に、緩く首を振る。

「少し触るよ?」

 頷くと、熱い手に左手首が取られる。

「・・・脈が、少し速いかな。気分はどう?」
「そこそこ悪い」
「痛いところはある?」

 首を横に振る。

「右肩とか、右腕に痛みや違和感は?」
「? 特に無いけど?」
「・・・少し触っていいかな?」
「腕なら」

 右腕を差し出すと、そっと袖が捲られる。なぜか巻かれていた包帯の上から、確かめるように腕が触れられた。

「痛くない? 肘はどう?」
「? 特になんとも・・・オレ、自傷でもした?」

 眼鏡越しの琥珀を見上げると、少し困ったような表情。

「いや、そうじゃないけど・・・三日…いや、もう四日くらい経つかな? 前に、右肩を脱臼。肩は填められてたけど、筋肉を少し傷めていて、右腕にはヒビが入っていたんだよ。もう、治っているみたいだけど。覚えてない?」

 四日前? 脱臼と、ヒビ・・・

「ジン、聞かなくていいわ」
「え? でも」
「いいから聞くな!」
「わかったよ。じゃあ、別の質問。自分の名前はわかる? ここは? 俺達のことはわかる?」

 オレは・・・アレクシア・ロゼット・アダマス。それが、名乗ることが許されていないオレの本名。

 大丈夫・・・ちゃんと・・・・答え・・られる・・・

「アル……ソーディ」

 と、この船では名乗っている。

「ここはアマラの船で・・・ジンと……」

 青みがかった銀髪、琥珀の瞳に眼鏡を掛けた長身の白衣の男。そして、人狼。確か、養母さんのイトコを母親に持っていて、レオとはハトコに当たる。

「アマラ」

 淡いハニーブロンドの豪奢な巻き毛にアイスブルーの瞳、白い肌、赤い唇。少しキツめの顔立ちでドレスをまとったゴージャスな美女! …に、見える美貌の、女装人魚。

「家族とか、自分の家はわかる?」

 それには答えないで、頷くだけに留める。

「そっか。なら、大丈夫だね。よかった」

 安心したように微笑むジン。

 家族・・・兄さんはどうなったのだろうか?
 あの時点ではもう、兄さんはいなかった。
 リリが逃がしたのだと思う。
 でも、それならリリは?

 とりあえず、兄さんの安否は後で姉さんに確認することにして・・・

「誰が、オレをここに?」

 聞くと、ジンとアマラが顔を見合わせた。

「・・・バカ馬よ。トールが、意識の無いアンタを運んで来た」
「・・・そう。わかった」

 リリのことは、あのバカへ聞こう。
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