ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
148 / 179
ヴァンパイア編。

139.紛らわしいわっ!!!

しおりを挟む
「・・・・・・・・・え、と、ジン?」
「なに? アルちゃん」

 にこやかにオレを見下ろす琥珀の瞳。

「そろそろ、放してくれません? 手」

 白い手に、手を握られたままだ。

「ああ、エナジードレイン? 別に構わないよ。どんどん吸っちゃって」
「いや、それはさすがに・・・」

 頭痛の後の寝起きは、なかなかまずい。

「シーフがへばって、数日寝込むくらいのエナジードレインなんですけど?」

 まあ、アイツの場合、ゴロゴロと惰眠を貪るのが大好きなせいで、へばって寝続けてンのか、回復してるけど起きたくないから寝てンのかがよくわからないんだけど・・・

「大丈夫、俺はスタミナある方だから。狼だし。だから、遠慮しなくていいよ」
「・・・」

 狼だからと言われたら、納得はする。
 養母かあさんもレオも、オレがごっそりエナジードレインしても、半日以内には回復するし・・・

「じゃあ、有り難く・・・」

 少しだけ、貰っておこう。

 早く動けるようになりたい。そして、あのバカにリリのことを聞かないと・・・

 ふと、顔を上げたとき、薔薇の匂いがした。なんとなく目で探すと・・・

「っ!?」

 白い薔薇が目に入った。

 ぞわりと背筋が粟立つ。サーッと血の気が引いて行くのがわかった。

 白い・・薔薇・・だ。

 に、兄さんにここが、バレてる?

 兄さんが、ここに来る?

 ヤバい。非常にマズい。

 寝込んでいたことを知られると、なんだかとっても危ない気がする。

 被害が出る。血を見ることになる。

 兄さんは、オレと姉さんのことになると見境が無くなる。下手したら、この船のヒト達が冤罪で殲滅せんめつさせられ・・・

「アルちゃん? どうしたの? 気分悪い?」
「・・・出てく。お世話になりました」

 バッと立ち上がろうとすると、

「は? いきなりなに言ってンのよ? この病人が。いいからアンタは大人しく寝てなさい」

 アマラにぐっと両肩を押さえられる。

「アルちゃん、落ち着いて。大丈夫だから、ね?」

 宥めるような声。ぎゅっと握られる手をほどこうとするが、両手で益々強く握られる。

「いや、駄目だ。さっさとこの船から出て行かないと・・・」

 首を振る。

「なに? アンタの追っ手のこと? いいから、落ち着きなさいってば」
「だって薔薇がっ!」
「? ああ、悪かったね。あのバカなら、もう既に船にいるわ。アンタがあのバカ嫌ってンのはわかるけど、アンタを連れて来た手前、追い出すのはちょっと気が引けたのよ。アンタがそんなに嫌だってンなら、あのバカの方追い出すから、少しは落ち着きなさい。アル」

 事も無げに、ハスキーが言った言葉に、首を傾げる。

「・・・?」

 ん ? バカ? 船にいる? 追い出す?

 オレを、連れて来た?

 待てよ? なにかおかしいぞ?

 兄さんが、オレを連れて帰らない筈がない。

 というか、実家以外に連れて行かれるとしたら、兄さんの持ち家だろう。勘弁願いたいが。

 そもそも、他の場所に・・・オレがここに、アマラの船にいる筈が無い。

 さっき、オレをここへ連れて来たのは? と、聞いたら、アマラがバカ馬だと言っていた。

 と、いうことは・・・???

「あの薔薇は、どこから?」
「? さっきも聞いたわね、それ。あのバカ馬が、アンタへの見舞いだって持って来ンのよ」
「っ!?!? あんの、バカ馬が・・・」

 紛らわしいわっ!!!

 ああクソっ、滅茶苦茶焦ったぜ・・・

「殺すっ・・・」
「いや、アルちゃん落ち着いて! 起きたばかりでそんなに興奮しちゃダメだってば。ね?」
「そうよ、落ち着きなさい。なんなら、今すぐあのバカ馬追い出したげるから」

 追い出すという言葉に首を振る。

「・・・いや、奴には聞きたいことがある」

 リリのことを聞きたい。その後で殺そう。

「や、アンタ今、殺すって言ったわよね? 物騒だからやめなさい」

 呆れたようなアイスブルーが見下ろす。

「安静にしてないと、ね? アルちゃん」

 穏やかに、安心させるかのように微笑むジン。取り乱した患者を落ち着かせるような態度と口調。

「・・・いや、今のは条件反射というか・・・」
「はいはい、条件反射で殺意が湧くくらい、あのバカが大嫌いなのよね。アンタは」

 アマラがそう言ったときだった。ドタドタと足音がして、バタン! と、乱暴にドアが開いた。

「今の殺気はアルかっ!?」

 慌てたような低い声で、ツンツンした赤銅色の髪の、よく日に焼けた肌のがっしりした男が入って来た。この船の船長をしているヒューだ。

「騒がしいわよ」
「あ、すまん」

 ジロリと睨むアマラに、気まずそうな表情。そして、オレを見下ろす飴色の瞳。

「その、大丈夫か?」
「ええ。一応」

 返事をすると、

「目を覚ましたんだなアルゥラっ!!」

 とても嬉しげな、バリトンの声が響いた。

 それをバッと見やると、ドアを押さえ、やたらイイ笑顔で立っている長身の男。

 肩まで掛かる黒紫のストレートの髪に、垂れ目気味の蘇芳すおうの瞳。褐色の肌、右目の下に泣き黒子ぼくろ。無駄に色気のある男が・・・

「ちょっとアンタ、医務室ここには入らないって約束だったじゃないのっ!」

 ムッと眉をしかめるアマラ。

「フッ、部屋には入ってないぜ! というか手前ぇらっ、アルゥラになにしてやがるっ!? 病み上がりのアルゥラをどうするつもりだっ! 今すぐそのアルゥラの手を握っているうらやま…じゃなくてけしからん手を放して、とっととアルゥラから離れろっ!?」
「・・・今すぐ海に叩き落とされたいのか?」

 低い、低温のハスキーが言った。

「そうやって俺を追い出した後、アルゥラになにをする気だっ!? この美女モドキめっ!? 幾ら女装してっ、そこらでは見ないくらいの美女に見えたとしてもっ・・・心底勿体無い美貌だがっ、所詮手前ぇは男っ! アルゥラの魅力に抗える筈が無ぇからなっ!!!」
「よし、アル。っちゃいなさい。アタシの精気あげるから、あのバカをブッ飛ばしなさい」

 白い指先が、悔しげなバカを差す。

「ちょっ、アマラっ!?」
「おいっ、なに言ってンだアマラ」

 平淡なハスキーに、慌てるジンとヒュー。

「ヤっちゃいなさい、だと…っ!? 美女モドキはアルゥラと俺の仲を応援するのか? いや、精気をあげるとか言って・・・? ハッ! そうか、わかったぞっ! 応援する振りをして俺からアルゥラを引き離し、横からかすめ盗ろうって魂胆だなっ!? そうは行くかっ、このムッツリ女装野郎めっ!!!」

 馬鹿馬鹿しいことを言って騒ぐバリトンに、ビシィィッ! と、音を起てて気温が瞬時に低下。吐息が白く染まり、床に霜が降りた。

 誰が手前ぇのかっ!? クソ野郎が! と、返す前に、どうやらアマラの方が先にキレたらしい。

「・・・死ね」

 殺意のこもる声が言った瞬間、ごうっ! と強い冷気がバカへと向かう。そして、

「うお~~~っ………っ!?」

 バカが凄い勢いで吹っ飛んだ。バリトンが遠退き、ぼちゃんと遠くで水音がしたような気がする。

「さ、バカはたった今追い出したから、アンタは大人しく寝てなさい。アル」

 ハスキーが優しく言った。けど、アイスブルーの瞳は、とても冷えた怒りを宿している。額に青筋浮いてるし。

「・・・なんか、ごめん」

 思わず謝ってしまった。

「アンタは悪くないでしょ。アンタは、ね」

 不機嫌そうに言い捨てるアマラ。

 まあ、そうなんだけど・・・
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

処理中です...