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ヴァンパイア編。
140.シーフやレオンさんじゃなくて悪かったな?
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「ぁ~、アマラ? オレ、一応奴に用が」
「いいから、寝てなさい」
圧のある声が言う。
「・・・いや、起きたばっかで眠くないんだけど」
「なら、ベッドで大人しくしてなさい」
「そうそう。まだ顔色悪いんだから、もう少し休んでなきゃ駄目だよ。それとも、なんか食べる?」
「腹減ってンなら、雪路呼ぶか?」
「呼んだか?」
名前が出た途端、滑らかなアルトの声がして、ひょいと医務室を覗き込んだのは、黒と茶色の斑髪をした小柄で細身な若い男。
「やっと起きたかアル。なんか食うなら、作ンぞ。食いたいもん言え」
御厨雪路。この船の料理人で、オレの古くからの・・・数少ない友人の一人。
「おはよう、雪君。今はいいよ」
「・・・生野菜とか、食うか? お前が食いてぇンなら、持って来る」
食う、か・・・まあ、精気を奪って枯らすという方向での食べるになるが。
「そうだね。じゃあ、お願いしようかな」
「おう。じゃあ、待ってろ」
「いや、食堂行くよ」
「顔色悪ぃ病人は寝てろや」
ムスッとしたアルトが言う。さっきから、言葉遣いが素だ。どうやら雪君は不機嫌らしい。
「や、持って来るの待つより、食堂行った方が早いだろ? 今ちょっと、かなりお腹空いてて、エナジードレインが制御できない」
「そうかよ。なら・・・」
すっと足音も無く動いた雪君が手前に来て、
「アマラ、ジン。手ぇ放せ」
低く言うと、肩と手から手が離され、
「へ?」
ひょいと抱き上げられた。
「ちょっ、雪君っ!? オレ今、エナジードレイン制御できないんだけどっ!?」
オレとの距離や、触れている面積、接触の度合によって、エナジードレインの威力が変わる。
今のオレには、触れているだけでどんどん体力が減って行き、疲労して行くのだ。
「構わねぇよ。どんどん吸え」
「いや、オレが構うからなっ!? つか、歩くから」
そのまま歩き出し、医務室を出ようとする雪君から離れようとしたら、
「五月蝿ぇ、病人は黙って大人しく運ばれてろ。自分達を巻き込みたくねぇってンなら、これくらいはさせろ。この大馬鹿野郎が」
ギロリと猫の瞳がオレを睨む。なにやら、とても怒っているようだ。
「は? いや、なに言ってンの? 雪君」
「黙れ馬鹿」
「え? なんか理不尽」
「まだ、自分のがマシだろ? お前は」
なにが? と、聞くのはやめた。
確かに、アマラとジンよりは、雪君の方がまだマシだ。精神的に、エナジードレインをする罪悪感のハードルが低い。
まあ、シーフのが全く、一切胸が痛まないが。
「・・・雪君よりシーフのがいい」
オレはシーフのことを、肉体的になら傷付けてもいいと思っている。アイツの血も、精気も、好きなだけ奪っていいモノだと認識している。さすがに、命まで差し出せとは言わないが・・・
シーフは、奴が言う通り、オレの非常食だ。
肯定するのは心底癪だから、奴には絶対に言ってやらないけど。
「自分で我慢しとけ」
「疲れンぞ?」
「感謝しろ」
「押し付けはどうかと思う。そして、シーフじゃなかったら、レオのが気兼ね無い」
「シーフやレオンさんじゃなくて悪かったな? だが、ぶっ倒れるお前が悪い」
なんだか理不尽だ。オレだって、倒れたくて倒れたワケじゃないってのに・・・
ぼそぼそと言い合いながら、夜空の甲板を食堂へと向かう。と、船縁にバカが現れた。
「そこの小さい野郎っ! アルゥラをお姫様抱っことは大層いいご身分なことだなっ!? 手前ぇこの野郎っ、誰の許可を得てそんな羨まっ…じゃなくてけしからんことをしてやがるっ!? 今すぐ俺と代われっ!!!」
船縁に立ち、こちらを指差すバカ男。
「下衆が……」
ぼそりと吐き捨てる雪君。そして、奴を無視して食堂の方へ歩を進める。
「くぉのっ、小さい野郎めっ!? チクショーっ、なんだってこんな大事なときにここから先へ進めないんだっ!? っていうか、裸足じゃないかアルゥラっ!? だからかっ? だからアルゥラは大人しくお姫様抱っこされてンのかっ!? ということはっ、アルゥラが普段から裸足だったら、俺がアルゥラをお姫様抱っこして運べるということだなっ!? どうだろうアルゥラ! これからは裸足で過ごさないかっ!?」
船縁から一歩も踏み出せない様子で、地団駄を踏みながら、馬鹿馬鹿しいことを喚くバカ。
「死ね、クソ野郎」
「フッ、アルゥラは相変わらず照れ屋さんだな?」
照れなどではなく、心底からそう思っているのだが、異常な女好きで、明確に嫌がっているオレの殺意溢れる言動を、非常にポジティブに曲解する常春頭のバカには通じない。
もうホント、死ねばいいのに。
「・・・こんな夜中に五月蝿いんだけど、なんなの? 他人の迷惑も考えないで喚いて、バカなの? まあ、バカなのは判り切ってるけど」
低く不機嫌なボーイソプラノの声がした。
「誰がバカだっ!? おチビちゃんっ!?」
「誰がチビだっ!? このバカがっ!?」
即行で言い合う二人。
「・・・やっぱり、あのバカはムカつくよな」
呟くと、
「って、あれ? アルが起きてるっ!? っ!? ま、眩く美しいプラチナブロンドがっ!?」
キラン! と、ミルキーなターコイズブルーが、オレの下ろしたままの髪をロックした。ふわふわのライトブラウンの髪に美少女張りの顔をした屋敷妖精のカイル。陸地の屋敷ではなく、この船に住み着いている変わり者だ。
「その、プラチナブロンド・・・触らせてっ!? セットさせてっ!? 弄らせてっ!?」
そして彼は、髪フェチだ。
「絶対ヤだ」
「なんでっ!?」
「カイル、アルは病み上がりだ。無理を言うな」
「ミクリヤさん・・・わかった、ごめん。アル」
低く言った雪君に、しゅんと項垂れるカイル。
「くぉらおチビちゃんっ!? そんな美少女みたいな可愛い顔してっ……いきなりアルゥラの髪を触りたいとは、なんて破廉恥なことを言うんだっ!?」
「誰が美少女顔だよっ!? 僕は男だっ!? っていうか、セクハラし捲ってバカみたいにバカなアンタに、破廉恥とか絶っっ対に言われたくないんだけどっ!? むしろ、アンタの存在自体が破廉恥且つ卑猥なんじゃないのっ!?」
同感だ。
「なんだとっ、おチビちゃんのクセに生意気な!」
「僕はチビじゃないっ!!! このバカが!」
ワーワー言い争う騒がしい声を後にして、雪君は音も無く食堂へ歩を進めた。
そしてオレは、野菜や果物を全滅させた。
「いいから、寝てなさい」
圧のある声が言う。
「・・・いや、起きたばっかで眠くないんだけど」
「なら、ベッドで大人しくしてなさい」
「そうそう。まだ顔色悪いんだから、もう少し休んでなきゃ駄目だよ。それとも、なんか食べる?」
「腹減ってンなら、雪路呼ぶか?」
「呼んだか?」
名前が出た途端、滑らかなアルトの声がして、ひょいと医務室を覗き込んだのは、黒と茶色の斑髪をした小柄で細身な若い男。
「やっと起きたかアル。なんか食うなら、作ンぞ。食いたいもん言え」
御厨雪路。この船の料理人で、オレの古くからの・・・数少ない友人の一人。
「おはよう、雪君。今はいいよ」
「・・・生野菜とか、食うか? お前が食いてぇンなら、持って来る」
食う、か・・・まあ、精気を奪って枯らすという方向での食べるになるが。
「そうだね。じゃあ、お願いしようかな」
「おう。じゃあ、待ってろ」
「いや、食堂行くよ」
「顔色悪ぃ病人は寝てろや」
ムスッとしたアルトが言う。さっきから、言葉遣いが素だ。どうやら雪君は不機嫌らしい。
「や、持って来るの待つより、食堂行った方が早いだろ? 今ちょっと、かなりお腹空いてて、エナジードレインが制御できない」
「そうかよ。なら・・・」
すっと足音も無く動いた雪君が手前に来て、
「アマラ、ジン。手ぇ放せ」
低く言うと、肩と手から手が離され、
「へ?」
ひょいと抱き上げられた。
「ちょっ、雪君っ!? オレ今、エナジードレイン制御できないんだけどっ!?」
オレとの距離や、触れている面積、接触の度合によって、エナジードレインの威力が変わる。
今のオレには、触れているだけでどんどん体力が減って行き、疲労して行くのだ。
「構わねぇよ。どんどん吸え」
「いや、オレが構うからなっ!? つか、歩くから」
そのまま歩き出し、医務室を出ようとする雪君から離れようとしたら、
「五月蝿ぇ、病人は黙って大人しく運ばれてろ。自分達を巻き込みたくねぇってンなら、これくらいはさせろ。この大馬鹿野郎が」
ギロリと猫の瞳がオレを睨む。なにやら、とても怒っているようだ。
「は? いや、なに言ってンの? 雪君」
「黙れ馬鹿」
「え? なんか理不尽」
「まだ、自分のがマシだろ? お前は」
なにが? と、聞くのはやめた。
確かに、アマラとジンよりは、雪君の方がまだマシだ。精神的に、エナジードレインをする罪悪感のハードルが低い。
まあ、シーフのが全く、一切胸が痛まないが。
「・・・雪君よりシーフのがいい」
オレはシーフのことを、肉体的になら傷付けてもいいと思っている。アイツの血も、精気も、好きなだけ奪っていいモノだと認識している。さすがに、命まで差し出せとは言わないが・・・
シーフは、奴が言う通り、オレの非常食だ。
肯定するのは心底癪だから、奴には絶対に言ってやらないけど。
「自分で我慢しとけ」
「疲れンぞ?」
「感謝しろ」
「押し付けはどうかと思う。そして、シーフじゃなかったら、レオのが気兼ね無い」
「シーフやレオンさんじゃなくて悪かったな? だが、ぶっ倒れるお前が悪い」
なんだか理不尽だ。オレだって、倒れたくて倒れたワケじゃないってのに・・・
ぼそぼそと言い合いながら、夜空の甲板を食堂へと向かう。と、船縁にバカが現れた。
「そこの小さい野郎っ! アルゥラをお姫様抱っことは大層いいご身分なことだなっ!? 手前ぇこの野郎っ、誰の許可を得てそんな羨まっ…じゃなくてけしからんことをしてやがるっ!? 今すぐ俺と代われっ!!!」
船縁に立ち、こちらを指差すバカ男。
「下衆が……」
ぼそりと吐き捨てる雪君。そして、奴を無視して食堂の方へ歩を進める。
「くぉのっ、小さい野郎めっ!? チクショーっ、なんだってこんな大事なときにここから先へ進めないんだっ!? っていうか、裸足じゃないかアルゥラっ!? だからかっ? だからアルゥラは大人しくお姫様抱っこされてンのかっ!? ということはっ、アルゥラが普段から裸足だったら、俺がアルゥラをお姫様抱っこして運べるということだなっ!? どうだろうアルゥラ! これからは裸足で過ごさないかっ!?」
船縁から一歩も踏み出せない様子で、地団駄を踏みながら、馬鹿馬鹿しいことを喚くバカ。
「死ね、クソ野郎」
「フッ、アルゥラは相変わらず照れ屋さんだな?」
照れなどではなく、心底からそう思っているのだが、異常な女好きで、明確に嫌がっているオレの殺意溢れる言動を、非常にポジティブに曲解する常春頭のバカには通じない。
もうホント、死ねばいいのに。
「・・・こんな夜中に五月蝿いんだけど、なんなの? 他人の迷惑も考えないで喚いて、バカなの? まあ、バカなのは判り切ってるけど」
低く不機嫌なボーイソプラノの声がした。
「誰がバカだっ!? おチビちゃんっ!?」
「誰がチビだっ!? このバカがっ!?」
即行で言い合う二人。
「・・・やっぱり、あのバカはムカつくよな」
呟くと、
「って、あれ? アルが起きてるっ!? っ!? ま、眩く美しいプラチナブロンドがっ!?」
キラン! と、ミルキーなターコイズブルーが、オレの下ろしたままの髪をロックした。ふわふわのライトブラウンの髪に美少女張りの顔をした屋敷妖精のカイル。陸地の屋敷ではなく、この船に住み着いている変わり者だ。
「その、プラチナブロンド・・・触らせてっ!? セットさせてっ!? 弄らせてっ!?」
そして彼は、髪フェチだ。
「絶対ヤだ」
「なんでっ!?」
「カイル、アルは病み上がりだ。無理を言うな」
「ミクリヤさん・・・わかった、ごめん。アル」
低く言った雪君に、しゅんと項垂れるカイル。
「くぉらおチビちゃんっ!? そんな美少女みたいな可愛い顔してっ……いきなりアルゥラの髪を触りたいとは、なんて破廉恥なことを言うんだっ!?」
「誰が美少女顔だよっ!? 僕は男だっ!? っていうか、セクハラし捲ってバカみたいにバカなアンタに、破廉恥とか絶っっ対に言われたくないんだけどっ!? むしろ、アンタの存在自体が破廉恥且つ卑猥なんじゃないのっ!?」
同感だ。
「なんだとっ、おチビちゃんのクセに生意気な!」
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