5 / 13
わたくしの個人的な問題ですので。
贅を凝らしたウェディングドレスを着た婚約者は、控え目に言って女神のように美しかった。
被ったヴェールを捲り、恥ずかしそうな顔で、けれどとても優しく俺を見詰める婚約者に魂を抜かれたような気分で意識を飛ばしそうになって・・・
ぐっと堪えた。
誓いのキスのときに、口付けをしようとしたらそっとズラされて頬へと口付けてしまったときには側近の言った、『内心では嫌われてんじゃないですか?』という言葉が脳裏を過ぎったが、俺を見る彼女の眼差しにはずっと優しさが宿っている。
だから、きっと気のせいだ。俺は嫌われてはいないはず。
そう、彼女は恥ずかしがり屋なんだ。だから、こんな衆人環視の場所では俺に触れられるのを恥ずかしがっているだけだ!
きっと、夜には・・・
そう思いながら、結婚式を終えた。
彼女が待ち遠しいと思いながら、パレードや式典を終え――――
夜になり、夫婦の寝室で彼女を待った。
なかなか来ないと思いながら、過去の俺の所業を思い出して不安になったりして――――
それでも、彼女を待った。結局、朝まで彼女は来なかったが。
そして、彼女のいる部屋へ行き――――
「お嬢様、宜しかったのですか? 一応仮にも昨夜は初夜でしたのに」
「ええ、構わないわ。というか、王太子殿下と寝所を共にするだなんて悍ましい。そういう話題は二度と振らないでくれるかしら?」
という発言を聞かされることになった。
そして俺は、
「俺に、やり直す機会をくれないか?」
彼女に跪いて乞うた。
「あらあら、困りましたわ。わたくし、殿下のことを嫌ってはいませんのよ?」
にっこりと、彼女は優しく微笑む。いつもの、包み込むような笑顔で。
「わたくしも、殿下のことを愛していますわ」
「っ!? そ、それならっ……」
「なので、殿下と夫婦になるのは無理です。つきましては・・・お飾りの正妃を立派に務め上げますのでご安心くださいませ」
「なぜだっ!?」
そう詰め寄った俺に、
「それは、わたくしの問題でもあるのですが・・・」
彼女は笑顔で続けた。
「公務はちゃんと致します。けれど、殿下と寝所を共にすることはありません」
「だから、なぜだっ!? それに、後継ぎはどうするつもりだんだっ!?」
「そのことにつきましては、陛下と王妃殿下、公爵である父にもちゃんと了承して頂いております。それに、殿下には侯爵令嬢がいらっしゃいますもの。なので、わたくしが無理にお世継ぎを生む必要はありませんわ」
「そ、それは・・・」
父と母が強く念押しした、『後悔しないな?』という言葉が耳にこだまする。
「侯爵家も、筆頭ではありませんが有力な貴族派の家として有名ですもの。政略的にも、なんら問題はありませんわ。それに・・・」
「それに、なんだ?」
「あ、いえ。これは・・・その、なんでもありませんわ。わたくしの個人的な問題ですので」
「君の問題だという、それをちゃんと教えてくれ。怒ったりしないし、不敬にも問わないと誓うから・・・」
過去のやらかしの所業を突き付けられ、項垂れながら言うと、彼女が語り出した。
✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧
あなたにおすすめの小説
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
欲に負けた婚約者は代償を払う
京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。
そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。
「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」
気が付くと私はゼン先生の前にいた。
起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。
「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
お飾りの私と怖そうな隣国の王子様
mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。
だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。
その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。
「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」
そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。
いつかこの日が来るとは思っていた。
思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。
思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。