虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「ほら、スピカ。今日から一緒にお家で暮らすネイサン君よ~? はじめましてって、よろしくしましょうね~」
「おーち? ね~、しゃ?」

 舌っ足らずな声。ぽわぽわした亜麻色の髪で、つぶらな瞳の、目の覚めるようなコバルトブルーがわたしを覗き込み、にこーっと笑う。

「よ~、しうー?」

 ぷにぷにしてそうな小さな手がわたしの方へ伸ばされたと思ったら、

「え? っ!!」

 そのまま、小さな身体がぐらりと傾いた。危ない! と思わず出した手が、小さな手に掴まれる。ぎゅっと握られた指先。細くて小さな手の、思わぬ熱さと力強さ。

「へ? な、なに?」
「あら、ネイサン君に抱っこされたいみたい」
「はあっ!? ちょっ、あ、危なっ! なにっ? どっ、どうすればっ!?」

 びっくりしてわたわたと慌てるわたしに、なにが楽しいのかきゃっきゃっと笑った顔が近付き、小さな手がぺたぺたと頬を叩く。なんだか、その手が濡れてるような気がするんだけど……?

「もしかしてネイサン君、赤ちゃんを抱っこしたことない?」

 小さな手がなに・・で濡れているのか、気になったのは一瞬のこと。赤ちゃんが、ミモザさんの腕から抜け出そうともぞもぞと身をよじる。

「な、ないですよっ!?」
「ねーしゃ♪」

 慌てるわたしを余所に、赤ちゃんはきゃっきゃっと笑ってわたしの方に身を乗り出す。ふにゃふにゃと柔らかく、ちょっと高めの体温が、わたしの腕にぐでんと寄り掛かって来る。

「ねーしゃ、ねーしゃ♪」

 とうとう腕に乗って来たふにゃふにゃでぷにぷにの柔らかさが、なんだかとても脆そうに感じて、怖くて迂闊うかつに動けない。
 おまけに、ミモザさんは手を放すしっ!!

「ちょっ、ミモザさんっ!?」
「あらあら、スピカはネイサン君を気に入ったみたいね。抱っこされてよかったわね」

 にこにこと笑うミモザさん。いや、そんな場合じゃないんですけどっ!?

「大丈夫よ。大丈夫。ほら、こうしてお尻を持つようにして、腕を背中に回すの。そう、上手よ」
「ぷっ、どこが上手いんだよ? 抱っこすンの下っ手くそじゃね? ほ~ら、スピカ、兄ちゃんが抱っこしてやるぞ~。おいで~」

 と、ロイが手を伸ばし、わたしの腕から赤ちゃんをひょいと持ち上げて自分の腕に抱っこした。

「ふっ……よ~し、スピカは可愛いなぁ」

 彼は妹を抱き慣れているようで、確かにその手付きは危なげなく、余裕そうで……だからと言って、ふっと鼻で笑う必要はあるのだろうか? わたしに。それも、得意気な顔で。

 なんかこう・・・若干、イラっとする。

「なに言ってるの。初めてにしては、ネイサン君は上手いわよ。あなたの方が、スピカを抱っこするのもっと下手くそだったわよ? ロイ」
「なっ! か、母様っ!?」
「ねー? スピカ」
「あい!」
「っ、スピカまで……」

 得意気だった顔から一転。落ち込むロイの顔を、きゃっきゃっと笑いながら楽しげにぺしぺしと叩く赤ちゃん。

 こうしてわたしは、クロシェン家預りとなって、彼らの家に滞在することになった。
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