8 / 61
そんな綺麗過ぎる顔で一人で彷徨いてると拐われるよ?
しおりを挟む
「…ん、ぅ?」
子供が小さな呻き声でのろのろと身を起こす。
歳は多分、一つ二つしか変わらないだろう。だが…
「…ぅわ、綺麗な顔」
ホリィが感嘆の声を上げるのも無理はなかった。
それは、彫像めいた白皙の美貌。帽子から覗く髪は、蜂蜜のような金色。ミルクのような白い肌にふっくらとした頬、通った鼻筋、細い顎、赤い唇、長い睫。煩そうに開かれた瞳は透き通ったアクアマリン。
まるで、絵画の天使のよう…ではないな。天使にしては物憂げというか…どこか妖艶さが漂い過ぎる。
神聖な、というよりも、魔性という表現の方が近いだろう。この顔なら、男も女も関係無いな。圧倒的という表現のできる美貌だ。
圧倒的な美貌。見たことは無い筈の顔だが…何故か見覚えがあるような…?
「む…子供か…大人よりはマシだな。すまんが、水を一杯くれないか?」
少し掠れた声での偉そうな物言い。
普段なら、こんな物言いをする奴は知らん顔をして放っとくのだが…
「ちょっと待ってろ」
このときはなぜか、ホリィと二人でその子を支えて井戸へと向かっていた。
「…ふぅ…助かった。感謝する」
不味そうな顔で水を飲み干しての言葉。喉を潤した為か、澄んだ綺麗なアルトの声。
「や、感謝してねーだろ。その顔は」
「感謝はしている。水は不味いがな」
「…はっきり言うね。アンタ」
呆れ顔のホリィ。
「不純物が多い。あまり飲むと、身体を壊すだろう。気を付けるといい」
しれっとした顔でそんなことを言う。言われても困る。
この井戸は共同の井戸だし。身体を壊すと言われても、この井戸を使うしかない人達もいるだろう。
まあ、オレらが普段使っている井戸はここじゃないけど…少々心配になる。
「…金持ちか?お前」
「さあ?金は持っていても然程使わん」
超絶美形で、推定金持ち。そんな言葉も、むしろ似合う。なんともイヤミな奴だ。
「…アンタ、捨て子?」
ホリィが聞いた。
「いや。なぜだ?」
「道端で行倒れていたから。親に捨てられたんじゃないかって思って」
「そうか。心配は無用だ。今は、駄犬と散歩の途中だったんだが…」
「だけん?なにそれ?」
「駄目な犬のこと」
「は?犬?アンタの?」
「そう。飼い主を放ってどこぞへ消えた駄目な犬だ。お蔭で倒れた」
「犬って、首輪とかしてるのか?」
「いや。首輪はしていない」
「この辺り、犬を殺して食べるって人がいるんだけど…知らないの?」
ホリィは眉を顰める。
「そうか。まあ平気だろう。アレはしぶといからな。簡単には死なん」
「探さないのか?」
「いや。なぜだ?」
「心配じゃないの?」
「特にする必要を感じない。腹が減れば自発的に帰って来るだろう」
犬の腹が減る前に、腹が減った奴の餌食になるかもしれないというのに…なんというか、話が噛み合わない。
しかし、アクアマリンの瞳に巫山戯た色はない。
「・・・」
「なんだ?二人して物言いたげな顔をして。言いたいことがあるなら言え」
「お前…もう帰った方がいいぞ?ここはそんな身形で歩ける場所じゃない」
あと、その顔だ。
「っていうか、そんな綺麗過ぎる顔で一人で彷徨いてると拐われるよ?」
うん。綺麗過ぎるのは確かだ。
「ふむ…留意する。しかし、心配は無用」
さらりと綺麗過ぎる顔、を肯定する辺り、なかなかイイ性格をしている。
「人買いくらいは一人で対処できる。最悪、売り飛ばされたとしても、知り合いが買ってくれる筈だからな」
人買いに売られても、買い取る手段のある相手って・・・
「お前の知り合いって、もしかしてヤバい筋の人だったりするか?」
だとしたらコイツの偉そうな態度も、治安の悪い場所で綺麗な身形と顔とで転がっていても平気だった理由が判る。
「ヤバい筋がどの筋なのかは知らんが、やたら顔の広い奴ではあるな」
ホリィと顔を見合せる。ヤバい奴に関わってしまった!と、思い切り顔に書いてある。きっと、オレも同じ顔だろう。
「ところで、この辺りに雨露を凌げる場所はないだろうか?宿屋以外の。知っているなら案内を頼む。礼は弾むぞ?」
「…もしかしてアンタ、家出?」
「ふむ…自発的に住み処を出ることをそう称するなら、家出と言えなくもない」
言葉は回りくどいが、家出のようだ。
「「・・・」」
再びホリィと顔を見合せる。
「…その、ヤバい知り合いは、お前のことを探していたりはしないのか?」
この質問の答え次第では逃げる用意。
「それは無い。奴は別の街にいる筈だ」
どうする?と、三度顔を見合せる。
「お前にそれを教えることで、オレらに危険が及ぶよあなことはないか?」
「一応は無いだろうな。これ以上私と関わらなければ。と、条件が付くが」
あっさりとした決別の言葉。
「…それなら教えてやる。ぼろっちくても、文句言うなよ?」
「雨漏りさえしなければ、文句は無い」
と、ソイツを案内することになった。
街外れ。真新しい倉庫からぼろぼろの倉庫まで数十が並ぶ場所。
「新しい倉庫は管理が厳しいから、ちょっと古めのとこをお勧めするよ」
ホリィが言う。
「そうか。感謝する。取っておけ」
ぽんと放られたのは、
「二人で仲良く分けろ」
お金の詰まった袋。
「っ!こんなにっ?」
オレら六人の、裕に一月分の食料が買える額。
これは本当に…
「大丈夫、なのか?」
「構わん。水と案内の礼だ。じゃあな」
そして、ソイツと別れた。
子供が小さな呻き声でのろのろと身を起こす。
歳は多分、一つ二つしか変わらないだろう。だが…
「…ぅわ、綺麗な顔」
ホリィが感嘆の声を上げるのも無理はなかった。
それは、彫像めいた白皙の美貌。帽子から覗く髪は、蜂蜜のような金色。ミルクのような白い肌にふっくらとした頬、通った鼻筋、細い顎、赤い唇、長い睫。煩そうに開かれた瞳は透き通ったアクアマリン。
まるで、絵画の天使のよう…ではないな。天使にしては物憂げというか…どこか妖艶さが漂い過ぎる。
神聖な、というよりも、魔性という表現の方が近いだろう。この顔なら、男も女も関係無いな。圧倒的という表現のできる美貌だ。
圧倒的な美貌。見たことは無い筈の顔だが…何故か見覚えがあるような…?
「む…子供か…大人よりはマシだな。すまんが、水を一杯くれないか?」
少し掠れた声での偉そうな物言い。
普段なら、こんな物言いをする奴は知らん顔をして放っとくのだが…
「ちょっと待ってろ」
このときはなぜか、ホリィと二人でその子を支えて井戸へと向かっていた。
「…ふぅ…助かった。感謝する」
不味そうな顔で水を飲み干しての言葉。喉を潤した為か、澄んだ綺麗なアルトの声。
「や、感謝してねーだろ。その顔は」
「感謝はしている。水は不味いがな」
「…はっきり言うね。アンタ」
呆れ顔のホリィ。
「不純物が多い。あまり飲むと、身体を壊すだろう。気を付けるといい」
しれっとした顔でそんなことを言う。言われても困る。
この井戸は共同の井戸だし。身体を壊すと言われても、この井戸を使うしかない人達もいるだろう。
まあ、オレらが普段使っている井戸はここじゃないけど…少々心配になる。
「…金持ちか?お前」
「さあ?金は持っていても然程使わん」
超絶美形で、推定金持ち。そんな言葉も、むしろ似合う。なんともイヤミな奴だ。
「…アンタ、捨て子?」
ホリィが聞いた。
「いや。なぜだ?」
「道端で行倒れていたから。親に捨てられたんじゃないかって思って」
「そうか。心配は無用だ。今は、駄犬と散歩の途中だったんだが…」
「だけん?なにそれ?」
「駄目な犬のこと」
「は?犬?アンタの?」
「そう。飼い主を放ってどこぞへ消えた駄目な犬だ。お蔭で倒れた」
「犬って、首輪とかしてるのか?」
「いや。首輪はしていない」
「この辺り、犬を殺して食べるって人がいるんだけど…知らないの?」
ホリィは眉を顰める。
「そうか。まあ平気だろう。アレはしぶといからな。簡単には死なん」
「探さないのか?」
「いや。なぜだ?」
「心配じゃないの?」
「特にする必要を感じない。腹が減れば自発的に帰って来るだろう」
犬の腹が減る前に、腹が減った奴の餌食になるかもしれないというのに…なんというか、話が噛み合わない。
しかし、アクアマリンの瞳に巫山戯た色はない。
「・・・」
「なんだ?二人して物言いたげな顔をして。言いたいことがあるなら言え」
「お前…もう帰った方がいいぞ?ここはそんな身形で歩ける場所じゃない」
あと、その顔だ。
「っていうか、そんな綺麗過ぎる顔で一人で彷徨いてると拐われるよ?」
うん。綺麗過ぎるのは確かだ。
「ふむ…留意する。しかし、心配は無用」
さらりと綺麗過ぎる顔、を肯定する辺り、なかなかイイ性格をしている。
「人買いくらいは一人で対処できる。最悪、売り飛ばされたとしても、知り合いが買ってくれる筈だからな」
人買いに売られても、買い取る手段のある相手って・・・
「お前の知り合いって、もしかしてヤバい筋の人だったりするか?」
だとしたらコイツの偉そうな態度も、治安の悪い場所で綺麗な身形と顔とで転がっていても平気だった理由が判る。
「ヤバい筋がどの筋なのかは知らんが、やたら顔の広い奴ではあるな」
ホリィと顔を見合せる。ヤバい奴に関わってしまった!と、思い切り顔に書いてある。きっと、オレも同じ顔だろう。
「ところで、この辺りに雨露を凌げる場所はないだろうか?宿屋以外の。知っているなら案内を頼む。礼は弾むぞ?」
「…もしかしてアンタ、家出?」
「ふむ…自発的に住み処を出ることをそう称するなら、家出と言えなくもない」
言葉は回りくどいが、家出のようだ。
「「・・・」」
再びホリィと顔を見合せる。
「…その、ヤバい知り合いは、お前のことを探していたりはしないのか?」
この質問の答え次第では逃げる用意。
「それは無い。奴は別の街にいる筈だ」
どうする?と、三度顔を見合せる。
「お前にそれを教えることで、オレらに危険が及ぶよあなことはないか?」
「一応は無いだろうな。これ以上私と関わらなければ。と、条件が付くが」
あっさりとした決別の言葉。
「…それなら教えてやる。ぼろっちくても、文句言うなよ?」
「雨漏りさえしなければ、文句は無い」
と、ソイツを案内することになった。
街外れ。真新しい倉庫からぼろぼろの倉庫まで数十が並ぶ場所。
「新しい倉庫は管理が厳しいから、ちょっと古めのとこをお勧めするよ」
ホリィが言う。
「そうか。感謝する。取っておけ」
ぽんと放られたのは、
「二人で仲良く分けろ」
お金の詰まった袋。
「っ!こんなにっ?」
オレら六人の、裕に一月分の食料が買える額。
これは本当に…
「大丈夫、なのか?」
「構わん。水と案内の礼だ。じゃあな」
そして、ソイツと別れた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる