25 / 61
バンシーに死を。
しおりを挟む
横たわる喪服は、周囲の闇よりも深い色。
その喪服の上で祈るように組まれた両手と、上に乗った顔の青白さが窺える。
その閉じた両目には、なにも映らない。
その閉じた唇は、なにも語ることはない。
小柄な影が仰向いた痩せぎすな薄い身体の足元へしゃがみ込み、
「・・・大変だったな?これは・・・」
皺の刻まれた老婆の顔を、正面からまじまじと眺めて言った。その唇が、うっそりと弧を描く。
「・・・悪趣味な」
硬質な低い声が吐き捨てた。
痩せぎすな身体には水分が少ないのか、頸元から流れ出る血はそう多くない。
「…バンシーに死を…」
笑みを含んだ澄んだアルトの呟きに、
「行くぞ」
硬質の低い声が言う。
捨て置かれた老女の足元には、アルトの呟きと同じ、掠れた血文字が残される。
※※※※※※※※※※※※※※※
翌朝の新聞。
奇怪な遺体、三度発見っ!?
三人目はバンシー?
仰向けで両手を組んだ喪服の老女。その胸の上には、両目の目蓋と口が縫い付けられた老女自身の頭が乗せられていた。足元には、『バンシーに死を』という血文字が残されていた。
バンシーとは、泣き叫んで死を告げる女の妖怪のことだ。被害者の老女は、家族を相次いで亡くしたことから精神を病み、街を徘徊しては行き会う人に死を告げていたという。
尚、残された文面は前回、前々回の犠牲者のときと同じ文面で、犯人は同一人物と見て・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
同日。朝。
「…………っと、なんか言いなさいよっ!?」
朝っぱらから…ぎゃんぎゃん騒ぐ甲高い怒鳴り声が、非常に五月蝿い。
「・・・」
「聞いてるのっ!昨日ホリィ、ずっとアンタのこと探してたんだから!」
毛布に包まるオレを、ぎゃんぎゃんと煩く見下ろすのはスノウだった。
「・・・」
人は眠いというのに・・・
「ケンカだかなんだか知らないけど、どうしてコルドはそう冷たいのよっ!」
スノウの甲高い声が響く。
「ホリィがかわいそうじゃない!どれだけコルドのこと心配したと思ってるのっ!ホリィにちゃんとあやまりなさいよねっ!?」
「・・・はふゎ~」
「ちょっ、人が話してるのにあくびっ?っていうか、なにまた寝ようとしてんのコルドっ!?」
頭から毛布を被って、スノウに背を向ける。
「っ…!!コルドがそんなだからっ…そんな風に冷たいからきっと、コルドの親はコルドを捨てたのよっ!?」
スノウが叫んだ瞬間、ドタドタと足音が響き、バタン!と乱暴にドアが開いた。
「朝っぱらから煩っせえっ!?クソドチビがっ!!手前ぇは言っていいことと悪いことの区別も付かねぇのかっ!?ああ゛っ!?」
乱入して来たレイニーが、スノウの胸ぐらを掴み上げて怒鳴り付ける。
ビリビリとした本気の怒気だ。
「ぅっ…」
あ、ヤバい。そう思ったら、
「・・・うわ~~~んっ!?レイニーが怒鳴ったぁぁぁ~~~っ!!!!!」
案の定スノウが泣き出した。余計に煩い。
これじゃもう、二度寝どころじゃない。ったく…
「ドチビ手前ぇ、泣きゃいいとでも思ってンのかっ!?ああ゛っ!?コルドっ、お前も、言いたいことあンならちゃんと言えっ!!」
「・・・ンなの別にどうでもいいよ。っていうか、煩いし。早く放したげなよ」
ビービー泣き喚くスノウが心底煩い。
「あのなっ、お前がなんも言わねーからこのクソドチビが調子こくんだろっ!?」
「・・・レイニーにスノウも、朝っぱらから人の部屋で五月蝿いんだよ。出てけ」
「コルドもレイニーも大っ嫌いっっ!!!」
「ああ゛?手前ぇはコルドに謝ンのが先だろっ、クソドチビがっ!!!」
キレたレイニーに、益々泣き喚くスノウ。
「はぁ・・・」
仕方ないので、枕元に置いてあるスカーフを首に巻き、部屋を出る。
「あっ、おいコルドっ!?」
「・・・付き合ってられるか」
コツ、ひたと独特の足音。杖を突いて部屋の近くまで来たのはウェン。
「・・・朝から煩っせぇ。響くんだよ」
低い声。物凄く不機嫌そうだ。きっと、ステラ以外にはみんな伝わっているだろう。
「…そうだね」
「…平気か?」
険のある目が見下ろす。別に睨んでいるワケじゃない。近眼なだけだ。
「なにが?」
「…お前が気にしないなら、いい」
「オレはそんなに繊細じゃないよ。っていうか、オレじゃなくてレイニーが怒ってるし」
ひた、コツと近寄って、骨張ったウェンの手が頭をぽんぽんと撫でる。
「…黙らせて来る」
と、通り過ぎ…
「お前ら朝から煩っせぇんだよっ!!少しゃ静かにできねぇのか馬鹿共がっ!!!」
デカい雷が落ちた。
「うわ~~~~~~~っ!?」
「悪ぃな、このクソドチビだろっ!?」
「お前の怒鳴り声は煩ぇんたよっ!」
そして、廊下の端でこそこそと窺う影。
「・・・なに?なんか言いたいことあるなら、出て来れば?」
「・・・怒ってる?コルド」
ぼそぼそとホリィが言う。
「別に」
「だって、昨日は口利いてくれなかったし・・・それに、今もスノウが・・・」
しゅんと項垂れて顔を上げないホリィ。
「昨日はそういう気分だっただけ。喋ってないのはホリィだけじゃないし。それに、どうせ今の、聞いてただろ」
ウェンとの会話を。
「ぅ…ごめん」
「アレ、ビービー煩い。どうにかして来て」
「うん!わかった!」
バタバタと駆ける足音。
暫くして、泣き声が止んだ。
その喪服の上で祈るように組まれた両手と、上に乗った顔の青白さが窺える。
その閉じた両目には、なにも映らない。
その閉じた唇は、なにも語ることはない。
小柄な影が仰向いた痩せぎすな薄い身体の足元へしゃがみ込み、
「・・・大変だったな?これは・・・」
皺の刻まれた老婆の顔を、正面からまじまじと眺めて言った。その唇が、うっそりと弧を描く。
「・・・悪趣味な」
硬質な低い声が吐き捨てた。
痩せぎすな身体には水分が少ないのか、頸元から流れ出る血はそう多くない。
「…バンシーに死を…」
笑みを含んだ澄んだアルトの呟きに、
「行くぞ」
硬質の低い声が言う。
捨て置かれた老女の足元には、アルトの呟きと同じ、掠れた血文字が残される。
※※※※※※※※※※※※※※※
翌朝の新聞。
奇怪な遺体、三度発見っ!?
三人目はバンシー?
仰向けで両手を組んだ喪服の老女。その胸の上には、両目の目蓋と口が縫い付けられた老女自身の頭が乗せられていた。足元には、『バンシーに死を』という血文字が残されていた。
バンシーとは、泣き叫んで死を告げる女の妖怪のことだ。被害者の老女は、家族を相次いで亡くしたことから精神を病み、街を徘徊しては行き会う人に死を告げていたという。
尚、残された文面は前回、前々回の犠牲者のときと同じ文面で、犯人は同一人物と見て・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
同日。朝。
「…………っと、なんか言いなさいよっ!?」
朝っぱらから…ぎゃんぎゃん騒ぐ甲高い怒鳴り声が、非常に五月蝿い。
「・・・」
「聞いてるのっ!昨日ホリィ、ずっとアンタのこと探してたんだから!」
毛布に包まるオレを、ぎゃんぎゃんと煩く見下ろすのはスノウだった。
「・・・」
人は眠いというのに・・・
「ケンカだかなんだか知らないけど、どうしてコルドはそう冷たいのよっ!」
スノウの甲高い声が響く。
「ホリィがかわいそうじゃない!どれだけコルドのこと心配したと思ってるのっ!ホリィにちゃんとあやまりなさいよねっ!?」
「・・・はふゎ~」
「ちょっ、人が話してるのにあくびっ?っていうか、なにまた寝ようとしてんのコルドっ!?」
頭から毛布を被って、スノウに背を向ける。
「っ…!!コルドがそんなだからっ…そんな風に冷たいからきっと、コルドの親はコルドを捨てたのよっ!?」
スノウが叫んだ瞬間、ドタドタと足音が響き、バタン!と乱暴にドアが開いた。
「朝っぱらから煩っせえっ!?クソドチビがっ!!手前ぇは言っていいことと悪いことの区別も付かねぇのかっ!?ああ゛っ!?」
乱入して来たレイニーが、スノウの胸ぐらを掴み上げて怒鳴り付ける。
ビリビリとした本気の怒気だ。
「ぅっ…」
あ、ヤバい。そう思ったら、
「・・・うわ~~~んっ!?レイニーが怒鳴ったぁぁぁ~~~っ!!!!!」
案の定スノウが泣き出した。余計に煩い。
これじゃもう、二度寝どころじゃない。ったく…
「ドチビ手前ぇ、泣きゃいいとでも思ってンのかっ!?ああ゛っ!?コルドっ、お前も、言いたいことあンならちゃんと言えっ!!」
「・・・ンなの別にどうでもいいよ。っていうか、煩いし。早く放したげなよ」
ビービー泣き喚くスノウが心底煩い。
「あのなっ、お前がなんも言わねーからこのクソドチビが調子こくんだろっ!?」
「・・・レイニーにスノウも、朝っぱらから人の部屋で五月蝿いんだよ。出てけ」
「コルドもレイニーも大っ嫌いっっ!!!」
「ああ゛?手前ぇはコルドに謝ンのが先だろっ、クソドチビがっ!!!」
キレたレイニーに、益々泣き喚くスノウ。
「はぁ・・・」
仕方ないので、枕元に置いてあるスカーフを首に巻き、部屋を出る。
「あっ、おいコルドっ!?」
「・・・付き合ってられるか」
コツ、ひたと独特の足音。杖を突いて部屋の近くまで来たのはウェン。
「・・・朝から煩っせぇ。響くんだよ」
低い声。物凄く不機嫌そうだ。きっと、ステラ以外にはみんな伝わっているだろう。
「…そうだね」
「…平気か?」
険のある目が見下ろす。別に睨んでいるワケじゃない。近眼なだけだ。
「なにが?」
「…お前が気にしないなら、いい」
「オレはそんなに繊細じゃないよ。っていうか、オレじゃなくてレイニーが怒ってるし」
ひた、コツと近寄って、骨張ったウェンの手が頭をぽんぽんと撫でる。
「…黙らせて来る」
と、通り過ぎ…
「お前ら朝から煩っせぇんだよっ!!少しゃ静かにできねぇのか馬鹿共がっ!!!」
デカい雷が落ちた。
「うわ~~~~~~~っ!?」
「悪ぃな、このクソドチビだろっ!?」
「お前の怒鳴り声は煩ぇんたよっ!」
そして、廊下の端でこそこそと窺う影。
「・・・なに?なんか言いたいことあるなら、出て来れば?」
「・・・怒ってる?コルド」
ぼそぼそとホリィが言う。
「別に」
「だって、昨日は口利いてくれなかったし・・・それに、今もスノウが・・・」
しゅんと項垂れて顔を上げないホリィ。
「昨日はそういう気分だっただけ。喋ってないのはホリィだけじゃないし。それに、どうせ今の、聞いてただろ」
ウェンとの会話を。
「ぅ…ごめん」
「アレ、ビービー煩い。どうにかして来て」
「うん!わかった!」
バタバタと駆ける足音。
暫くして、泣き声が止んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる