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全く、神の使徒というのも楽ではない。
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コルドを家の近くまで送って行ったライは、再び病院へと引き返した。
彼女と話す為に。
「合わせてくれて、感謝します」
ライは、ベッドに身を起こす被害者を見下ろした。若々しい、少女めいた美貌の女性を。
「いえ…こちらの方こそ、助けて頂いて…感謝しています。治療費と、入院費まで…」
「これくらいは当然です。色惚けジジイ共は大慌てでしたからね。治療費を引っ張るのは割と簡単でしたよ。勿論、口止め料も込みで。神に遣える身でありながらの、肉欲。そして、戒律違反の男色ですからね。本当に困ったものです。ジジイ共の相手をしていなければ、もっと早くあなた方を助けることができたんですけどね?いや、そもそもあの色惚けジジイ共が、禁欲していたらこんなことにはなっていなかったかもしれないな…?」
「・・・」
「ああ、すみません。こんなことを言われても困りますよね?では、仕切り直しましょう。ローズさん、契約を切られる覚悟はしておいてください。あなたには二度と、声は掛からない筈です」
「…わかりました」
「それと、ボクがあなたを買ったことになっていますから、それも合わせてくださいね?」
「・・・あなたは、いいんですか?」
「所詮、ボクは余所者の見習い神父。権威というやつでどうとでもなりますからね。それに、今までのお手当てを渡されて、追い出されてしまいました」
「…大丈夫、なんですか?」
「はい。暫くは食い繋ぐのに困らない額を頂いたので、心配はご無用です」
「…このこと、コルドちゃんには…?」
「ボクも、あの子に嫌われたくはないので、お互いに内緒にしておきませんか?」
「…わかり、ました」
「ありがとうございます。助かりますよ。では、ボクはこれで失礼しますね?ローズさん」
「ありがとう、ございました…」
「いえいえ、それでは。どうぞお大事に」
「・・・」
病院を出たライは、とある場所へと向かった。
※※※※※※※※※※※※※※※
「サキュバスは死なず、姿は捉えられた。そして、協力者の一人が逮捕…か。さて、どうするかな?次は、どう動くか・・・」
思案げに呟く澄んだアルトの声。
「・・・あの子供は、どうなる?」
低い、硬質な声が訊ねる。
「目撃者が、人間じゃなければ消せばいいだけだ。サキュバスを助けたんだ。子供の姿をしているが、アレはきっと人間じゃない筈だ。いや、きっとそうに決まっている。間違いない」
澄んだアルトの声を出すその唇が、ゆるりと弧を描いて持ち上がる。
「っ…なぜ」
「言っただろう?人間ではないから、だ。知っているか?あの子供は、十年程前に首を切られて捨てられていたそうだ」
「?それが、なんだと」
「見目麗しい子供は、妖精に拐われることがあるという。俗に謂う、妖精の取り換え子。チェンジング。または、チェンジリング。この、取り換えられてしまった子供を取り戻す方法を知っているか?」
歌うようなアルトの声に、
「・・・取り換えられた子供に、酷いことをする。熱した金属を当てる。熱湯、または熱した油を掛ける。空焚きした鍋に放り込む…など」
硬質な低音が渋々答える。
「そう。地方に拠ってバリエーションが色々と違う。一番穏やかなのが、七竃の枝で叩く…辺りか?取り換えられた妖精の子供に人間の両親が酷いことをすることで、妖精の親が人間は野蛮なことをする。と、取り換えた自分の子供を取り返し、人間の子供をその家に帰すとされている。首を切るというバージョンも、どこかにはあるだろうよ」
「・・・」
「さて、次はどうする?どう動く?煮え湯か、煮えた油?いっそ、火刑にでもするか?全く、神の使徒というのも楽ではない。そう思わないか?」
薄暗い空間に、クスクスと嗤う声が響く。
「人間とは、本当に恐ろしいモノだよ」
彼女と話す為に。
「合わせてくれて、感謝します」
ライは、ベッドに身を起こす被害者を見下ろした。若々しい、少女めいた美貌の女性を。
「いえ…こちらの方こそ、助けて頂いて…感謝しています。治療費と、入院費まで…」
「これくらいは当然です。色惚けジジイ共は大慌てでしたからね。治療費を引っ張るのは割と簡単でしたよ。勿論、口止め料も込みで。神に遣える身でありながらの、肉欲。そして、戒律違反の男色ですからね。本当に困ったものです。ジジイ共の相手をしていなければ、もっと早くあなた方を助けることができたんですけどね?いや、そもそもあの色惚けジジイ共が、禁欲していたらこんなことにはなっていなかったかもしれないな…?」
「・・・」
「ああ、すみません。こんなことを言われても困りますよね?では、仕切り直しましょう。ローズさん、契約を切られる覚悟はしておいてください。あなたには二度と、声は掛からない筈です」
「…わかりました」
「それと、ボクがあなたを買ったことになっていますから、それも合わせてくださいね?」
「・・・あなたは、いいんですか?」
「所詮、ボクは余所者の見習い神父。権威というやつでどうとでもなりますからね。それに、今までのお手当てを渡されて、追い出されてしまいました」
「…大丈夫、なんですか?」
「はい。暫くは食い繋ぐのに困らない額を頂いたので、心配はご無用です」
「…このこと、コルドちゃんには…?」
「ボクも、あの子に嫌われたくはないので、お互いに内緒にしておきませんか?」
「…わかり、ました」
「ありがとうございます。助かりますよ。では、ボクはこれで失礼しますね?ローズさん」
「ありがとう、ございました…」
「いえいえ、それでは。どうぞお大事に」
「・・・」
病院を出たライは、とある場所へと向かった。
※※※※※※※※※※※※※※※
「サキュバスは死なず、姿は捉えられた。そして、協力者の一人が逮捕…か。さて、どうするかな?次は、どう動くか・・・」
思案げに呟く澄んだアルトの声。
「・・・あの子供は、どうなる?」
低い、硬質な声が訊ねる。
「目撃者が、人間じゃなければ消せばいいだけだ。サキュバスを助けたんだ。子供の姿をしているが、アレはきっと人間じゃない筈だ。いや、きっとそうに決まっている。間違いない」
澄んだアルトの声を出すその唇が、ゆるりと弧を描いて持ち上がる。
「っ…なぜ」
「言っただろう?人間ではないから、だ。知っているか?あの子供は、十年程前に首を切られて捨てられていたそうだ」
「?それが、なんだと」
「見目麗しい子供は、妖精に拐われることがあるという。俗に謂う、妖精の取り換え子。チェンジング。または、チェンジリング。この、取り換えられてしまった子供を取り戻す方法を知っているか?」
歌うようなアルトの声に、
「・・・取り換えられた子供に、酷いことをする。熱した金属を当てる。熱湯、または熱した油を掛ける。空焚きした鍋に放り込む…など」
硬質な低音が渋々答える。
「そう。地方に拠ってバリエーションが色々と違う。一番穏やかなのが、七竃の枝で叩く…辺りか?取り換えられた妖精の子供に人間の両親が酷いことをすることで、妖精の親が人間は野蛮なことをする。と、取り換えた自分の子供を取り返し、人間の子供をその家に帰すとされている。首を切るというバージョンも、どこかにはあるだろうよ」
「・・・」
「さて、次はどうする?どう動く?煮え湯か、煮えた油?いっそ、火刑にでもするか?全く、神の使徒というのも楽ではない。そう思わないか?」
薄暗い空間に、クスクスと嗤う声が響く。
「人間とは、本当に恐ろしいモノだよ」
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