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寂しかったら、身体で慰めてもらうのですか?

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「ごめんなさい、わたくし、この人を愛してしまったの。だから、あなたとは結婚できません」

 大切な話があるから、どうしても直接話したいのだと彼女に呼び出され、告げられたのが先程のセリフ。

 不本意な婚約を迫られている令嬢が、自身を守ってくれる護衛騎士と恋に落ちる、という話はよくある。如何にもな、お嬢さん達が好みそうな恋物語に。大衆演劇にもよくある、ありふれた話だと言えるだろう。

 ただ、それが俺自身の身に降り掛かるとは、全く想像もしていなかったが――――

「それで? 俺に君との婚約を解消しろ、と?」

 彼女は黙って俯いた。

「君の父上は了承しているのか?」

 俺と彼女の婚約は、彼女の家を立て直すためのもの。個人の感情は関係ない政略。

「ああ。彼女の父上も、承知の上だ。それに、彼女の腹には俺との子がいるんだ」

 告げられた言葉に、そうか……そういうことだったのか、と納得してしまった。

 元々、成り上がりの商家の入り婿として彼女の家に歓迎はされていなかった。

 婚約打診の段階で考えさせてほしいと言われ、『断るというのなら、別の相手を当たる』と父が言ったから、彼女の父としては苦渋の決断だったのかもしれない。

 うちとしては、彼女の家は爵位を手に入れるために条件のいい候補の一つ。

 断られれば、別の家に打診をするだけ。そう答えた父に、彼女の父は俺と彼女の婚約を了承した。俺の婿入りと、うちが彼女の家を支援することを条件にして。

「寂しかった、の……あなたは、仕事で忙しくして、わたくしのことなど見向きもしなかった」

 涙に濡れた瞳が、伏し目がちに俺を見やる。

「ああ。それで、悲しむ彼女を見兼ねた俺が、彼女を口説いて慰めた。だから、彼女は悪くない」
「お父様も、わたくしの気持ちを優先してくれるって。そう、言ってくれました」
「だから、頼む。彼女との婚約を解消してくれ!」
「ごめんなさい……」

 寂しかった、か。

 よく言えたものだな……と、呆れてしまう。

「質問なのだが、君達の言う『それ』は、愛なのだろうか?」

 俺は、目の前で肩を寄せて寄り添い合って座る二人へと質問した。

「なんだとっ? そもそもお前がっ! 彼女に寂しい思いをさせて傷付けたのが悪いんだろうがっ!?」
「やめてっ!? わたくしが悪いのです! わたくしが、この人を愛してしまったからっ……」
「いや、あなたはなにも悪くない」

 俺の質問に声を荒げる男と、顔を覆う女。そして、その女を慰めるように抱き寄せ、俺を強く睨み付ける男。

 なんとも馬鹿馬鹿しい茶番。そう思ってしまうのは、俺の性格が悪いからだろうか?

 寂しいもなにも、俺との交流を望まなかった……いや、拒んでいたのは彼女の方だと思うのだが? 彼女は自分が金で買われたと不満に思い、商人風情と俺を見下していた。

 りとて、俺や親父が手配し、支援することで持ち直した生活を享受していた。

 それでいて、寂しいとは笑わせてくれる。

「寂しかったら、身体で慰めてもらうのですか? 貴族令嬢が?」

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