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第一章 悠也との日々
2 セミとり
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翌日、母親に叩き起こされると、外はもう真っ昼間だった。
「楓、いつまで寝てるの!悠也くん来てるわよ」
その言葉にがばっと飛び起きる。急いで玄関に向かうと、満面の笑みの悠也がそこにいた。
「よっ、セミつかまえに行かね?」
ガキか。慌ててランニングシャツの上から羽織った上着が、左肩からずり落ちた。
「…迷惑だった?いきなり家に来たの」
適当に外着用の半袖シャツに着替え、運動靴をつっかけながらバタバタと家の外に出ると、悠也が不安そうな顔で俺を見てきた。
「別にそんなことねーけど」
俺は思わず早口でつぶやく。
「よかった」
悠也はぱっと顔をほころばせた。
「やっぱかえでと一緒に遊びたくてさ」
「お前、他にも友達いるだろうが」
「いいや、セミとりはかえでとがいい!」
そんな嬉しそうな、甘えるような声音は反則だろ。がっくりと肩の力が抜けて反発する気も失せてしまう。
「なんで俺となの」
そうぽつりと尋ねると、悠也はキョトンとして目をぱちくりさせた。
「なんでぇって…昔はこうやってよく一緒に遊んでたじゃん」
「そりゃそうだけどさ」
だからって、昔と今は違うだろ。俺はお前からずっと逃げてきたのに。
「かえでが帰ってきたら、久々にこうやって遊びたいなぁって思ってたんだよ」
こっちの気も知らずに嬉しそうにそう話すものだから、息がつまる。
「…物好きなやつ」
ぼそりとつぶやくと、いたずらっぽい笑みをうかべて肘で俺をつついてきた。
本当にこいつ、全然変わらないんだな。安心して悠也の優しさに甘えるのはずるいとわかっている。それなのに今こうしてあの頃と変わらず普通に話せることに、ほっと胸をなでおろす自分がいた。このままただ一緒に、昔と同じように馬鹿みたいに笑って過ごしたい。それじゃダメなのに。
あーあ、悠也がすきだ。
いつまでこの気持ちをぶらさげたまま、俺はこいつのそばにいるんだろう。こんな感情消えてなくなってしまえばよかった。それでも今はもう少しだけ、離れたくない。悠也が俺に屈託もなく伸ばしてくれる手に触れていたい。
俺は悠也に気づかれないように、靴紐を結び直す素振りをしながら、そっと小さなためいきをもらした。俺がかがんでいる間、悠也は少し先で立ち止まって、何も言わず待ってくれていた。
「お待たせ!」
勢いよく立ち上がって悠也のもとへと駆けだす。悠也はかぶりを振って、にっと笑いながら虫取り網を軽く振った。
嫌われることをずっと恐れていて、でもただの友達だと言うのなら、こんなふうに変わらず笑って優しくしてくれるなんて悠也はずるい。行き場のない思いをぶつけるように、道の端の小さな石ころを蹴飛ばすと、少し先の坂道まで転がり落ちていった。
「な、競争する?あの電柱のとこまで」
目を細めてそう話す悠也の顔は、なんだか綺麗だ。
「ばーか」
気だるげな顔で首を振り平静を装う。
「よし、いちについて」
「っておい!」
だっと勢いよく駆けだした悠也の背中を思わず追いかける。ああ、何やってんだ。ぎゅっと胸の奥が痛むのを気づかないふりして、ひたすらに走った。
「楓、いつまで寝てるの!悠也くん来てるわよ」
その言葉にがばっと飛び起きる。急いで玄関に向かうと、満面の笑みの悠也がそこにいた。
「よっ、セミつかまえに行かね?」
ガキか。慌ててランニングシャツの上から羽織った上着が、左肩からずり落ちた。
「…迷惑だった?いきなり家に来たの」
適当に外着用の半袖シャツに着替え、運動靴をつっかけながらバタバタと家の外に出ると、悠也が不安そうな顔で俺を見てきた。
「別にそんなことねーけど」
俺は思わず早口でつぶやく。
「よかった」
悠也はぱっと顔をほころばせた。
「やっぱかえでと一緒に遊びたくてさ」
「お前、他にも友達いるだろうが」
「いいや、セミとりはかえでとがいい!」
そんな嬉しそうな、甘えるような声音は反則だろ。がっくりと肩の力が抜けて反発する気も失せてしまう。
「なんで俺となの」
そうぽつりと尋ねると、悠也はキョトンとして目をぱちくりさせた。
「なんでぇって…昔はこうやってよく一緒に遊んでたじゃん」
「そりゃそうだけどさ」
だからって、昔と今は違うだろ。俺はお前からずっと逃げてきたのに。
「かえでが帰ってきたら、久々にこうやって遊びたいなぁって思ってたんだよ」
こっちの気も知らずに嬉しそうにそう話すものだから、息がつまる。
「…物好きなやつ」
ぼそりとつぶやくと、いたずらっぽい笑みをうかべて肘で俺をつついてきた。
本当にこいつ、全然変わらないんだな。安心して悠也の優しさに甘えるのはずるいとわかっている。それなのに今こうしてあの頃と変わらず普通に話せることに、ほっと胸をなでおろす自分がいた。このままただ一緒に、昔と同じように馬鹿みたいに笑って過ごしたい。それじゃダメなのに。
あーあ、悠也がすきだ。
いつまでこの気持ちをぶらさげたまま、俺はこいつのそばにいるんだろう。こんな感情消えてなくなってしまえばよかった。それでも今はもう少しだけ、離れたくない。悠也が俺に屈託もなく伸ばしてくれる手に触れていたい。
俺は悠也に気づかれないように、靴紐を結び直す素振りをしながら、そっと小さなためいきをもらした。俺がかがんでいる間、悠也は少し先で立ち止まって、何も言わず待ってくれていた。
「お待たせ!」
勢いよく立ち上がって悠也のもとへと駆けだす。悠也はかぶりを振って、にっと笑いながら虫取り網を軽く振った。
嫌われることをずっと恐れていて、でもただの友達だと言うのなら、こんなふうに変わらず笑って優しくしてくれるなんて悠也はずるい。行き場のない思いをぶつけるように、道の端の小さな石ころを蹴飛ばすと、少し先の坂道まで転がり落ちていった。
「な、競争する?あの電柱のとこまで」
目を細めてそう話す悠也の顔は、なんだか綺麗だ。
「ばーか」
気だるげな顔で首を振り平静を装う。
「よし、いちについて」
「っておい!」
だっと勢いよく駆けだした悠也の背中を思わず追いかける。ああ、何やってんだ。ぎゅっと胸の奥が痛むのを気づかないふりして、ひたすらに走った。
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