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最終章 夜明けのゆびきり
2 約束
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結局俺たちは、次の電車が来るまで座っていろんな話をした。
悠也に「東京のゲーセンを案内する約束も絶対果たせよ」とちょっと怒られた。
「休みには、俺もちゃんとこっちに帰ってくるから」
ぽりぽりと頭の後ろを掻きながらそう言うと、悠也は「絶対な」と笑いながら、俺の肩をとん、と突っついて笑ってきた。それから大学を卒業する時は一緒にお祝いをしよう、とも約束した。
二人で話す一時間はあっという間で、次の電車が到着したときに、もうそんな時間なのかと名残惜しく感じた。悠也は「見送る」と言って、ベンチから立ち上がった。
「じゃあ、いくな」
スーツケースを持ち上げて、電車に乗り込む。
「かえで!」
扉の目の前まで一緒に来てくれた悠也が俺を呼び止める声に振り返る。心もとないような顔で言い淀んでいる様子を見たら、急に寂しさが胸に溢れそうだ。
「気をつけてな。あと、風邪ひくなよ」
いや、親戚のばあちゃんか。
電車のベルが鳴る中、悠也がわたわたとそんななことを真面目な顔して言うものだから、俺は頬が緩んでしまい、笑いを抑えるように口元に手を当てた。
「うん、 いってきます」
扉が閉まると、悠也は手を振り続けながら走って、ホームの端まで追いかけてきた。ぶんぶんと腕を振って、少し寂しそうに懸命に見送ってくれる姿が遠ざかっていく。
「…ッ悠也ぁ!」
俺は思わず必死に叫んだ。
「帰ってくるから、絶対!」
扉越しなんだからきっと聞こえるわけないのに、ホームの端まで駆けてきた悠也がふにゃっと無邪気な顔で笑った。ホームがどんどん遠ざかっていく。悠也が小さくなっていく身体を届かせるように精一杯手を振り続け、かすかにうなずくように首を縦に振るのが見えた。
悠也の姿と慣れ親しんだ駅はあっという間に見えなくなって、窓の外にはだだっ広い田んぼと畑ばかりがあたり一面に広がっている。初めて、今まで見慣れたはずのその風景を綺麗だと思った。 だんだんと明けて澄んだやさしい色へと変わっていく空と、くすぐったいような日差しの弾ける大地が、ゆったりと窓の外を流れていく。電車の中にまで差しこんでくる日の光に、俺は目を細めた。
全部エゴだと思った、苦しみの数々は一生こびりついて消えてくれないんじゃないかって。臆病で情けなくて、もう何もかも失ってどこにも居場所はない、そう思っていたのに。
まぶたの裏に悠也のとびきりやさしい顔が煌めいて、抱きしめてくれた温かさがじんわりと残っていて、それだけで胸がひりひりと音を立て、ぬくもりが心を駆け巡っていく。
景色が滲んでいくのをごまかすように、目をこすりながら座席に腰をおろした。
眩しくてあったかい、同時に爽やかに肌に纏う涼しい空気が、季節が変わろうとしていることを教える。また秋がくるんだな、とぼんやり思いながら俺はのけぞるように、窓辺にもたれかかった。
眠ろう、と思ったけれど、悠也のぬくもりがずっと身体中をぽかぽかと灯すように残っていて、胸につきあげる愛おしさは、しばらく俺を離してくれそうになかった。
がらにもなく手紙でも書くか、なんて思いながら俺は瞼を閉じる。
拝啓、悠也さま、お元気ですか?
…いや、さすがにかたすぎんだろ、それは。ふわっと一人でに微笑んで、悠也へ何を綴ろうか、と考えるうちにいつしか俺はとろとろと心地よい眠気に包まれていった。
悠也に「東京のゲーセンを案内する約束も絶対果たせよ」とちょっと怒られた。
「休みには、俺もちゃんとこっちに帰ってくるから」
ぽりぽりと頭の後ろを掻きながらそう言うと、悠也は「絶対な」と笑いながら、俺の肩をとん、と突っついて笑ってきた。それから大学を卒業する時は一緒にお祝いをしよう、とも約束した。
二人で話す一時間はあっという間で、次の電車が到着したときに、もうそんな時間なのかと名残惜しく感じた。悠也は「見送る」と言って、ベンチから立ち上がった。
「じゃあ、いくな」
スーツケースを持ち上げて、電車に乗り込む。
「かえで!」
扉の目の前まで一緒に来てくれた悠也が俺を呼び止める声に振り返る。心もとないような顔で言い淀んでいる様子を見たら、急に寂しさが胸に溢れそうだ。
「気をつけてな。あと、風邪ひくなよ」
いや、親戚のばあちゃんか。
電車のベルが鳴る中、悠也がわたわたとそんななことを真面目な顔して言うものだから、俺は頬が緩んでしまい、笑いを抑えるように口元に手を当てた。
「うん、 いってきます」
扉が閉まると、悠也は手を振り続けながら走って、ホームの端まで追いかけてきた。ぶんぶんと腕を振って、少し寂しそうに懸命に見送ってくれる姿が遠ざかっていく。
「…ッ悠也ぁ!」
俺は思わず必死に叫んだ。
「帰ってくるから、絶対!」
扉越しなんだからきっと聞こえるわけないのに、ホームの端まで駆けてきた悠也がふにゃっと無邪気な顔で笑った。ホームがどんどん遠ざかっていく。悠也が小さくなっていく身体を届かせるように精一杯手を振り続け、かすかにうなずくように首を縦に振るのが見えた。
悠也の姿と慣れ親しんだ駅はあっという間に見えなくなって、窓の外にはだだっ広い田んぼと畑ばかりがあたり一面に広がっている。初めて、今まで見慣れたはずのその風景を綺麗だと思った。 だんだんと明けて澄んだやさしい色へと変わっていく空と、くすぐったいような日差しの弾ける大地が、ゆったりと窓の外を流れていく。電車の中にまで差しこんでくる日の光に、俺は目を細めた。
全部エゴだと思った、苦しみの数々は一生こびりついて消えてくれないんじゃないかって。臆病で情けなくて、もう何もかも失ってどこにも居場所はない、そう思っていたのに。
まぶたの裏に悠也のとびきりやさしい顔が煌めいて、抱きしめてくれた温かさがじんわりと残っていて、それだけで胸がひりひりと音を立て、ぬくもりが心を駆け巡っていく。
景色が滲んでいくのをごまかすように、目をこすりながら座席に腰をおろした。
眩しくてあったかい、同時に爽やかに肌に纏う涼しい空気が、季節が変わろうとしていることを教える。また秋がくるんだな、とぼんやり思いながら俺はのけぞるように、窓辺にもたれかかった。
眠ろう、と思ったけれど、悠也のぬくもりがずっと身体中をぽかぽかと灯すように残っていて、胸につきあげる愛おしさは、しばらく俺を離してくれそうになかった。
がらにもなく手紙でも書くか、なんて思いながら俺は瞼を閉じる。
拝啓、悠也さま、お元気ですか?
…いや、さすがにかたすぎんだろ、それは。ふわっと一人でに微笑んで、悠也へ何を綴ろうか、と考えるうちにいつしか俺はとろとろと心地よい眠気に包まれていった。
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