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【宿屋の店員さん】

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・【宿屋の店員さん】


 宿屋についた時はちょうど昼頃で、宿屋が比較的暇な時間帯なので、すぐさま僕とナッツさんは交渉を始めた。
「すみません。宿屋の店員さんの中で、勉強を教える先生をやってみてもいいと思う人はいませんか?」
 その僕の言葉をオウム返しするようにノノちゃんが、
「いませんかー!」
 と大きな声で喋った。
 するとシューカさんがやって来て、こう言った。
「いや宿屋の店員の総数が減るやないか! うちらは結構忙しいねん!」
 それに対してナッツさんが自信満々に、
「このノノちゃんがまず宿屋の店員さん見習いとして参加するので大丈夫です!」
 それにノノちゃんも胸を叩きながら、
「大丈夫です!」
 と叫んだ。
 シューカさんは一瞬う~んと唸ったが、すぐさま、
「いや、子供の頃から育てていくことは大切なことかもしれん。というか普通に店番ならしてくれるかもしれんわ。よっしゃ、じゃあノノちゃんを雇うのは絶対やるわ」
 その言葉にノノちゃんが嬉しそうにハシャいでから、
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
 と言ったのを見て、シューカさんは嬉しそうに、
「おっ! ちゃんと言葉遣いできとるやん! 即戦力や! 即戦力や!」
 と言ってから、すぐさま他の店員さんを呼んで、ノノちゃんに仕事のイロハを教えるように指示を出した。
 ノノちゃんはそのまま他の店員さんとバックヤードへ行った。
 さて、ここからが本番だ。
「シューカさん、僕とナッツさんで魔法を教える学校を作ろうと思っているんです。字や礼儀を覚えたりもしたいと思っています。その先生として、店員さんをやっている方々が適任だと思ったんです」
 すぐさまシューカさんの顔色とハートマークの色が変わった。
 透き通った色に変化したのだ。
 シューカさんは口を開いた。
「学校かぁ……ええなぁ、学校……アタシは前の世界では奴隷やったから学校なんて夢のまた夢やった……その分、この世界に来た時、すぐに文字を覚えたけどな。そうか、アタシが先生かぁ……」
「いやシューカさんじゃなくても大丈夫ではあるんですけども」
「いや文字を覚えてる店員は今のところアタシとムロちゃんとヒガくんとエイチちゃんだけや」
「結構いるじゃないですか」
 僕がすかさずツッコむと、シューカさんは首を優しく横に振って、
「先生やるんならアタシや、アタシが先生と言われる世界、それはもうゴールやん。1つのゴールやん。それ」
「じゃあシューカさんが先生をやって下さるんですか?」
「そうやな、やりたいのは山々やけども、アタシ、肝心の魔法が使えへんねん」
「それならナッツさん、まずはナッツさんの家にある適正を見る水晶で適性を見ましょう」
 すぐさまナッツさんは宿屋をあとにしながら、
「今、持ってくる! すり足で!」
 と言ったので、ギリギリもう聞こえるかどうか分からないけども、大きな声で、
「できればダッシュでお願いします!」
 とツッコんだ。
 するとシューカさんがこう言った。
「ええやん、ええツッコミするようになったやん。馴染んできたみたいやな、この世界に」
「そうですね。だいぶ喋れるようになってきました」
「タケルやったっけ? タケルは元の世界に本当に戻りたいんか?」
 そりゃそうです、と言おうと思ったのに、僕は何故か言葉が出なかった。
 腕のカウンターを見る。
 カウンターは既に半分を越えていた。
 もう折り返し地点は越えていた。
 じゃあ思ったよりも早く戻れるかもしれない。
 でも、でも、僕は、と思ったところで、シューカさんが笑いながら、でも申し訳無さそうに、
「いや! イジワルな質問だったかもしれん! スマンな! まあいろいろ考えてみるといいで!」
 そんなところでナッツさんが戻ってきて、ナッツさんが本気で移動すると本当に速いなと思った。
 ヘッドフォンみたいなモノが繋がった水晶を持ってきて、ナッツさんはこう言った。
「この部分を頭に装着して5分待てばこの水晶に自分の得意な魔法が分かるようになります!」
 と言ったところでシューカさんがめちゃくちゃデカい声で、
「いやそんなんあるなら全員に開放せぇやぁぁぁああああああああああ!」
 とツッコんだ。
 いや確かに、でも学校が始まったら、そうしようと思っていたけども、確かにそうだ。
 もっと早くていい。
 今は教科書が先で、とか考えていたら遅くなってしまった。
 シューカさんはすぐさま装着し、水晶にはキラキラと輝く緑色の光が移った。
 それを見たナッツさんは「わっ!」と驚いた。
 何なんだろうと思っていると、ナッツさんが興奮気味にこう言った。
「これ! 回復魔法です! 数少ない回復魔法ですよ!」
「えっ? 貴重なんっ? というかやったわぁ! 嬉しいわぁ!」
 シューカさんはブイサインをした、と思ったらすぐさま考え込むポーズをしたので、
「シューカさん、どうかしたんですか?」
「いやアタシがマッサージしたあと、みんなやけに気持ちが良いとか、むしろ治ったとか言っとったけども、もしかするとアタシ、無意識に使ってたかもしれんわ」
 その時、僕はとある言葉が浮かんだので、言ってみることにした。
「魔法って念じると強く使えるような気がするので、シューカさんは一生懸命治したい治したいと思ってマッサージしていたんですね」
「そりゃそうや、どうせなら役立ってほしいやん、アタシのマッサージが」
「そして今、自分の魔法を知って、自分の特性を意識したのならば、きっともっと強く魔法が使えると思いますよ」
「確かに、自分の特性を意識したほうが、より強く何かやれるかもしれんわ。よっしゃ、誰か、誰か、ケガしとるヤツはおらんかっ?」
 そう言いながら周りをキョロキョロし始めたシューカさんに、ナッツさんが、
「ちょうど今、風魔法で移動する時に、急ぎ過ぎて少し足首を痛めたので、お願いします!」
 ナッツさん、そんな急がなくてもいいのにと思いつつも、ちょうどいいと言えばちょうどいい。
 シューカさんは深呼吸をしてから、気合いを入れた。
 僕は言う。
「多分マッサージの時も手を使っていたと思うので、シューカさんは手で直接患部を触る時が一番力が出ると思います」
「そうやな! 何か魔法の杖無いか探してもうたわ!」
 それに対してナッツさんが、
「魔法の杖は魔力が少ない人や楽に魔法を使いたい人が魔力を増幅させるために使うモノなので、手で直接いけるのならば、それが一番いいと思います!」
「じゃあいくで!」
 シューカさんがナッツさんの足首を優しく撫でたその時だった。
「すごい! 治りました! 痛くない! もう何も怖くない!」
 僕はすかさず、
「いや怖さは大切な感情なのでちゃんと持って行動したほうがいいですよ!」
 とツッコみ、またシューカさんは、
「やったで! 魔法使えたぁ!」
 と叫んだ。
 というか
「厳密には使えていたんですね」
「いやちゃう! 意識的に使った感覚があるで! これならホンマに魔法を教える先生になれそうや!」
「それではシューカさん、学校の先生をよろしくお願いします」
「ええで! 魔法も礼儀も文字も何だって教えたるで!」
 これで先生問題もクリアした。
 その直後に、ユラシさんへ会いに行くと、教科書も完成し、その教科書をまたシューカさんのところへ持っていった。
 そこから僕とナッツさんとシューカさんで打ち合わせ。
 さらに学校を始めるという知らせをクラッチさんに伝え、クラッチさんが大勢の方々にそのことを伝えて下さった。
 さぁ! ついに学校が始まる!
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