異世界ツッコミファンタジー

青西瓜

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【作戦決行】

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・【作戦決行】


 まずは服に”文字”と書かれた服を着て、僕が山賊達が立て籠もる学校の中に、食べ物を持って入っていった。
 入ってすぐに山賊が僕へ向かって、こう言った。
「毎回言ってるけども、変な真似をするなよ。人質に命の保証は無いからな」
 僕はあえて山賊全員に”文字”と書かれた服を見せた。
 でも誰も山賊のハートマークに怪しい変化は無い。
 次は人質のシューカさんや子供にこの”文字”と書かれた服を見せると、シューカさんや何人かの子供のハートマークに変化が見られた。
 どうやら勘の良い人は、服に文字を書いてくるということが分かったらしい。
 僕はできるだけ自然に、山賊達にこう言ってみた。
「このカッコイイ・デザインの服も金品の中に入れましょうか?」
 すると山賊達は大笑いしながら、
「それの何がカッコイイんだよ! 何か訳の分からない、ミミズが張ったよう模様が気持ち悪いわ!」
 と口々に言った。
 どうやらこの”文字”を文字と認識していないらしい。
 ハートマークを見ても、自分達が優位に立っている時の色をしている。
 誰も疑っていない。
 よしっ、この服に文字作戦は使える。
 次の昼の食事の時に”笛・合図”という文字を書いた服で、僕はまた食べ物を持って入った。
 山賊達は僕を見るなり、すぐさま笑った。
「また気持ち悪い模様の服着てきたよ! 流行ってんのか! ダセェ!」
 しかしシューカさんや子供の様子は全く違う。
 今まで完全に闇のように暗かったハートマークに火が灯った。
 最後の夜の食事の時に”水・息・止める”という文字を書いた服で、またまた僕は食べ物を持って入った。
 相変わらず山賊達は笑うだけ。
 でもシューカさんや子供のハートマークの色も何だか笑っているようだった。
 作戦決行。
 山賊達は火以外に光る石、光石などで夜は過ごすが、むしろそれが好都合だ。
 山賊達は自分達のほうにしか光石を置いていないので、狙いを定めることは余裕である。
 さぁ、と、クラッチさんが笛を吹いた。
 その合図と共にユラシさんが学校全体を水で覆った。
 きっとシューカさんと子供は息を止めていてくれているはず。
 水を解除した瞬間にダダさんと、人質を守るためにナッツさんやグルーさんたち若者衆が突入した。
 僕は戦闘能力が皆無なので、ただただ祈った。
 作戦が上手くいきますように。
 結果は大成功。
 山賊達の首から下を氷で固めて、動けなくして、見事勝利したのであった。
 山賊達は街から少し遠くにある大都会の牢獄に入れられることになり、そっちへ送り届けた。
 そして僕たちがすぐさま始めたこと。
 それは強固な軍隊作りだった。
 ただただ喧嘩し合ってはシューカさんに体を治してもらっていた、バトル体質の若者衆を軍隊とし、また街の周りに土の城壁を立てた。
 全てのことが終わった、と思った時、僕の腕のカウンターは残り1回で1万回になっていた。
 そうか、もうそろそろ僕はこの異世界から元の世界へ戻れるんだ。
 元の世界に戻れば僕は安全に、軍隊とは無縁の世界に戻ることができる。
 でも何でだろう、何でこんなに胸の動悸が止まらないのだろう。
 僕は本当に元の世界に戻りたいのだろうか。
 そんなある日、ナッツさんの両親が長旅から帰って来た。
 ナッツさんの両親は変わりに変わったこの村、いや街を見て愕然とし、またここで合ってるかどうか一瞬迷ったらしい。
 ナッツさんはパパにもママにも抱きつき、久しぶりに家族水入らずの生活をしてもらうために、僕は宿屋に泊まることにした。
 そこで夜、僕はシューカさんにロビーへ呼び出された。
「おうタケル! あの奇襲作戦アンタの発案らしいな! 助かったで!」
 満面の笑みで僕に手を振るシューカさん。
 僕は促されるまま、ロビーのソファーに座った。
 シューカさんは続ける。
「ホンマええ男やっちゃなぁ、タケルは。どや? このままこの世界におるのはどうや?」
 僕は一気に確信を突かれたように、胸のドクドクが止まらなくなった。
 いや確信をハッキリと突かれたんだ。
 僕はこの世界が好きだ。大好きだ。
 しっかり自主的に喋られるようになって、自分の意見を言える、その意見を実行できる。
 きっとこの世界の僕のほうが元の世界の僕よりも、大きな仕事を成し遂げられるような気がする。
 でも、でもだ、僕はパパやママに逢いたい。
 テレビの仕事だって本当はしてみたい。
 この世界にはテレビが無いし、きっとテレビができることも無いだろう。
 だから、いや、でも、違う、元の世界にナッツさんはいない。
 ナッツさんは大切な存在だ。
 ずっと僕のためにいろんなことをして下さって、楽しくボケてくれて、感謝しきれない。
 ナッツさんと同じ世界にいたい。
 でもパパやママも大切だ。
 ナッツさんもパパとママに会った時、すごく嬉しそうな顔をしていた。
 それを見て一気にパパとママが恋しくなったんだ。
 それに、ハキハキと喋られるようになった僕をパパやママに見てほしい。
 一体僕はどうしたらいいんだろうか。
「悩んでいるやろ。まあ元の世界に戻ったらそれっきりやからなぁ」
「やっぱりそうなんですね……」
「アタシはほら、奴隷やったから何の未練も無かったんやけども、仮にアタシを扱っていた貴族連中ならすぐ元の世界に戻ったやろうなぁ」
 シューカさんとは、結局ほぼ夜通しこの世界と元の世界について喋った。
 シューカさんは僕の意見を尊重しているという感じで喋っていたが、ハートマークを見れば一目瞭然だった。
 『自分の思った通りにすればいい』と言った時はハートマークが濁って『この世界はええでぇ』と言えばハートマークが輝き、どう見ても僕にこの世界に居てほしそうだった。
 こんなに人に居てほしいなんて言われたことは無かったから、僕は、僕は、僕は。
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