ボケまみれ

青西瓜

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【優等生による普通のボケ 梶木川涼】

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・【優等生による普通のボケ 梶木川涼】


 今日は鼓笛隊の音も無く、普通に登校できた僕と啓太。
 ただ校門の前には、明らかにこちらを見る、生徒がいた。
 いやでも、多分啓太のことを待っている人ではないだろう。
 何故なら校門の前で立っている梶木川涼くんは学校一の優等生でお笑いというか漫才大会には興味が無いだろうから。
 ……あれ、でも、何か、最初に啓太を取り囲んだ時、いたような、でもいなかったような、いやいたという話も一回出たような、と思いながら近くを通り過ぎようとした時だった。
「啓太くん、駿くん、待ってくれ。今日はボクの日だ」
 えっ……まさか本当に梶木川涼くんが啓太の相方候補なんて……そんなことあるんだ……。
 僕はビックリしたまま固まっていると、啓太が淡々と、
「確か、涼だよな。そうか、オマエも漫才大会出たいんだな」
「うん、ボクには叶えたい願いがあるからね」
「それ以上にお笑いが好きじゃないと、漫才大会で勝てないけどな」
「そこは大丈夫、ボクだってお笑いは大好きだからね、あれくらい、ほら、あの、えっと、あれ、あれ、あれ」
 急に言葉が出なくなった梶木川涼くん。
 僕は正直度肝を抜かれてしまった。
 何故なら梶木川涼くんは頭脳明晰の秀才で、言葉が出なくなるなんてこと今まで一切見たこと無かったからだ。
 学校集会では小学六年生を差し置いて、必ず毎回出番があり、淀みなく喋るその姿にはファンも多いのに。
 もしかすると啓太の前で緊張しているのか、とか思っていると、啓太が、
「いや全然言葉出なくなったな、どうしたんだよ」
 とボケにツッコむテンションでそう言ったので、いや本当に梶木川涼くんは詰まっているのでは、と思っていると、梶木川涼くんが、
「あぁ、あれだ、醤油とって」
 と言った時に僕はハッとした。
 これボケだったんだ、って。
 ボケの前振りだったんだ、と。
 というか梶木川涼くんがボケる姿なんて全然想像できなかったから、マジで詰まっているんだと思ったら、ちゃんとボケだったんだ。
 啓太はそのボケに対して淡々と、
「いや食卓囲んでないから、お笑い好きだから醤油とってって何だよ、天下とれよ」
「天下の前にまず王将だよね、中華料理屋さんだよね、だから醤油とって」
「何で頑なに醤油とってに繋げたいんだよ、醤油に強い魔力みたいなの無いから」
 しっかりボケ・ツッコミになっているやり取りに僕は何だか感心してしまうと、梶木川涼くんがこっちを見てから、
「駿くん、駿くんのほうが近そうだから醤油とって」
 と言ってきたので、僕も何か言わないとと思って、
「ドッグフードしかないですけども……」
 と言ってみると啓太がすかさず、
「いやドッグフードを食卓に並べるなよ、机の上にあげるなよ」
 さらに梶木川涼くんも、
「いやボケにボケを重ねないでよ! ちょっと! ……ちょっ! ちょっとぉ!」
 と言ったところで啓太が、
「いやマジで言葉が出なくなるのはやめろよ」
 僕も何か言葉が浮かんだので、
「言葉が出なくなるということは醤油ですね、醤油とりますね」
 と言ってみると、梶木川涼くんがアワアワし始めたので、大丈夫かなと思っていると、梶木川涼くんが、
「アワアワの時は泡ー!」
 と言ってから、持っていた水筒を取り出し、蓋に麦茶を移し替えてから飲み始めた。
 でも妙に泡立っている麦茶だなぁ、と思っていると、何故か少し甘い香りが漂った。
 それに啓太が間髪入れずツッコむ。
「いや水筒の中身、お茶じゃなくてコーラ入れてる。校則違反だろ」
「気付いたかい? ゲプゥー」
「いやもうモロゲップしちゃってるから。優等生が校則違反したらダメだろ」
「表向きは優等生だからバレないんだ。すごいでしょ!」
 そうえっへんと、偉そうなポーズをした梶木川涼くん。
 まさか、梶木川涼くんにこんな一面があるなんて、僕は知らなかった。
 梶木川涼くんは水筒を片付けてから、喋り始めた。
「今日はこの朝の時間に、一緒にグラウンドを散歩しながら、交流を深めようじゃないか」
 僕たちはランドセルを背負ったまま、グラウンドのほうへ歩き出した。
 この時間帯は周りに誰もいないので、僕たち三人だけだ。
 そこで梶木川涼くんはこう切り出した。
「ボクには野望があるんだ、ビール掛けというイベントを知っているかい?」
 啓太はすぐに、
「あれだろ、野球選手とかスポーツ選手が優勝した時にビールを喜びながら掛け合う謎イベントだろ」
 僕もうろ覚えながら、映像で見たことがある。
 わざわざゴーグルを付けて、目を守りながらビールを掛け合う謎のイベント。
 正直もったいないし、意味も分からないし、さらには、と僕は思ったことを言ってみた。
「ビール掛けをしたいという話ならば、小学生には無理だと思うよ。掛けるだけでも結局ちょっとは飲んじゃうと思うから」
 梶木川涼くんは大きく頷きながら、こう言った。
「まさしくそうだけども、じゃあノンアルコールビール掛けならどうかな?」
 不敵な笑みを浮かべて、こっちを見た梶木川涼くん。
 そこに啓太が語気を強めてツッコむ。
「だとしてもだろ! ノンアルコールはあくまでビールを嗜む大人用のヤツだから子供は扱っちゃダメだろ!」
 梶木川涼くんは優しく首を横に振って、
「いいや、理論上しても大丈夫なはずだ。ボクは炭酸というモノがとにかく好きで、炭酸の関わるイベントは全て経験したいんだ」
 何だかいいこと言っている風の表情をする梶木川涼くんだが、全然逞しい人生観を見せつけてきているわけではない。
 啓太はすぐさま、
「漫才大会優勝してそんなことしたいのかよ」
「いやこれはボクが趣味でいつかやることさ、漫才大会を優勝した時はもっと優等生っぽいヤツを考えているよ」
「じゃあ何だったんだよ、この話」
「ボクの壮大な計画に一枚噛ませてあげようと思ったんだけども、どうやら不発だったらしい」
 そう言って、やれやれみたいな顔をした梶木川涼くん。
 梶木川涼くんは品行方正な秀才だと思っていたのに、まさかこんな一面があるなんて。
 ちゃんと会話してみないと分からないなぁ、と思った。
 そしてホームルームまで5分前のチャイムが鳴ると、僕たちはそそくさと自分たちの教室へ戻った。
 やっぱりそこは真面目にやるんだなぁ、とか思いつつ、僕の一日が始まった。
 結局、梶木川涼くんが絡んできたのは、言った通りその朝だけで、ふと廊下に出た時に梶木川涼くんを見かけて、目で追ってみると、先生に何らかの指示を受けて一生懸命仕事をこなしていた。
 こんなに大変ならば、コーラくらい飲んでいたって別にいいなぁ、と思った。
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