今日も野草シェフは大変です

青西瓜

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ワガママなノエルちゃん

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・【ワガママなノエルちゃん】


「お菓子が無ぁぁぁぁいぃぃいいいいいいいい!」
 またこの発作か、と、教室のクラスメイトたちはもう慣れたもので。
 ノエルちゃんがこの加瀬小学校に転校してきて、二週間になる。
 確かに加瀬という地域はコンビニは勿論のこと、スーパーと呼べる場所も自動車で30分先にしかなく、とても不便な山の村だけども、そろそろ慣れてほしいと思うところもあって。
「何も無い! 何も無い! お腹すいたぁぁぁあああ!」
 そんな叫び散らしたほうがよりお腹がすくんじゃないかなと思うが、きっとノエルちゃんが今までいたところは、こうやって声を上げれば、誰か助けてくれるところだったんだろう。
 たとえば誰かがお菓子を持っていたり、じゃあ帰りに買い食いしようという話になったり、したのだろうなぁ。
「もう嫌だ! つらいよぉぉおおおおおおおおおお!」
 今にも泣き出しそうなノエルちゃん。
 ただ小学五年生にもなって、お腹がすきそうで泣き出すってどうなんだろう。
 そんなノエルちゃんにクラスのガキ大将、マサルが話し掛ける。
「ノエル、オマエ、俺様より給食おかわりしてんだから、もういいだろ」
 そう、恰幅がよく、身長も高いマサルよりも、このほっそりとした体型で身長も低いノエルちゃんのほうがよく食べるのだ。
 テレビやユーチューブで大食いの番組を見たことあるけども、まさにそれだ。
 サラサラ金髪のツインテールに青い瞳、話によると北欧出身のママと日本人のパパのハーフらしい。
 その整いすぎたお人形さんのような見た目で、もう、新型の掃除機かってくらい勢いでご飯を吸って食べるその姿は、まさに大食い番組のそれ。
「なぁ、ノエル、オマエんちデカいからさ、ご飯もいっぱい出るんだろ? 小学校にいる時くらい我慢しろよ、ハッキリ言ってうるさいぞ」
 家がデカいからご飯がいっぱい出る、の、理論は分からないが、確かにうるさいはうるさい。事実としてうるさい。
 でも。
「だってお腹すくんだもん……うわぁぁぁああああああん!」
 ついには泣き出してしまい、皆、耳を塞ぐ。
 いつもこんな調子だ。
 学校は勉強が苦手、運動が大変、人付き合いはどうしよう、の、三本柱に、さらに”ノエルちゃんうるさい”が加わわってしまった。
 いやまあ勉強や運動や人付き合いは、皆、得手不得手があるけども”ノエルちゃんうるさい”は全員それだ。
 だから何か対策を講じないといけない。
 否、ある。
 僕の中ではある。
 でも断られたり、気持ち悪がられたりしたら嫌だな、と思って、まだ行動に移せていない。
「なぁ、誠一、オマエの考え、俺が言ってきてやろうか?」
 紗英にだけは僕の考えを言ったり、相談したりしているので、知っている。
「誠一はここぞという時の勢いが足りないんだよな、俺がガツンと言ってきてやるって!」
 男勝りな紗英に頼ってばかりじゃダメなような気もするけども、やっぱりここは紗英に頼ることにした。
 なんといっても紗英は僕の”師匠”のような存在だから。
「紗英、よろしくお願いします……」
「よし! じゃあ善は急げだ! いくぞ!」
 そう言うと、紗英は、座っている僕の腕をグイっと掴み、僕を立たせて引っ張った。
「えっ? 僕もノエルちゃんのところまでいくのっ?」
「そりゃいくだろ! ノエルからしたら誠一って誰ってなるだろ! どう考えてもノエルはクラスメイトの名前覚えてないぜっ?」
 急な展開にドキドキしながら、僕と紗英はノエルちゃんの前に立った。
 急に現れた見慣れないクラスメイトにノエルちゃんは何を期待したのか、すぐに泣き止んで、こう言った。
「お菓子持ってるのぉぉおおおおおおっ? ちょうだぁぁぁああああああい!」
「いや、お菓子は持ってない」
 きっぱり言い切った紗英。
 それを聞いたノエルちゃんは机に突っ伏して、座りながらにズッコけた。
「何かある感じだったでしょうがぁぁぁあああああああああああ!」
 座りながらバタバタ体を揺らすノエルちゃん。
 いやイスや机揺らすくらい誰でもできるけども、何かパワーと勢いがすごいな。
 まるで爆弾だ。
 いや爆弾なんて見たことないけども。
「ノエル、よく聞け、今日からこの誠一が! オマエのために料理を作ってやる!」
 ついに紗英は言った。
 僕が考えていたことだ。
 ノエルちゃんの転校は急なことだった。
 ということは何らかの事情があって、こんな田舎にやって来たのだろう。
 友達もいないこんな田舎に……きっと不安で不安で仕方ないはず、じゃあ誰か助けないと、ということだ。
「料理っ? 食べ物くれるのっ? 嬉しい! ありがとう!」
 さっきまで悲しき顔で暴れていたことが嘘のように、晴れやかな笑顔になって、やけに背筋をシャキンと伸ばしたノエルちゃん。
「ただし! 誠一が作る料理は野草料理だっ!」
 紗英がビシッと指を差しながら、そう言った。
 そう、野草料理。
 僕が作る料理は専ら野草料理なのだ。
「……野草って何……お菓子関係ある……?」
「いやもうお菓子は真逆だ! 全然お菓子じゃない! 野良の野菜みたいなもんだ!」
 紗英は力強い語尾でそう言い放った。完全に放った。
 果たして、ノエルちゃんはどう答えるだろうか。
 ドキドキしながら返答を待っていると、
「お菓子がいい! でも無いなら野菜でもいい! 我慢する!」
 と答えたので、まあまあ大丈夫か、と思った。
「じゃあ誠一! 野草の説明カモン!」
 そう言いながら僕の肩を叩いた紗英。
 ここから僕の語りか……緊張するなぁ……でも、ちゃんと喋らないと!
 どうせ野草のことは僕よりもそもそも紗英のほうが知っているはずだから、ダメだったら助けてくれるさ!
「えっと、あの、道端に生えている草のことで……それを、あの、食べられるように調理するんだ……」
 心の中で大きな気合を入れたが、結果的には何かどんどん声が先細りになっていってしまったけども、聞こえたかな……。
「道端に、生えた、草?」
 あっ、どうやら聞こえているみたいだ。
 僕は小さく小刻みに頷くと、
「それ、大丈夫、なの……?」
 と、かなり不安げな返答がきたので、僕は堂々と、答えた。
「多分!」
 ……若干の沈黙。
 しまった、ここはちゃんと大丈夫とハッキリ言えば良かった。
 ”多分”という、かなり曖昧な言葉をデカい声で放ってしまった。
 う~、助けて~、と思いつつ、紗英のほうを見ると、親指を立ててグッドマークを出してくれた。
 いや、グッドでは無かっただろう。
 果たして、ノエルちゃんはどう思うか……。
 そしてノエルちゃんの口が開いた。
「信用できる!」
 えっ?
「ここで多分と言える人は信用できる! 絶対とか言う人は逆に怪しいもんね!」
 あっ、合ってた……高確率で失敗しそうな語句だったけども、運良くうまくいった……。
「じゃあ食材費はタダだ! やったぁっ! お金は払えないからどうしようと思っていたけども、それなら大丈夫だぁっ!」
 と両手を天に上げて喜ぶノエルちゃん。
 紗英が言った。
「調味料分のお金は掛かるけども、まあ学校のヤツ使うし、大丈夫だろ」
 何で一瞬不安になるようなことを言うんだ、とも思ったけども、紗英は言いたいことを言ってしまいたいほうの人だから仕方ないか。
 まあとにかく。
「じゃあ明日の放課後から、何か作ってあげられると思うから、そんなに大きな声で叫んじゃダメだよ」
 と僕が言うと、ノエルちゃんは、
「明日の二時限目の終わりから食べられるようにして!」
 と言った。
 う~ん、できるかな……と思いながら、悩んでいると、紗英がニヒルに笑いながら、
「余裕だ」
 と勝手に言い放った。
 さらに、
「俺と誠一のコンビでどんなに腹がすいていてもサバイバルしてやる!」
 と完全に言い切った。
 サバイバル。
 そう、紗英はサバイバルが好きだ。
 その紗英のサバイバル好きにつれられて、僕もサバイバルを学ぶようになった。
 まあ僕は専ら料理専門だけども。
「じゃあよろしくね! 誠一! えっと、そっちの男の子は……」
 と言いながらノエルちゃんに見られている紗英。
 あっ、紗英に男の子って言っちゃうのは……。
「男の子じゃない! 俺は女の子! 可愛くてカッコイイ女の子だろがぁっ!」
 とまるで怪獣のように口を広げながら叫んだ紗英。
 いやでも女の子なら一人称を”俺”じゃなくて”私”とかにすればいいのに……と言うことは勿論、禁句なんだけども。
「俺って言ってると、何か男の子みたいだよー」
 とケラケラ笑いながらそう言ったノエルちゃん。
 それに対して紗英は、
「それは! 俺の好きだろうがぁぁぁあああああ!」
 と大声を張り上げた。
 いやうるさっ。
 ノエルちゃんが静かになったら、紗英がうるさくなるパターンだった。
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