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自堕落な朝
しおりを挟む一人暮らしの部屋。
一人ベッドの上で横になるも、何かへの漠然とした不安で寝れなかった。眠れないからとスマホ見てたらいつのまにか夜が明けていた。徹夜明けの朝から散歩がてらコンビニで栄養ドリンクを買って、空きっ腹に流し込み倒れるようにベッドへダイブすると、そのまま気絶するように眠る。
明るいのは苦手だからいつもカーテンを閉めているため部屋は暗い。何故か暗い方が落ち着くし、一人の私には暗い方が似合ってると思う。
空腹を覚え目が覚める。ボーっとした頭のまま買い置きのカップラーメンにポットからお湯を注ぎ蓋を閉める。
熱湯3分。その間、寝惚けた頭で何をしていたか記憶にない。スマホは開いてた気がするけど何を見たかは記憶にはない。それでも特に問題はないか。
体感3分。そのタイミングで蓋を開け箸で軽く混ぜる。少し固いかな…と思ったが、まぁいいかと麺を啜り始める。
食べ終えると再び睡魔に襲われてベッドに沈む。
仕事を辞めて引き篭もったら、こんな生活を送るんだと漠然と考えていた。一人暮らしで誰の目を気にする必要もないし。
異世界に来て生活環境が変わってしまったが、自分が作る物が金になるとわかったし、これからは引き篭もり生活を……そう思っていた。
そう思っていたんだ。
◇◇◇
「レイさーん!おきてー!!」
「うぉっ!?」
部屋のドアが開き、宿屋の看板娘であるマリーちゃんが寝ているレイのお腹へと飛び乗ってきた。
「……マリーちゃん、私まだ寝てたのに……ヒドイ、酷すぎるよぅ」
「何言ってるの!もう、お日様出てきちゃったよ!早く起きなきゃ、ダメな大人になるってお母さん言ってたよ!」
「ゔっ……ダメな大人……」
マリーちゃんはレイの腹の上から勢いよく起き上がると、部屋の木窓を開けながら小さなお母さんのようにレイへと説教を始めた。レイは眠い目を擦りながらも上半身を起こしマリーちゃんの小言を右から左へと聞き流していた。
確かにここ数日、読書に夢中で部屋に引き篭もっていたが……。しかも昨夜も遅くまで読んでいたから眠気が……グゥ……
レイはベッドの上に行儀よく座ったまま、かくんと頭が落ち、その場でこくりこくりと眠っていた。
「レイちゃん!朝だよ!ごはんだってばー!」
それを見て、マリーちゃんがレイを揺り起こす。
「うぐ……うぅ……いいじゃん、特に用事がある訳でもないし」
「ダメ!そんなぐーたらしてると、牛さんみたくなっちゃうんだからね!」
(……こっちの世界にもいるんだ、牛)
実年齢では二回り以上も年が離れている少女に諭されている自分に気づき、レイは思わず笑いを溢した。
「下の食堂に朝ごはん用意してるから、早く顔洗って食べるのよ」
「……はい。起きます。ごめんなさい」
まだ小さなマリーちゃんにこう言われると、反論できない。
言われた通りに着替えて顔を洗い下へと降りると女将さんが笑いながら待っていてくれた。
「おはよう。やっと起きたのかい?さぁ、冷める前にご飯たべちゃいなさい」
「おはようございます。いただきます」
今日の朝食はパンとポタージュスープだった。温かいスープが寝起きの体を優しくじんわり暖めてくれるのが気持ちいい。
「ちゃんと食べないとおっきくなれないんだよ」
そう言いながらレイへとおかわり用のパンを持ってくるマリーちゃん。その様子を、奥から出てきたご主人が苦笑気味に見て、女将さんがニコニコしながら見守っている。
「今日はどうするんだい?」
「そうですね、冒険者ギルドへ行って依頼を受けてこようかと思います」
「そうかい。部屋でゴロゴロしっぱなしはダメだけど、冒険者ってのは危険な仕事だからね。無理はしないように元気に帰ってくるんだよ」
「はい、わかりました」
朝ごはんを食べ、自室に戻り装備を整える。部屋でのんびりできなかったが、なんだか悪い気はしない。
(家族ってこんなかんじなのかな)
孤児院育ちで親の愛を知らないレイは、マリーや女将さんの態度が鬱陶しくもあり、嬉しくもあり、恥ずかしくもあり……
(たまには、こんなのもいいかもね)
しかし、本格的にゴロゴロする生活を目指すとすると夢のマイホーム計画を考えないといけないかもな。
そんな事を考えながら部屋を出て一階に降りると、掃除をしていたのか箒を手にした女将さんが立っていた。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「いってきます」
(いってらっしゃいか……ふふっ)
玄関先で手を振る女将さんに手を振替しながら、レイは数日ぶりの冒険者ギルドへ向けて歩き始めた。
――そうして、また一日が始まる。
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