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7.仕事と食糧事情
しおりを挟む翌朝は早く起こされ、家を出て歩きながら果物を食べた。ヴィリが家の周りに生えてる魔物除けの草をむしってポケットに詰めてくれたので、なんとなく青臭い。けもの道を縦に並んで歩きつつ、外を出歩いてたときにこっちへきて良かったと思った。
ジーンズとスニーカーがありがたくって涙が出るぜ。豹は裸足で靴がない。靴がない状態で来てたら詰んでた。
ローガーがときどき振り向いて速度を落としてくれるのを申し訳ないと思いつつ、息を切らして歩いた。
「ここにいろ」
立ち止まったローガーがそう言って、袋から出した草の束に火をつけた。よく見ると鍾乳洞みたいに大きく盛り上がった土がある。開いてる小さな穴を少し広げて草束を押し込んだ。
「アリ塚だよ。ああやって燻して、動きを鈍らせてから壊して潰すんだ」
ヴィムが教えてくれた。
しばらく燻したあと、ハンマーで土の塊を割り、出てきた大きい蟻たちをすりつぶす。その次は蜂だった。同じように草で燻してからハンマーで蜂の巣を壊して、中の蜂を殺してく。外に飛んでる蜂がいるから、私は離れたところで虫よけ草を燻して待機した。
「蜂蜜はないの?」
「これだけだ」
小さい飴玉くらいの蜜入れを壊したローガーが、蜂蜜のついた指を差し出すので舐めた。薄くてちょっと苦い蜂蜜で、せっかくだけどあまり美味しくない。ローガーも自分の指を舐めて、あんま旨くねぇだろと笑った。
アリとハチは肉食だから、増えすぎると離れた村に広がって家畜に被害が出るらしい。その次はネズミみたいな小さい魔獣だった。地面に埋めたツボにエサを入れておいて、そこに落っこちて出られなくなったネズミをまた燻して潰す。他の魔獣のエサにならないように穴を掘って埋める作業を繰り返してる途中で、潰したネズミにハチが群がって運び出した。仕留めないのかと思ったら、ヴィリがそのあとをつけて行く。そうしてハチの巣を見つけて潰すのだとヴィムが説明してくれた。
堀った穴にツボを埋めて罠を仕掛け直す。
「土に埋めるだけだと死なないの?」
「土を掘れるから逃げられる」
ネズミは農作物を食べるから、森の外に出て行かないように駆除するらしい。
森を歩き回ってこれらの駆除作業を繰り返した。何か言わなくても役割分担でそれぞれ手際よく作業してる。こうやって3人でやってきたんだな~と長い月日を感じた。
でも、手作業で生き物をすりつぶすのはすごくしんどそう。私は見てるだけなのに気持ちがかなり疲弊した。先人たちが考えてこの方法で落ち着いてるんだろうけど、もっと効率の良い駆除方法がないものか。
酸っぱい実を見つけて嬉しそうに袋に入れてくれるヴィリは、そんなことを感じさせずにいてくれてホッとする。もうとっくに乗り越えてるのかもしれない。
お昼は犬みたいな魔獣を仕留めて、血抜きして内臓抜いて焼いたものだった。臭くて美味しくないので、酸っぱい実と一緒に食べた。結構マシになるなと思って食べてたら、酸っぱい匂いだけでも嫌だと言って遠巻きにされてしまう。
「魔獣は毎日仕留めるの?」
「魔獣はうじゃうじゃいるからな。旨くねぇけど」
臭み抜きしたらどうだろう。家帰ったらやってみるか。でも冬とかどうすんだろ。
「果物と草は? 一年中あるの? ない時期どうしてるの?」
「草は干して冬場に備えてる。でも俺たちは肉だけでもいいからなぁ。やっぱシュロは冬前に街に出すか?」
「一年って言っただろっ。もっと干しておけばいい。オレが採ってやる。オレたちが食わねぇ木の実もシュロは食うんだから、それ食えよ」
ローガーの言葉にヴィリが噛み付いた。どんな木の実があるのかな。というか、春までここにいなくてもいいってことか。
「春じゃなくても街に出れるの?」
「ムリじゃねぇけど行きかえり2週間かかるからな。1人減るとキツイ。春は足抜けの確認と装備の支給があるから全員必ず行くんだ。人間種がこんな手間かかるって知らなかったからなぁ」
ローガーが頭を掻いてぼやく。
たしかに、魔獣を仕留めるときも音を立てるからって、ローガーに抱きかかえられてたし、解体も見てるだけだったし、歩くの遅くてローガーたちの足を止めたし、草をかき分けたら手を切って薬ぬってもらったし、役にたつどころか邪魔ばっかりしてた。
「じゃあ明日から1人で果物探そうかな」
「絶対止めろ。その魔獣除けは弱いヤツにしか効かねぇ。俺たちがいるから襲われねぇけど、1人だと絶対やられる」
「じゃあ、1人で家にいても危ないってこと?」
「家には俺たちの匂いがついてるから大丈夫だ。家を壊すようなのはここらにいねぇ」
「オレが採ってくるって言ってるだろっ」
「ありがとヴィリ。じゃあ、家の周りに草植えて畑作ってみようかな。根がついたままの草をいくつか頼んでいい?」
「いいぞ。まかせとけ」
ヴィリがニパっと笑う。とにかく何かしてくれたいらしい。可愛いなぁ。
お昼ご飯のあとも、駆除しつつ草や果物を採って家に帰った。
臭みをどうにかしようと、切ったお肉を水に晒してから香草を揉み込み、しばらく置いた。酸っぱい果物を潰して漬けようとしたら、ヴィリに食えなくなる! と大反対されたので自分の分だけやってみる。火を通したら飛ぶと思うんだけど。猫って酸っぱいモノ嫌いだよね~。
「どお?」
「いつもより旨い!」
ヴィリは口いっぱいに頬張って嬉しそうだ。
自分でも香草漬けは臭みが薄れて食べやすくなったと思う。私的には果物漬けのほうが美味しく感じる。酸っぱくはないけど風味が残ってるから、どうだろ。
「こっちも食べてみて」
「イヤだ」
「ヴィムは?」
「一口だけ」
ヴィムは怖々と一齧りして、首をかしげながらモグモグ食べた。
「酸っぱくない」
「うん、火を通したらだいぶ抜けるんだよ。どっちが好き?」
「うーん、慣れてるから草のほうがいいかな」
「そっか。ローガーも味見してみる?」
「ああ」
ローガーに串を手渡したら、大きい口で一切れ食べた。
「まあまあいける。うん、でも草のほうがいいな。旨くなったし」
そう言って串を返してくれた。
私が食べたいときに作ればいいか。干し果物とか干し肉とか作ってみるかと、考えながら食事を終えた。
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